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松嶋菜々子に見る、トレンド女優からの“理想的な脱却” 多彩なキャラ演じても“女優の価値”キープする理由
松嶋菜々子 (C)ORICON NewS inc.
CM「キレイなおねえさん」で男性陣を魅了、Jホラーブームにも貢献…物語に深みが増す役への強烈な“こだわり”
それからの人気はますますうなぎ登りで、映画『リング』(98年)やドラマ『GTO』(98年)、『やまとなでしこ』(00年)、『救命病棟24時』(05年)など、次々とヒットを連発。そんな彼女を“美人でお芝居の上手な女優さん”というイメージからガラリと変える転機となったのは、38歳のときに演じたドラマ『家政婦のミタ』(11年)の三田役だろう。無表情でミステリアス。受けた指示のためには何をやりだすかわからないある種の怖さをまとった独特の役柄で、視聴者をくぎ付けに。最終回は視聴率40%(平均、関東地区/ビデオリサーチ)の記録的な数字をたたき出し、今なおレジェンドドラマとして語り継がれている。
主演もクセのある脇役もこなし、次々と作品をヒットに導いていく。そんな松嶋の魅力は、画面から伝わる「説得力」ではないか。「自分じゃなくてもいいという役柄、お芝居はやらない方なんですよ」と、長年撮影現場で松嶋を見てきたメディア研究家の衣輪晋一氏は語る。
「松嶋さんは台本の内容、監督からの指示について、ご自身の理解が及ばない場合は徹底的に質問される方。過去のインタビューで『ただ台本を読み上げるだけなのは、分かったつもりで演じることになるので偽り=嘘になってしまう』とも語っていましたが、“嘘”のないキャラクターを自身の演技によって顕現させたいというこだわりが強い。ゆえに現場でも松嶋さんが現れると、取材陣ですらピリッと引き締まります」
どんな“変人”に見えるキャラクターでも、松嶋が演じることでリアリティが増し、キャラクターの切実さも伝わる。物語に深みが増すのは彼女のその“こだわり”が功を奏したからではないだろうか。
過去のイメージと如何に向き合う? 「万人の期待に応えない」姿勢が女優としての幅の広がりに
キャリアを積んだ女優にとってイメージが定着するということは、演者としては武器になる。だが一方で、“役の幅が狭まる”という諸刃の剣にもなってしまう。そんな中、キャリアを重ねた女優にもかかわらず新鮮という感想が多く見られるのは、俳優冥利に尽きる言葉だろうし、また世間から飽きられないことにもつながるはずだ。
2013年のORICON NEWSでのインタビューで、役のオファーを受ける基準について、「これまでと違う役という意識はしていないですね。今は、20代の頃のように『この作品いいな、この役いいな』と思った仕事をすべてお受けすることはできないので、いろいろな事情を加味しながら、その中で自分ができる作品を決めています。この期間ならできる…という、自分と作品のスケジュールがマッチしたものを運命の作品だと思ってお受けしたこともありますね」と、語っている。つまり、あくまで彼女が向き合うのは作品であり、役柄なのだ。
さらに前述の衣輪氏は、松嶋の仕事への向き合い方について、次のように語る。
「多くのベテラン俳優さんがおっしゃるのですが、松嶋さんもファン全員へ向けてお芝居をすることはしない印象。実際、『万人の期待に応えようとするのは難しい』と話しており、まずは共演者やスタッフ、クライアントに納得・満足してもらう仕事を心掛けてらっしゃる印象です。つまり“八方美人”ではない。世間からの自身のイメージと、お芝居=お仕事を上手く切り離している女優さんだと言えるのではないでしょうか」
キャリアを積むなかで結婚、出産も経験。自身の年齢と重ねながら年相応の役を演じ、なおかつそこに違和感を抱かせない。
「これから人気を集めて露出を増やしたい、と考える俳優がもっとも陥りやすい落とし穴は、意識が現場ではなく、カメラの向こうの観客にアピールをしてしまうこと。そうならないのが、“役としてそこに生きる”を徹底してきた松嶋さんだからこその説得力でしょう」(衣輪氏)
“完璧な容姿”があるからこそ奇抜な役でギャップを生む…私生活を切り売りせず“幻想”を維持する数少ない女優に
どんなに美しい女優でも、なかなか思うように立ち行かない今の時代。親近感を持ってもらい、考えや思いをSNSで発信する女優はますます増えている。しかし松嶋は、バラエティ番組に積極的に出演しているわけではなく、SNSも行っていない。プライベートを明かすことは極めて少なく、どこかミステリアスな雰囲気も漂わせている。ゆえに演じている役柄以外のイメージがチラついて作品を邪魔することなく、また前作の役柄のイメージを引きずることなく、新たに演じた時点で払拭されてしまう。
「松嶋さんは1994年、『とんねるずのみなさんのおかげです』でのコントコーナー『近未来警察072』シリーズに、ナナ隊員役で出演していました。美しいモデルなのに際どい下ネタ要素満載のセリフを発するというギャップが、当時大きな話題を呼んで番組を盛り上げていました。そしてその2年後には、朝ドラ『ひまわり』のヒロイン役に起用されています。つまり、クセ強イロモノを演じようが、その真逆の清楚系へ向かうことができる。それは彼女の特性であり、目の前の役に真摯に向き合う結果、視聴者は松嶋菜々子であることを忘れ、劇中の役柄として違和感なく見られる、それが彼女の持つ透明感・ミステリアスの正体ではないでしょうか」(衣輪氏)
この10年を振り返っても、女優の活動はさまざまに広がりをみせた。女優のバラエティへのレギュラー出演は珍しくなくなり、情報番組のMCやワイドショーのコメンテーターなどを務めるケースも増えている。SNSで自身の「ありのまま」を発信するケースも増える一方で、抱かれるイメージをより意識する女優も多いだろう。しかしそんな中でもひたすら「役」に没頭する松嶋のストイックな佇まいは、多くの人に一目置かれている。そんな稀有な存在感こそ、第一線で活躍し続けることができる理由なのかもしれない。
(文/西島亨)