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『鬼滅の刃』ヒット契機に“声優起用”の原点回帰が加速、花江夏樹がハブ的役割に
作品にとっての劇薬に…俳優・タレントの声優起用が重要視されたワケ
また、こうした広範囲な仕事内容を見ると、それぞれ声優以外のタレントなどが挑戦することも十分可能であり、最近では人気タレント・俳優がアニメ映画に声優として出演することもよくある流れ。平成以降でも、『ライオンキング』(1994年公開)のムファサ役の大和田伸也や『ハウルの動く城』(2004年公開)のハウル役の木村拓哉、『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』(1998年/2019年公開)のミュウツー役の市村正親などが、“声優以上のハマり役”として高く評価されてきた。さらに、宮崎駿監督作品『となりのトトロ』(1988年公開)のお父さん役の声優をコピーライターの糸井重里、『風立ちぬ』(2013年公開)の堀越二郎役を映画監督庵野秀明が務めるなど、俳優・タレント以外の“異業種”からの起用も定番化している。
ただ、“専門外”からの起用に対しては、「本業声優の人に比べると実力差がありすぎる」「過剰な演技が鼻につく」「声だけ聞いてもその俳優さんの顔しか思い浮かばない」といった批判があることも事実。原作ファン・アニメファンからそっぽを向かれるか、話題性が功を奏して一般層からもお客さんを引っ張れるか…人気俳優・タレントの声優起用は、どっちに転ぶかわからないリスクを抱えたいわば“劇薬”ともいえるのである。
鬼滅ヒットを起点に広がる、声優起用の本懐
さらに、バラエティ番組のナレーションとして若手声優を起用する流れもあり、胡蝶しのぶ役の早見沙織は、『クイズ!THE違和感』『どうぶつ投稿ランド』(ともにTBS系)でナレーションを務め、嘴平伊之助役の松岡禎丞は『I LOVE みんなの動物園』(日本テレビ系)でナレーターを務めている。
その理由としては、(1)声優としての場数を踏んで経験が豊富なので、番組の趣旨趣向に適応して表現することが簡単にできる。(2)番宣の際に芸能人と絡むとスベる可能性もあるが、“声の出演”のため声優側も作り込んで本領を発揮できる。また、一般層も違和感なく耳に入れられる。(3)声を聞くだけで、声優ファンだけではなく作品ファンにも注目してもらえる。といった要因が挙げられる。いわば声の実力では他のタレントを圧倒的に凌駕しているだけに、今後もさらに本業声優を起用していく傾向が強まるのではないだろうか。
花江夏樹がハブとして機能、声優キャスティングを原点回帰の流れに
花江のYouTubeチャンネルの登録者数は178万人(11月12日時点)と、声優のYouTubeチャンネルでは群を抜く数字。チャンネルでは、「顔は明かさずに…」という声優ならではの手法を活かし、声だけで魅了するコンテンツを多く配信しており、『鬼滅の刃』のゲームをレビューするという動画では、再生数1474万回を記録した。同チャンネルには小野賢章、江口拓也、石川界人といった錚々たる若手声優陣が登場し、漫才やコントを見ているかのような掛け合いを見せ、普段の声優業では感じられない“素の姿”を披露している。花江のチャンネルは、声優たちをより広い世界へと導くいわば“ハブ”のような機能を果たしているようだ。
さらに特筆すべきは、チャンネルにはもちろんクリエイターのサポートもあるが、編集クレジットに花江本人の名前が入っていること。まさに花江は近年のSNS時代に対応したデジタルネイティブの声優代表ともいえ、今後も自己プロデュース能力にたけた声優が増えることで、声優業界自体が時代に適応しながら発展していくと思われる。
映画『鬼滅の刃 無限列車編』では、今までのアニメ版にプラスして魘夢、猗窩座などの新キャラ(鬼)も登場。その声優を誰が務めるのかが注目されたが、それぞれ平川大輔、石田彰といった実力派ベテラン声優を起用。“中性的・変態的ながらも悲哀に満ちた”平川と“煉獄さんを鬼に勧誘するなど自己中で強さ至上主義”的な石田と名演をみせ、「純声優主義を見事に貫いた」と高く評価されている。声優が本来の声の仕事でまっとうに活躍するという“本懐”を見せ、観客・視聴者も高く評価するという「純声優回帰」現象は、これからもまだまだ続きそうである。