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友情、努力、笑顔? 『Nizi Project』が打ち出した“新しいオーディション番組”の形
配信&地上波放送の両刃使いで大躍進、連日トレンド入り
特に朝の情報番組『スッキリ』では、緊急事態宣言の発令中で在宅勤務・外出自粛というタイミングもあってか、主婦層を筆頭に幅広い層の支持も獲得。SNSでは、「なぜか何度も見たくなる」、「今後どう成長していくか楽しみ」といったコメントが多く、わが子を応援するかのように感情移入する視聴者が多数見られたのである。
さらには『スッキリ』のレギュラー陣が、視聴者と同じ目線で応援する“オタクっぷり”も視聴者に親しみを与えた。メインMCの加藤浩次が「一生懸命に勝る才能はないんだなあと思いました」とまとめると、SNSでも「私の気持ちを加藤さんが代弁してくれた」と称賛された。こうした地上波を入口として『Nizi Project』にハマり、もっと推しのことが知りたくなった視聴者は配信のフルサイズを観る…という地上波・ネットの両者がウィンウィンとなる“好循環“も定着。配信時間や放送時間になると、連日トレンド入りするまでに至ったのだ。
「パークロス」も? J.Y.Parkの見せる“父性愛”が「応援したくなる」心情を加速
一方で、厳しい表情で「前回のアナタのパフォーマンスは微妙でした…」といったコメントをすることもある。鋭い目つきで練習生を見つめるJ.Y.Parkを見ると、(ああ、このあと、このコはめちゃくちゃ怒られるんだろうな…)などとつい心配してしまう。ところが、最初に厳しい言葉を投げかけながら「それが見違えるようにすばらしくなって、感動しました」と笑顔を見せるなど、必ずどこかで“愛のある”コメントやアドバイスを入れてくるのだ。この“ギャップ”に視聴者も安堵したり、感情移入させられたりして、さらに番組にハマっていく…という構図になっているのである。
その結果、J.Y.Parkの名言・金言は回を増すごとに注目度がアップ。例えば、練習生をランク付けするという厳しいはずのオーディションにおいて、参加者に「一人ひとりが特別でなかったら、生まれてこなかったはずです」といった愛のある言葉を丁寧に投げかけると、SNS ではそれが“名言”として話題になり、「理想の上司」、「パークさんお父さんやな」といったコメントが並ぶ。
さらに「見えない精神や心を見えるようにすることが芸術です」、「自分自身と戦って、毎日自分に勝てる人が夢を叶えられます」、「過程が結果を作って、態度が成果を生むのです」など、練習生たちが夢を叶えていくときに“御守り”となる教訓の言葉も。そんな飾らない笑顔や、人格を育て子どもの成長を見守るような“父性愛”まで見せられると、視聴者は救われるとともにJ.Y.Parkにがっちりと心をわしづかみにされ、“パーク推し”“パークロス”なる新語まで飛び交うようになったのだ。
スパルタな審査員、バチバチのライバルたち…覆ったオーディション番組の“定石”
また、平成を代表するオーディション番組『ASAYAN』(テレビ東京系)では、さらにスパルタのエンタメ性と“えげつなさ”をプラス。多くを語らないプロデューサーと、厳しく指導するトレーナー。そしてメンバー候補者同士のライバル関係など、目に見える“ピリピリ感”と、挫折と敗北から這い上がるストーリー性がウケて、初期モーニング娘。のヒットにつながった。
ちなみに、それらの究極形として現われたのが、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)内で行なわれた「MONSTER IDOL」だろう。純粋なオーディション番組とは言えないが、プロデューサーたるクロちゃんの私情だけが優先された選考方法で、そこに取り入ろうとする練習生たちの裏切り、密告、スパイ行為…といった人間のエゴが凝縮された内容は、ある意味でオーディション番組の“負”の部分が凝縮された問題作だった。
だが、『Nizi Project』はかつてのオーディション番組とは真逆。練習生たちもお尻を叩かれたり、わざと反発させるような理不尽ともいえる指導をされたりしなくとも、期待に応えるように自分と向き合い努力する。この10代の女の子たちのひたむきな姿は今どきの人材育成の理想形とも言えるだろう。また、練習生はライバル同士というより“同志”。そもそもグループごとのオーディションもあるので、ライバル関係より協力関係のほうが重視される。だからこそ、張り詰めた緊張感だけでなく、互いにアドバイスを伝え合っていたエピソードや、ふざけながら仲良く笑う姿も視聴者からすると「尊い」ものとなった。
プロデューサーのJ.Y.Parkにしてもいつも笑顔を見せているので、練習生たちは涙を見せることもあれば、褒め言葉を受け取ったときは素直に笑顔を見せることもできる。そしてそれを見守る視聴者も笑顔になるという、かつての“努力・根性・涙”ではなく、“努力・友情・笑顔”なのだ。
新型コロナウイルスの影響で、全国的にストレスフルでギスギスした雰囲気の中、さわやかな風として駆け抜けた『Nizi Project』。最近はお笑いでも「誰も傷つけない笑い、ツッコミ」がトレンドになっているが、『Nizi Project』も同様に誰も傷つけない「やさしいオーディション」の形を作り上げたようだ。それは、『テラスハウス』(フジテレビ系)などに代表されるリアリティ番組の“生の姿”に対する反動ともいえるし、時代の変化を象徴する“救い”と“愛”のあるテレビ番組の「新しい形」ともいえるのかもしれない。