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「VS.人」から「VS.メニュー」へ…ポップな総合バラエティへ昇華した“大食い番組”の変遷

  • 『元祖!大食い王決定戦』出身のギャル曽根 (C)ORICON NewS inc.

    『元祖!大食い王決定戦』出身のギャル曽根 (C)ORICON NewS inc.

 1990年代にスタートし、人気コンテンツとして一世を風靡した“大食い番組”。各局による類似番組の乱立から事故を経て、一時下火になっていた同コンテンツが、今再び注目を集め、4月からは大食いをメインにした番組が、ゴールデンで始まるなど再興の兆しをみせている。ここに至るまで、大食い番組はどのような変遷をたどってきたのか?これまでの道のりと現状、さらにコロナ禍を経た今後の課題について考えていく。

爽快感とカタルシス 確かなコンテンツ強度で大ブームに

 ブームの先駆けとなったのは、1989年の『日曜ビッグスペシャル』(テレビ東京系)に端を発し、素人参加型のエンタテインメント『テレビチャンピオン』(テレビ東京系)へと受け継がれた「全国大食い選手権」。そこから“大食いたちの勇姿”の魅力が広がり、人気が過熱。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、『金曜テレビの星! 大食い王座決定戦』、『フードバトルクラブ』(共にTBS系)などの番組や、番組内企画としてピックアップされ、各局で“大食いブーム”が巻き起こった。

 これらの番組は当初、参加者が制限時間内にお題の食べ物をどれだけ多く食べられるかを競うものだったが、次第に番組ごとの企画性や演出が盛り込まれるようになる。ただ食べる量を競うだけではなく、参加者がそこに至るまでの道のりをドキュメンタリー風に撮った映像や、涙や鼻水を流しながら、ただただチャンピオンになりたい一心で食べ物に食らいつく真剣な姿がドラマのように映し出され、多くの視聴者の心を捉えた。

 またその参加者も、いかにも大食いという体躯の男性だけでなく、食の細そうな若い世代の女性などが加わっていったことも注目度を高める一因になった。参加者たちは、「大食いファイター」「フードファイター」と呼ばれるようになり、ギャル曽根、ジャイアント白田、小林尊、もえのあずき、MAX鈴木など多くのスターを輩出。そんな大食いタレントが、料理を次々と平らげていく真剣勝負は、まるでスポーツや格闘技のように視聴者に爽快感やカタルシスを与え、確かな強度を持つコンテンツとして、テレビ界で栄華を誇った。

ブームが盛り上がるなか起きた事故と大食い番組の盛衰

 一大ブームを巻き起こした大食い番組だったが次第に、制限時間内に単純に食べる量を競っていた当初の大食いから派生し、早さも競う企画が増え、それらをマネする視聴者が増加。そして2002年、食べ物を喉に詰まらせ死亡するという痛ましい事故が発生。安全面に対する批判的な声が高まっていくとともに、大量の食品を使用することへのさまざま意見も飛び交った。食べることを題材に「VS.人」に重きを置き、そこでの競い合いを強調していった企画の人気ゆえに起きたともいえるこの事故を契機に、各局は大食い・早食い企画の制作を一斉に自粛。一時期、テレビから姿を消した。

 それから数年後、オリジネーターのテレビ東京は、「大食いは健康であれ!」「危険な早食いは厳禁!」「食べ物に感謝を!」という「大食い三ヶ条」を掲げ、選手の健康と安全対策を徹底したうえで、『元祖!大食い王決定戦』として大食い番組を復活。コンテンツとしての人気ぶりは変わらないことが証明されると、一時期のような乱立はなくなったものの、特番やバラエティ番組のコーナー企画などで次々に復活。脈々とその系譜は受け継がれ、近年では、YouTubeでも大食いは人気カテゴリとなっている。

限界に挑戦するガチ対決から、ファミリーで観られるソフトな総合バラエティへ

 こうした背景があるなかで、地上波ゴールデンで再び大食い番組が復興の兆しを見せている。『ウワサのお客さま』(フジテレビ系)や『お願い!ランキング』『帰れま10』『かみひとえ』(すべてテレビ朝日系)、『世界くらべてみたら』『モニタリング』(TBS系)など、バラエティーや情報番組内の特集として大食い系の企画が放送され、人気を博しているほか、4月から大食いを冠に打ち出す新番組『デカ盛りハンター』(テレビ東京系)がスタートした。

 YouTubeも含め、これら現代の大食い番組に共通して言えるのは、大食いの早さや量を人と競うのではなく、店のメニュー食べつくしや、巨大な“デカ盛り”メニューに対して、個人が1人もしくはグループがシェアして挑む、という構図が増えていること。大食いタレントをリーダーとし、いかにも大食漢という大柄な芸人やガタイのいいスポーツ選手、さらに彼らの対比としての存在意義がある“大食い戦力外”のアイドルや俳優といったチームを編成。完食者ゼロを自慢にする飲食店の巨大メニューに挑んだり、店の全メニューを食べ尽くすといった形式が多く、かつての「VS.人」を意識した限界にチャレンジするような、ガチ対決のハード路線ではない。チームがシェアで協力し合い、もしくは個人同士がお互いを励まし合ってデカ盛りに挑む、といった極めて現代的なファミリーで観られるポップな総合バラエティへと路線が変わっている。

“ウィズコロナ”における大食い番組の課題と展望

 そんな矢先に発生した昨今のコロナ問題。多くのバラエティ同様、『デカ盛り店』でのロケができないことに加え、例えば、四千頭身が出演する『かみひとえ』のように、ひと組のお笑い芸人が複数人でひとつのデカ盛りメニューに挑むというような企画や、『帰れま10』のようにひとつのメニューを大人数でシェアする番組は、飛沫感染の問題もあり難しいのが現状だ。

 またリモートなどを使用し、はじめからひとりが食べる分が取り分けられてしまっては、特大やデカ盛りメニューのビジュアルを徐々に崩していく従来の方法よりもインパクトが弱い。1人が多く食べて1人が少なくてもめる、苦手な具材をこっそり他の人の皿に移す、遅い人の分を食べるのが早い人がカバーするといったある種の“お約束”や、そこから生まれるさまざまな人間模様を映し出すことは難しく、かつてのようなエンタテインメント性に富んだワクワク感が薄れてしまうことが危惧される。

 一方で、『デカ盛りハンター』では、家でできるアレンジメニューなどのレシピを紹介し、それを食べ尽くす新たな大食い企画を放送。これまでのようにロケやシェアができない“ウィズコロナ”のなかで、それらを逆手に取った新たな大食い企画を発案し、実施している。

 食欲は人間の三大欲求のひとつであり、腹一杯食べたいという願望は誰にでもあるもの。一心不乱に食べる人の豪快な力強い姿は、視聴者の感情を揺さぶり、時には勇気を与えてくれる。人間の根源的な欲求におけるカタルシス作用を持つ「大食い番組」が、その伝統的なコンテンツ強度を保つべく試行錯誤を繰り返しながら、“ウィズコロナ”のテレビ界でどう活路を見いだすのか。今まさに正念場と言えそうだ。

(文/武井保之)

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