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「VS.人」から「VS.メニュー」へ…ポップな総合バラエティへ昇華した“大食い番組”の変遷
爽快感とカタルシス 確かなコンテンツ強度で大ブームに
これらの番組は当初、参加者が制限時間内にお題の食べ物をどれだけ多く食べられるかを競うものだったが、次第に番組ごとの企画性や演出が盛り込まれるようになる。ただ食べる量を競うだけではなく、参加者がそこに至るまでの道のりをドキュメンタリー風に撮った映像や、涙や鼻水を流しながら、ただただチャンピオンになりたい一心で食べ物に食らいつく真剣な姿がドラマのように映し出され、多くの視聴者の心を捉えた。
またその参加者も、いかにも大食いという体躯の男性だけでなく、食の細そうな若い世代の女性などが加わっていったことも注目度を高める一因になった。参加者たちは、「大食いファイター」「フードファイター」と呼ばれるようになり、ギャル曽根、ジャイアント白田、小林尊、もえのあずき、MAX鈴木など多くのスターを輩出。そんな大食いタレントが、料理を次々と平らげていく真剣勝負は、まるでスポーツや格闘技のように視聴者に爽快感やカタルシスを与え、確かな強度を持つコンテンツとして、テレビ界で栄華を誇った。
ブームが盛り上がるなか起きた事故と大食い番組の盛衰
それから数年後、オリジネーターのテレビ東京は、「大食いは健康であれ!」「危険な早食いは厳禁!」「食べ物に感謝を!」という「大食い三ヶ条」を掲げ、選手の健康と安全対策を徹底したうえで、『元祖!大食い王決定戦』として大食い番組を復活。コンテンツとしての人気ぶりは変わらないことが証明されると、一時期のような乱立はなくなったものの、特番やバラエティ番組のコーナー企画などで次々に復活。脈々とその系譜は受け継がれ、近年では、YouTubeでも大食いは人気カテゴリとなっている。
限界に挑戦するガチ対決から、ファミリーで観られるソフトな総合バラエティへ
YouTubeも含め、これら現代の大食い番組に共通して言えるのは、大食いの早さや量を人と競うのではなく、店のメニュー食べつくしや、巨大な“デカ盛り”メニューに対して、個人が1人もしくはグループがシェアして挑む、という構図が増えていること。大食いタレントをリーダーとし、いかにも大食漢という大柄な芸人やガタイのいいスポーツ選手、さらに彼らの対比としての存在意義がある“大食い戦力外”のアイドルや俳優といったチームを編成。完食者ゼロを自慢にする飲食店の巨大メニューに挑んだり、店の全メニューを食べ尽くすといった形式が多く、かつての「VS.人」を意識した限界にチャレンジするような、ガチ対決のハード路線ではない。チームがシェアで協力し合い、もしくは個人同士がお互いを励まし合ってデカ盛りに挑む、といった極めて現代的なファミリーで観られるポップな総合バラエティへと路線が変わっている。
“ウィズコロナ”における大食い番組の課題と展望
またリモートなどを使用し、はじめからひとりが食べる分が取り分けられてしまっては、特大やデカ盛りメニューのビジュアルを徐々に崩していく従来の方法よりもインパクトが弱い。1人が多く食べて1人が少なくてもめる、苦手な具材をこっそり他の人の皿に移す、遅い人の分を食べるのが早い人がカバーするといったある種の“お約束”や、そこから生まれるさまざまな人間模様を映し出すことは難しく、かつてのようなエンタテインメント性に富んだワクワク感が薄れてしまうことが危惧される。
一方で、『デカ盛りハンター』では、家でできるアレンジメニューなどのレシピを紹介し、それを食べ尽くす新たな大食い企画を放送。これまでのようにロケやシェアができない“ウィズコロナ”のなかで、それらを逆手に取った新たな大食い企画を発案し、実施している。
食欲は人間の三大欲求のひとつであり、腹一杯食べたいという願望は誰にでもあるもの。一心不乱に食べる人の豪快な力強い姿は、視聴者の感情を揺さぶり、時には勇気を与えてくれる。人間の根源的な欲求におけるカタルシス作用を持つ「大食い番組」が、その伝統的なコンテンツ強度を保つべく試行錯誤を繰り返しながら、“ウィズコロナ”のテレビ界でどう活路を見いだすのか。今まさに正念場と言えそうだ。
(文/武井保之)