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孤独死現場を“ミニチュア”化する理由、遺体整理人が見た景色「父の死がきっかけに」
上司にミニチュア制作のアイデアを持ち込んだときはバカにされた
葬儀や埋葬、供養の専門展である「エンディング産業展」。小島さんが勤務する「遺品整理クリーンサービス」もここに展示。最初に展示したのはミニチュアではなかった。ポスターや現場の写真、特殊清掃の様子を紹介するパネルを貼り出していたが、現場の真実が伝わりにくいことにジレンマを抱いていたという。
「実際にリアルな現場の写真を見せるのは簡単なのですが、やはり本物というところで目を背けられたり、気分を害されてしまう方もいらっしゃるんです。つまり余計に“壁”を感じてしまう。でも孤独死は実は誰にでも起こりうる。ではどうしたらそれを表現できるか。そのときに思いついたのがミニチュアなんです」
例えばあまりにリアルな写真であれば個人が特定されてしまう。そこで小島さんは、現場で見たいくつかのパターンをテーマ化して、要素や特徴を濃縮、間取りや小物、現場の状況をミニチュアで再現。多少グロい表現もあるが、それが写真のような“本物”でないため、ワンクッション置いて考えられるのではないかと小島さんは考えた。
「上司に話を持っていたんですが、そのときはすごくバカにされました(笑)。そんなの誰も見ないよ、と。なので勝手に作って勝手に展示して人を呼びますと豪語して制作を開始しました」
ミニチュア一つ一つにテーマが 父の死がきっかけで制作されたミニチュアも
「孤独死の現場で最も多いケースです。挨拶されても無視したり、呼び鈴を鳴らされても居留守を使う方など社交的じゃない方も多い。そのためしばらく見かけなくても気にされない。もし毎日散歩をするとか周囲とコミュニケーションを取っている方だったら、あの人最近どうしているのかな、などと心配してもらえる。すると2、3日で発見される確率が高いんです」
これには「コミュニケーションの大切さ」が込められている。また、父の死をきっかけにした作品もある。お風呂で遺体がお湯に溶けてしまったバスルームや、トイレに座ったまま亡くなった部屋のミニチュアだ。
「ヒートショックという現象があります。真冬など温度差で血管などが敗れたりする現象で、うちの父の死因もそうでした。脱衣所にヒーターを置いたり、バスルームを熱いシャワーの湯気で温めておいたり。またせっかく温かくなる便座を設置していても節電でコンセントを抜いて冷たい便座で急死される方も。対策を練ればヒートショックが起こりにくい状況が作れる。それを伝えたかった」
その父の死が、小島さんが特殊清掃をする会社に務めるきっかけにもなる。ある日、知人から遺品整理や特殊清掃の仕事の話を聞いた。調べていくと悪徳業者の多い業界だということを知る。故人や家族を“金”としか見てないような業者たち。「許せない」と思った。小島さんは「遺族や故人を思いやる」がモットーの同社への就職を決めた。ただ「やはり、あまりイメージがよくない仕事のせいか…家族はこの仕事に就いたことをあまりよく思ってくれないんです」と寂しそうに話す。
「悪徳業者はなくしてしまいたい。でも追放しても社名を変えて戻ってくる。いたちごっこなんです。まずあまりに安いところは危険。あとで莫大な追加料金を取られる可能性があります。また説明を聞いていて曖昧にごまかすところも危ない。しっかり説明を聞いて疑問があったらとことん尋ねること、また料金についてもしっかり確認し録音しておくのも手です」
孤独で亡くなられた方全員が本当に“孤独”だったわけではない
「日本はオブラートに包む文化といいますか、昨今ではコンプライアンスで大切なものを隠してしまう傾向があるように思います。報道でもいいことばかり報道され、非常に大事な部分でも、波紋を呼びそうなものは隠されてしまうこともある。でも、隠していたら何も伝わらないし…。個人的には、報道機関の方々にはこれからも真実を追求し伝えてもらいたいと願っています」
現在、構想中なのは3D映像を使った孤独死現場の再現。「一つの家庭で、結婚し、子供が生まれ、子供が成人し、巣立ち、伴侶に先立たれ、そして孤独死するまでの物語。孤独死という言葉はネガティブな印象がありますが、孤独死された方々全員が本当に“孤独”だったというわけではない。生前は家族との交流があり、大好きな趣味があり、友人との旅行の思い出があり…、そうした考え方は遺品整理や特殊清掃の仕事でも大切にしています。そして、孤独死というもののイメージを変えたい。それを映像で作っていきたいんです」
「亡くなってからでは遅い。死んだあとだけではなく今が大事。亡くなられる方も遺族も後悔なく過ごすことをして欲しい。今からでも実家のご両親に連絡を取ってほしい」と話す小島さん。彼女の死生観が今度どのような作品を生み出していくか楽しみだ。
(取材・文/衣輪晋一)