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(更新: ORICON NEWS

リズムネタと一発屋芸人の関係性が好転、ジャンルの価値基準に変化の兆し

  • 「小心者講座」で人気を博した、ふかわりょう (C)ORICON NewS inc.

    「小心者講座」で人気を博した、ふかわりょう (C)ORICON NewS inc.

 気づくと何度も見てしまうリズムネタや音楽ネタ。小島よしお、ブルゾンちえみ、ひょっこりはんなどがブレイクした『ぐるナイ』の「おもしろ荘」(日本テレビ系)で今年優勝したのもリズムネタの“クロコップ”というコンビだった。リズムネタはインパクトが強く、大ヒットする可能性を多分に秘めているが、「一発屋」の印象も強い。しかし昨今、そんなリズムネタ芸人が、様々な切り口でテレビやメディアに呼ばれる流れが起きている。

ショートネタ披露に呼応して広がったリズムネタ

 リズムネタとは、簡単に説明すれば、音楽やリズムに合わせてギャグを繰り出す芸。音楽ネタや歌ネタも含めて“リズムネタ”とカテゴライズされることが多く、狭義では寄席で落語や漫才とともに披露された楽器を演奏しながら行う“音曲漫才”や、1935〜1951年に活躍したグループ・あきれたぼういずの名を冠したジャンル“ボーイズ”に端を発すると言われる。横山ホットブラザーズや玉川カルテットなどが有名で、トニー谷、牧伸二、堺すすむなど歌ネタで人気を集めた芸人も、同ジャンルでまとめて語られることもある。

 「いわゆるレトロ芸ですが、レトロと現代、その分岐点となったのは、ふかわりょうさんではないでしょうか」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。ふかわは、90年代半ばに「シュールの貴公子」としてブレイク。腰に手を当てた横揺れでリズムを取りつつ、一言ネタを言う「小心者講座」が人気で、『タモリのボキャブラ天国』(フジテレビ系)でも活躍。「ダウンタウンさんのコントの主題歌『犬マン』や、松本人志さん、今田耕司さん、YOUさんの3人が『妖怪人間ベム』の姿になってリズムをとる“妖怪人間♪”など、ダウンタウンさん流シュールさのヒットで土壌ができ、満を持してのヒットとなりました」(衣輪氏)

 ボキャブラが終了した後も、2003年スタートの『エンタの神様』(日本テレビ系)で、だいたひかる「どーでもいいですよ」、波田陽区「って言うじゃな〜い」「残念!」、レギュラー「あるある探検隊」、オリエンタルラジオ「武勇伝」などがヒット。2007年からは『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)、『あらびき団』(日テレ系)なども放送。衣輪氏は「少ない時間でインパクトを残せるリズムネタはショートネタブームという環境に適応し急速に発展した」と解説。ショートネタ番組ブームが去った後も、8.6秒バズーカ「ラッスンゴレライ」やバンビーノ「ダンソン」など、新たなリズムネタが誕生し続けている。

岡村隆史「リズムネタは麻薬」、先輩芸人たちが憂うリズムネタ芸人の宿命

 そして「おもしろ荘」で優勝したクロコップだ。クロコップは童謡「アブラハムの子」のメロディに合わせて空手やプロレス技などを取り入れたリズムネタを披露。ネタを見ていたフットボールアワー後藤は、あまりに体力勝負なネタに「また売れたら死ぬタイプ」と。ナイナイ岡村や有吉弘行も「(激しく動きすぎて酸欠で)顔、真っ白」とツッコミを。SNS上でも「おもしろすぎる」のほか、「酸欠になりそう」「おもしろかったけどマネするのは命がけ」などの反応が見られた。

 ちなみにその岡村は自身のラジオ『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)でリズムネタについて、「(笑いの中毒性の高さから業界では)リズムネタは麻薬と言われている」と解説。「売れる時はスコーンと売れてしまう。そこから持続していくことが大変なんでしょうね」と気にかけた。

 また2015年には松本人志が『ワイドナショー』(フジ系)で8.6秒バズーカを「別におもしろくはない。これは曲ですよ。みんなやりたがる、手拍子したくなる」と辛口批評。これを受け、8.6秒バズーカ・田中シングルは「言葉を抜き出したら面白くないのはリズムネタの宿命」とその言葉を真摯に受け止めた。ほか藤崎マーケットは同年、「リズムネタ撲滅キャンペーン」なる小冊子を配布。リズムネタでブレイクした後、テレビなどに呼ばれなくなる芸人を増やしたくないのがその意図で、「依存性があるので、1回手を出すと精神的にも肉体的にも全てがボロボロになる。普及が早いと飽きる速度もすごく速い」と後輩を憂う。

リズムネタに“好転”の兆しも、一発屋ではなく“一発屋芸人”になれるかがカギに

 そんな中、髭男爵の山田ルイ53世が『一発屋芸人列伝』を上梓した。小梅太夫、テツandトモ、波田陽区などリズムネタ芸人のすごさについても語られており、同作品は雑誌ジャーナリズム賞の作品賞を受賞した。また2015年には『第一回一発屋オールスターズ総選挙』が開催。ムーディ勝山や波田陽区などリズムネタ芸人も複数出演し、先日放送された『弁護士といっしょです』(テレビ朝日系)では、イベント成功の秘訣について、山田は「一発屋芸人たちが、それで一発当てた自身の“キャッチフレーズ”を口にするだけで、会場中から大歓声が起こりかつての栄光をあらためて噛みしめることができた」と発言。好転の兆しをその身で感じている。

 「昨今、リズムネタを披露していた“一発屋”と呼ばれる芸人たちが、様々な切り口でテレビやメディアに呼ばれる流れになってきた。例えば“営業の神様”テツandトモさんはモスバーガーで4年ぶりのCM。小島よしおさんは絵本を出版して話題に。AMEMIYAさんは内閣府からCM出演オファーが。これを見ると、ただの“一発屋”ではなく、“一発屋”をネタにする“一発屋芸人”というカテゴリーが生まれており、愛されキャラとして扱われ始めているのです。この流れは『アメトーーク!』(テレ朝系)の“最近の一発屋事情”(2009年)から徐々に浸透した概念では」(衣輪氏)

 昨今、趣味や好みが多様化し、ドカンと一発当てるのは日増しに難しくなっている。だがSNSで、その小さな火が広がり、真似をされ、じわじわと話題になる傾向もある。そしてヒットするネタの筆頭格がリズムネタであり、今だ可能性を秘めている。一発屋の筆頭格でもあるリズムネタ芸人にも“一発屋芸人”という新たな価値が生まれ、再評価する流れが生まれているように思う。
(文/中野ナガ)

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