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リズムネタと一発屋芸人の関係性が好転、ジャンルの価値基準に変化の兆し
ショートネタ披露に呼応して広がったリズムネタ
「いわゆるレトロ芸ですが、レトロと現代、その分岐点となったのは、ふかわりょうさんではないでしょうか」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。ふかわは、90年代半ばに「シュールの貴公子」としてブレイク。腰に手を当てた横揺れでリズムを取りつつ、一言ネタを言う「小心者講座」が人気で、『タモリのボキャブラ天国』(フジテレビ系)でも活躍。「ダウンタウンさんのコントの主題歌『犬マン』や、松本人志さん、今田耕司さん、YOUさんの3人が『妖怪人間ベム』の姿になってリズムをとる“妖怪人間♪”など、ダウンタウンさん流シュールさのヒットで土壌ができ、満を持してのヒットとなりました」(衣輪氏)
ボキャブラが終了した後も、2003年スタートの『エンタの神様』(日本テレビ系)で、だいたひかる「どーでもいいですよ」、波田陽区「って言うじゃな〜い」「残念!」、レギュラー「あるある探検隊」、オリエンタルラジオ「武勇伝」などがヒット。2007年からは『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)、『あらびき団』(日テレ系)なども放送。衣輪氏は「少ない時間でインパクトを残せるリズムネタはショートネタブームという環境に適応し急速に発展した」と解説。ショートネタ番組ブームが去った後も、8.6秒バズーカ「ラッスンゴレライ」やバンビーノ「ダンソン」など、新たなリズムネタが誕生し続けている。
岡村隆史「リズムネタは麻薬」、先輩芸人たちが憂うリズムネタ芸人の宿命
ちなみにその岡村は自身のラジオ『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)でリズムネタについて、「(笑いの中毒性の高さから業界では)リズムネタは麻薬と言われている」と解説。「売れる時はスコーンと売れてしまう。そこから持続していくことが大変なんでしょうね」と気にかけた。
また2015年には松本人志が『ワイドナショー』(フジ系)で8.6秒バズーカを「別におもしろくはない。これは曲ですよ。みんなやりたがる、手拍子したくなる」と辛口批評。これを受け、8.6秒バズーカ・田中シングルは「言葉を抜き出したら面白くないのはリズムネタの宿命」とその言葉を真摯に受け止めた。ほか藤崎マーケットは同年、「リズムネタ撲滅キャンペーン」なる小冊子を配布。リズムネタでブレイクした後、テレビなどに呼ばれなくなる芸人を増やしたくないのがその意図で、「依存性があるので、1回手を出すと精神的にも肉体的にも全てがボロボロになる。普及が早いと飽きる速度もすごく速い」と後輩を憂う。
リズムネタに“好転”の兆しも、一発屋ではなく“一発屋芸人”になれるかがカギに
「昨今、リズムネタを披露していた“一発屋”と呼ばれる芸人たちが、様々な切り口でテレビやメディアに呼ばれる流れになってきた。例えば“営業の神様”テツandトモさんはモスバーガーで4年ぶりのCM。小島よしおさんは絵本を出版して話題に。AMEMIYAさんは内閣府からCM出演オファーが。これを見ると、ただの“一発屋”ではなく、“一発屋”をネタにする“一発屋芸人”というカテゴリーが生まれており、愛されキャラとして扱われ始めているのです。この流れは『アメトーーク!』(テレ朝系)の“最近の一発屋事情”(2009年)から徐々に浸透した概念では」(衣輪氏)
昨今、趣味や好みが多様化し、ドカンと一発当てるのは日増しに難しくなっている。だがSNSで、その小さな火が広がり、真似をされ、じわじわと話題になる傾向もある。そしてヒットするネタの筆頭格がリズムネタであり、今だ可能性を秘めている。一発屋の筆頭格でもあるリズムネタ芸人にも“一発屋芸人”という新たな価値が生まれ、再評価する流れが生まれているように思う。
(文/中野ナガ)