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過去の名曲を効果的に再利用 ドラマ主題歌“受難の時代”だからこその施策

  • 『高嶺の花』主演の石原さとみ (撮影:Tsubasa Tsutsui)(C)oricon ME inc.

    『高嶺の花』主演の石原さとみ (撮影:Tsubasa Tsutsui)(C)oricon ME inc.

 脚本家の野島伸司が、2年ぶりにプライムタイム帯(午後7〜11時)で手がけたドラマ『高嶺の花』(日本テレビ系)。同作の主題歌は、1956年に発表されたエルヴィス・プレスリーの「ラブ・ミー・テンダー」だ。エルヴィスの楽曲がドラマ主題歌として採用されるのは日本初で、クライマックスシーンを盛り上げる役割を担っている。『高嶺の花』以外にもそうした語り継がれる“過去の名曲”を主題歌にするドラマはあったものの、基本的には日本人アーティストとのタイアップがいまだ定石。だが、これまでのように“ドラマ主題歌”として爆発的なヒットを飛ばすことは年々縮小傾向にある。

脚本と同等に主題歌にも徹底的にこだわった野島伸司作品

 野島伸司のドラマ作品と言えば、これまでも多くの “過去の名曲”を主題歌に採用してきた実績がある。今回の「ラブ・ミー・テンダー」をはじめ、洋楽ではサイモン&ガーファンクルの「冬の散歩道」(『人間・失格〜たとえば僕が死んだら』)、カーペンターズの「青春の輝き」(『未成年』)、アバの「チキチータ」(『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』)などだ。また邦楽でも森田童子の「ぼくたちの失敗」(『高校教師』)、中島みゆきの『糸』(『聖者の行進』/以上TBS系)や財津和夫の「サボテンの花」(『ひとつ屋根の下』/フジテレビ系)を使用してきた。

 かつて野島は、Huluオリジナルドラマ『雨が降ると君は優しい』の主題歌に、自身が「世界で一番好きな曲」と断言するボズ・スキャッグスの「We're All Alone」を採用した際、「僕にとって、主題歌はとても大切な存在です。特にシリアスなドラマの場合、主題歌ひとつで世界観を壊されてしまうこともありますから」(『シネマトゥデイ』2017年9月1日掲載より)と、ドラマにおける主題歌の重要性な立ち位置を強調。

 トレンディドラマ全盛期には、人気アーティストの新曲を主題歌に採用することによって、CDの売上にもつなげるという流れが定番であり、いわばテレビ局とレコード会社はwin-winの関係であった。一方、野島作品はそうしたビジネス面に忖度せず、あくまでドラマの内容を中心に国内外の過去の名曲を主題歌に採用する“異色”な存在だった。

木村拓哉主演ドラマもタイアップに縛られない作り

 しかし、この“野島方式”は、他のドラマでも追随されるようになる。『空から降る一億の星』(フジテレビ系)ではエルヴィス・コステロの「スマイル」、『GOOD LUCK』(TBS系)は山下達郎の「RIDE ON TIME」、『プライド』(フジテレビ系)はクイーンの「I was born to love you』、『エンジン』(同)はエアロスミスの「Angel」、『MR.BRAIN』(TBS系)はヴァン・ヘイレンの「JUMP」などあるが、今挙げたこれらはすべて木村拓哉主演ドラマ。安易にタイアップに依存しないことで、他と一線を画すドラマであること、また木村拓哉という俳優の“格”を演出する効果もあった。

 ほかにも、スリー・ドッグ・ナイトの「Joy To The World」(『ランチの女王』/フジテレビ系)、アース・ウインド&ファイアーの「September」(『続・平成夫婦茶碗』/日本テレビ系)など、さかのぼれば過去の名曲を使用したドラマは意外と多いのである。いずれにしても、過去の名曲であれタイアップ曲であれ、ドラマの内容と主題歌がマッチしているかどうかが肝心であることは言うまでもない。

過去の名曲が「ドラマ離れ」の救世主になる可能性も

 大人気ドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)の主題歌「ラブ・ストーリーは突然に」の制作過程では、当時はラブソングに辟易していた小田和正が作った曲にプロデューサー・大多亮氏が“ダメ出し”。小田は「1週間もらえれば、ぐうの音も出ないような曲を作る」と宣言し、改めて作り直した結果、ダブルミリオンとなったと言われている。逆に、CHAGE&ASKAの「SAY YES」は、曲の内容に合わせて『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)の結末が書き換えられたというエピソードもある。それだけ、ドラマと曲は一体となっていなければならないということなのだろう。

 そうなると、過去の名曲ではビジネス的なヒットは望めないかと言われると、決してそんなことはない。当然ドラマでまた火が点けば、再版、そしてベスト盤を発売して“リバイバルヒット”も期待できる。実際、野島作品の『未成年』主題歌、挿入歌に採用されたカーペンターズのベスト盤は、ドラマ効果により累計200万枚を突破した。

 かつて音楽ライターの宇野維正氏が、自身のツイッターで、「ドラマ主題歌のタイアップなんてほとんど何の効果もないんだから、昔の野島伸司ドラマのようにがんがん洋楽クラシックを使うべき。良くも悪くもその方が話題になるし、そしたら数字にもつながるよ」(2014年1月5日)と提起しているように、“過去の名曲”の可能性に期待する声もある。「ドラマ離れ」の風潮に加え、これまでのタイアップ方式が崩壊している今、“過去の名曲主題歌”がドラマ復活の起爆剤になる可能性は非常に高い。

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