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ニコ動出身のニュースター米津玄師、「Lemon」ヒットに見る新たな成功例
ニコ動のボカロP“ハチ”から“米津玄師”へ、独創的なスタイルの創出
2012年には“米津玄師”名義による初のアルバム『diorama』をリリース。ハチ名義でニコ動に発表した曲も収録された本作は、ボカロ楽曲ではなく、すべて米津自身がボーカルを担当。その表情豊かな歌声によって、ボーカリストとしても大きな注目を集めた。また、CDジャケットのアートワーク、ミュージックビデオを自ら制作し、“仮想の街”というコンセプトを総合的に表現したことも、本作の特徴。ボカロPとして培ったスキルをさらにブラッシュアップし、“アーティスト・米津玄師”の独創的なスタイルにつなげたというわけだ。
アニメファン、ロック好き、そして一般層へ…流れを作るプロモーション
ヒット中の米津玄師の「Lemon」
米津の存在が幅広い層に浸透した理由のひとつは、映画、アニメ、CM、ドラマなどのタイアップ。東京メトロ、ニコン、MIZUNOなどCMソングを担当、さらに中田ヤスタカが手がけた映画『何者』主題歌にゲストボーカルとして参加するなど、活動の幅を大きく広げた。
なかでも米津が作詞・作曲・楽曲プロデュースを担当したDAOKOのシングル「打上花火」(劇場アニメ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』主題歌)や、今作「Lemon」は、アーティストとしての米津の才能を多くのリスナーに訴求するきっかけに。「Lemon」が初めてドラマ主題歌となったことについて米津は、「自分の歌声がドラマから流れてくるなんて小っ恥ずかしいし、不思議な感じ。でも、手前味噌ですが、物語にとても合っていると思います」と手ごたえを語っている。
“ハチ”時代からのコアなファンをベースにしながら、ネットと親和性のあるアニメファンを掴み、フェスなどを通してロックファンにアピール。さらにCM、ドラマのタイアップ曲で一般層へ訴求してきた米津。その最初の集大成と呼ぶべき作品が、4作目のアルバム『BOOTLEG』(2017年11月発売)だ。アニメ『3月のライオン』(NHK総合)エンディング曲「orion」、『僕のヒーローアカデミア』(日本テレビ系)オープニング曲「ピースサイン」、そして俳優の菅田将暉が参加した「灰色と青」などを収録した本作は、前作に続き首位を獲得し、34.2万枚のセールスを記録した。
米津も「間違っていなかった」と確信、若者だけでなく年配層にも人気が波及
米津玄師の魅力の中心はもちろん、その楽曲だ。ロック、ヒップホップ、エレクトロなどを融合したハイブリッドなサウンド、物語性と切実なメッセージを融合させた歌詞がひとつになった楽曲は、高い音楽性とわかりやすいポップネスを見事に表現している。さらに特筆すべきは、米津自身が“幅広い世代を魅了する、日本人に響く歌を作りたい”という意識を持っていること。「Lemon」に関するインタビューでも彼は、「“普遍的なものを作る”ことを軸に、日本人だからこそ、J-POPとして音楽を作りたいと思っています。歌謡曲とか、歴史に根ざしているものを自分の中に取り入れて、構築して、音楽に反映するにはどうしたらいいかと考えながら作業をしているんです。だから、年配の方にも受け入れられていると聞くと、このやり方は間違っていなかったんだ、と少し安心します」とコメント。“大切な人を失った悲しみ”を叙情的に描いた「Lemon」が幅広い年齢層のリスナーに受け入れられたのは、普遍的なポップスを目指す米津のスタンスによるものなのだ。
2018年10月には初の幕張メッセ公演も決定するなど、ライブの規模も拡大している。これまでなかったテレビ出演にも意欲的になっているという。「自分の作るものがいろいろなところに波及しているのはありがたいこと。自分に向いていることばかりやっていても仕方ないので、面倒くさいと思うことでも美しいものになればいいなと」と、この先のビジョンを語る米津。圧倒的な才能を備えた彼は、今後もより多くのリスナーを獲得することになりそうだ。
(文:森朋之)