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ORICON NEWS
『めちゃイケ』の父、総監督・片岡飛鳥がバラエティー界にもたらした功績
岡村らメンバーからも畏敬の念、バラエティーの基礎を全て叩き込んだ父であり先生
めちゃイケメンバーへのインタビューでは、片岡飛鳥氏の名前が度々登場する。『めちゃイケ』のプロトタイプとなる『とぶくすり』から片岡氏と苦労をともにしてきた岡村は「海のものとも山のものともわからなかった僕らと、心中する覚悟でやってきてくれた人」と述懐。矢部浩之は「みんな若い頃からやってきたから、『めちゃイケ』が“学校”で飛鳥さんが“先生”ってよく言ってた」と明かし、片岡氏へのリスペクトをそれぞれ口にした。
「番組を振り返るうえで外せない中心人物であり、『めちゃイケ』を『めちゃイケ』たらしめたのは、紛れもなく総監督の片岡飛鳥氏」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「片岡氏は“謎”の多い人物で、番組でもたまに声だけは入ることはあっても、その姿はメディアではほとんど見られません。テリー伊藤しかり、マッコイ斉藤しかり、有名な番組プロデューサーは何らかの形でテレビに出ることが多々ありますが、片岡氏はほぼ完全に裏方に徹した人であり、各方面から、“数少ない昭和のテレビ屋気質のプロデューサー”という声も聞かれます」(衣輪氏)
若手芸人を愛し、若手芸人が 輝くフォーマットを“発明”
「フジテレビは1981年にキャッチコピー『楽しくなければテレビじゃない』を打ち出し、翌年から『軽チャー』をテーマに次々と人気バラエティ番組をスタートさせました。結果、1987年には全日視聴率1位を達成。片岡氏は、そのノリにノッたフジテレビを90年代にさらに押し上げた立役者であり、同キャッチコピーを体現した一人。そしてある“発明”をも果たしたのです」(衣輪氏)。その“発明”とは、「めちゃイケの“パッケージ化”」だ。「例えば、個々が前に出たい若手お笑い芸人を束ねる。テロップを入れるタイミングやワードのこだわり、随所に入るナレーション。また、感動とお笑いを組み合わせるバラエティードキュメンタリーの要素。視聴者にも分かりやすい形で番組の空気感を作り、ワンシーンを見ただけで“これ、めちゃイケっぽいね”と分かる番組作りを行いました」(同氏)
矢部浩之は片岡氏を次のように語った。「“めちゃイケ”は早い段階で“岡村隆史を神輿に乗せてみんなで担ごう”っていうフォーメーションになりました。最初に番組に集められた時は、みんな若いしギラギラしているから、誰もが真ん中に立ちたいに決っているんですけど、飛鳥さんが作ったフォーメーションをかなり早い段階で受け入れてくれたんです」。そのパッケージ=めちゃイケっぽさは、片岡飛鳥総監督による『27時間テレビ』でも発揮された。これまで『めちゃイケ』チームが担当してきた『27時間テレビ』は、2004年が平均視聴率16.9%・瞬間最高32.7%、2011年が平均14.0%・瞬間最高29.8%と、いずれも高視聴率を記録している。そして番組を“パッケージ化”する流れは、他番組、他局も踏襲していくことになる。
若手主体の成長型バラエティーを確立、その精神は後進番組にも継承
だがここで疑問が浮かぶ。フジテレビが誇る名物バラエティー番組に多数関わってきた片岡氏。だが『夢で逢えたら』以降、なぜかダウンタウンとは接点がほとんどないのだ。放送作家の高須光聖氏のオフィシャルサイト「御影屋」に片岡氏との貴重な対談記事が掲載されており、そこで片岡氏は次のように語っている。「“夢逢”は、最初からお笑い体力持ってる人達ばかりが集まっていた。本当に、全員が全員すごかった。 でも“めちゃイケ”は、“夢逢”とは違う」。――つまり、若手だったとはいえ完成された天才芸人であった松本人志を見て、「新人・若手芸人の育成」の方へと力を注ぐことにディレクターとしてのオリジナリティーを見出したのではないかと推測される。
転換期だからこそ新たなアプローチのテレビマン出現に期待
先述の高須氏との対談でも、片岡氏は後進の育成について言及している。片岡氏は「ディレクターは全てを説明できなければいけない」という信念のもと、細部の設定にもこだわった。その結果、タレント側にも、後輩のテレビマンたちスタッフ陣にも片岡イズムが浸透。そうして“最高の番組パッケージ”が出来上がったことが窺える。これらは模倣しやすく、多くの追従者を生んだ。しかし模倣は模倣でしかない。模倣はオリジナルのクオリティには遠く及ばない。衣輪氏は「そんな、“最高のパッケージ”であっためちゃイケが終了するということは、これまで続いてきたバラエティ番組の手法はゼロに戻ったとも言えます。ある意味、バラエティー番組の歴史の転換期ともいえる出来事。そしてこれは“バラエティー王国=フジテレビ”の復活のチャンスであるかもしれない。制作現場を見ても、フジテレビには沸騰寸前の底力が、その時期を今か今かと待っているように感じられるのです」と語る。
全編新撮、放送内容も「危険な企画を詰め込みました」とうたった最終回5時間スペシャルでは、しりとり侍、Mの三兄弟といった過去に苦情が殺到した企画までも多数復活。ビートたけし、明石家さんまいった大物ゲストも登場し、番組ラストでは、総監督・片岡飛鳥氏からメンバーへのインタビュー(片岡氏は声のみで出演)、とメンバー17名のスピーチを約1時間30分に渡って放送。そして片岡氏からメンバー各々に『めちゃイケ』卒業証書が授与され大団円を迎えた。
最終回でも、感動×お笑いのバラエティードキュメンタリーを練り上げ、最後まで“攻めた”笑いをお茶の間に届けた片岡飛鳥イズム溢れる『めちゃイケ』だった。メンバーにとっては父親であり、先生でもあった片岡飛鳥氏に並ぶ、気鋭のテレビマンの出現、そして“めちゃイケ”22年の偉業を超える番組の出現を切に願うばかりだ。
(文/中野ナガ)