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日テレ“水ドラ”、明確なテーマとネット戦略で築いたブランド力

 『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』『東京タラレバ娘』といったコミカルで明るめな作品が続いていた日本テレビ水曜ドラマ枠(午後10・00〜11・00)。だが今期放送の『母になる』は、誘拐された息子と再会する母など3人の母の姿を通し、「母親とは何か?」を問いかけるシリアスな内容となっている。同枠と言えば、『14才の母』『Mother』『Woman』『家政婦のミタ』など、家族間に起こりうる問題(社会問題)などについて描かれた重厚なオリジナル作品も放送されてきた。同作からもその遺伝子が濃密に感じられ、SNSの感想などを見ても、同作の期待値の高さが伺える。

女性視聴者をターゲットに多くの話題作を生み出してきた老舗ドラマ枠

 同枠はこれまでも様々な社会問題に関するドラマを放送し、世に一石を投じてきた。初期の80年代には市毛良枝主演の『妻たちの課外授業』をはじめとする、「妻たちの〜」シリーズが放送。1988年から二時間ドラマ枠の『水曜グランドロマン』が放送され、一時休止されるが、1991年に復活。吉田栄作、財前直見主演で、様々な愛憎と秘密が猛烈な勢いで展開する『愛さずにいられない』で再スタートを切り、斉藤由貴主演の『同窓会』、酒井法子主演『星の金貨』など話題作を多く放出してきた。

 近年では、未成年が母になるという衝撃のテーマで注目を集めた『14才の母』が最高視聴率22.4%のスマッシュヒット。また最高視聴率40.0%を記録した大ヒット作『家政婦のミタ』は、視聴率が右肩上がりに伸びていくという、昨今にはなかった異例の盛り上がりも話題を呼び、「面白ければ視聴者はドラマを観るのだ」という、テレビドラマ不況説に対する強烈なカウンターを見せてくれた。

 ほか、前期のTBS系の話題作『カルテット』の脚本家・坂元裕二氏が手掛けた松雪泰子主演『Mother』や満島ひかり主演『Woman』が放送されたのもこの枠。母性や、シングルマザーの生き様を描いた内容はもちろん、映画界で活躍する存在だった満島をテレビ界に知らしめた功績も大きい。こうして多くの話題作を放送してきたが、傾向として顕著なのは、20〜40代の女優が主演する作品が多いこと。もしくは、その年代の女性に遡求する作品が多いことが挙げられる。

「ネットはテレビの敵ではない!」SNSなどを絡めた的確な話題作り

 「最近に目を向けると、ネットなどを絡めた広報的戦略を用いる話題作が増えているように思います」と話すのは、スタジオやテレビ局などに足繁く通って得た現場ならではの情報から、多くのエンタメ記事を手掛けるメディア研究家の衣輪晋一氏。「各局、各ドラマ枠の関係者が口を揃えて言うことに『今や、ネットは敵ではない』があります。これは最近始まった、テレビ界の新しい風潮ですね。日テレ水曜ドラマ枠は特に、そのネットとの付き合い方の成功例が多い印象。前期の『東京タラレバ娘』では、ドラマ公式SNSなどで主演の吉高由里子らのオフショット写真が多数展開され、アプリを使用した出演者の“顔交換3ショット”なども話題になりました。また内容的にもアラサー女子が“激痛”を感じるような“あるある”が盛り込まれており、これも、ネットで“バズ”りやすい原作を獲得出来た日テレドラマ制作陣の成功と言えるでしょう」

 『家売る女』では、結婚後初ドラマの北川景子を、一切笑わない役で起用した戦略が大当たり。『世界一難しい〜』の大野智や『〜校閲ガール〜』の石原さとみなど、ネットが“バズ”りやすい俳優の起用と配役など、日テレ水曜ドラマ枠は戦略が安定している印象がある。「元々チャレンジングな枠ですが、そこにこの戦略が功を奏し、ここ最近の水曜ドラマの価値を上げる結果に繋がっているように思います」(衣輪氏)

一方で、ドラマ枠のブランド化は制作側にとって諸刃の剣にも!?

 こうしたドラマの枠が持つブランド力は、以前より世に様々な影響を与え続けてきた。代表的なのはフジテレビの“月9”枠。現在は迷走している印象はあるが、かつてはドラマ枠の代名詞として絶大なブランド力を持っていた。ほか『半沢直樹』などのTBS日曜劇場枠、『トリック』などを生んだテレビ朝日きっての実験枠・金曜ナイトドラマ。また2014年に生まれ、『カルテット』などが放送されたTBSの新枠・火曜ドラマ枠も、現在注目度の高い枠として挙げられる。

 それぞれの枠に特色がつくことで、視聴者は“好みのドラマ”にありつけるという利点があり、自然とその枠の人気にもつながる。一方で、「こうしたドラマ枠のブランド化は、ターゲットを絞り込むことに繋がり、制作陣にとっては諸刃の剣になる。従来のやり方では危険」とも衣輪氏は語る。

 「枠のイメージが“ひとり歩き”した場合、自身の首を締めてしまうことになりかねないのです。例えば月9は、世間では“キラキラの恋愛”のイメージが定着し、伝統であるかのように錯覚させられてしまった。視聴者のみならず、制作側もこの風潮に流され、時代を切る切り口が鈍っていったのではないでしょうか。フジのプロデューサー陣と話すと、そもそもの『その時代を切り取った、なんでもありの枠』への立ち返りが見られるので今後に期待ですが、過去の大成功で月9が大きくなり過ぎた故、なかなか身動きが取れない印象。ネットで視聴者が様々な意見を交わし合える今の時代、ドラマ制作者や編成には、ブランド力を高めるとともに、イメージを“ひとり歩き”させない戦略も必要となってくるでしょう」(同氏)

 水曜ドラマ枠今期の『母になる』は良質かつ、非常にチャレンジングな、いかにも“同枠らしい”内容。枠のブランドを高めつつ、そのイメージに足を捕われないよう“良質な作品を送り続けられるのか?”が、テレビドラマにとって難しい時代だが、水曜ドラマ枠は巧みに操るネット戦略とぶれないテーマ性で枠の安定感を誇っているのだ。

(文/西島享)

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