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ORICON NEWS
決して漫画原作だけじゃない 実は健闘しているオリジナル脚本映画
人気原作の実写化は興行ビジネスとして自然な流れ
このランキングというのは意外と人の心には刺さるもので、連続して1位を獲得したりすると、メディアでも一斉に取り上げ、作品の知名度は飛躍的に上昇する。普段映画を観ない人も「観てみようかな」と思わせる力がある。その意味で公開規模というのは重要だったりする。一方で、公開規模が大きな作品は、客入りノルマのハードルも上がる。劇場側はお客さんが入らない映画を上映するのは死活問題だからだ。とくに公開週の初速は重要で、ここで「コケた」という印象を与えると、その後の興行収入に大きな影響を与える。
もちろん、最も重要なのは作品の質なのだが、その前段階でのプロモーションのしやすさや、多くの作品で製作委員会方式をとっている現状のなかの資金調達という意味では、企画として知名度のある作品を製作することが、最もリスクが低いと考えるのはビジネスとして自然な流れだ。有名な原作小説や、ヒットしている漫画、アニメの実写化というのは、興行的な面を考えると、ベストかどうかは断言できないがベターな選択であるとはいえるだろう。こうした理由から、オリジナル作品を大きな規模で公開することはなかなか難しい(例外として、名のある映画監督の作品などはオリジナルでも300館近い劇場で公開されることが多い)。
必然的にオリジナル脚本による映画は、公開規模の小さい作品にならざるを得ない。映画ランキングに登場することも少なく、爆発的な動員につながることは期待できないが、決してデメリットばかりではない。製作費が少ないことは、舞台挨拶等で監督やキャストが笑い話として語ることが多いが、そのぶんリクープライン(損益分岐点)も低く、小規模ならではの戦略でヒットさせることも可能なのだ。
良作は多いが小規模公開にならざるを得ないオリジナル映画
ある映画プロデューサーは「作品にあった公開規模というものがある。作家性の強いオリジナル作品は、小さい公開規模で徐々に広げていく方があっている場合が多い。いたずらに製作費をかけてしまったために、劇場数を増やさなければならず、客入りがイマイチという印象を持たれ、早々と打ち切りになってしまうケースもある」と語っていたことがある。“興行は水もの”というが、どれだけ経験を積んでも絶対はないのだ。
先に挙げた漫画実写化や『君の名は。』の大ヒットばかりが話題になっていた2016年も、非常に個性的で作家性の強いオリジナル作品が公開されており、しっかりと好成績を残している。5月21日に封切られた真利子哲也監督の『ディストラクション・ベイビーズ』(東京テアトル)は、全国18館で公開され、テアトル新宿では土日11回の上映がすべて満席になり、直後に各劇場で拡大公開。40館以上での劇場で公開された。
また、10月29日公開の『湯を沸かすほどの熱い愛』(中野量太監督/クロックワークス)は、ぴあ映画初日満足度ランキングで1位になるほか、第41回報知映画賞では作品賞、主演女優賞、助演女優賞、新人賞を受賞するなど高い評価を得ており、さらなる興行的広がりが期待できる。そのほか、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』(深田晃司監督/エレファントハウス)や、橋本愛&宮崎あおいが共演した『バースデーカード』(吉田康弘監督/東映)など良質なオリジナル作品の公開が目立つ。
『バースデーカード』は、いわゆるメジャー配給会社での監督経験がない吉田康弘監督のオリジナル作品にも関わらず100館を超える劇場で公開された。同作で主演を務めた橋本は「オリジナル作品でここまで豊かな作品を作れるんだということを示したい」と強い想いを語っていた。
東宝2作の大ヒットでメジャー配給オリジナル回帰の流れが生まれるか?
昨今の映画シーンにおいては、前述のように小規模公開作品ではオリジナルは多いものの、メジャー配給作品としては一部著名な監督を除きあまり目立つことがなかった。そんななかで、『君の名は。』と『シン・ゴジラ』の破格の大ヒットは、映画界にとって意義のあるものになったことだろう。この2作のヒットがあったからといって、すぐにメジャー配給でのオリジナル作品が増えるということはないかもしれない。しかし、映画ファンはもとより、世間一般の人々の間でも“オリジナル”である作品のメッセージ性やおもしろさが認識されつつある状況のなか、その重要性やポテンシャルの高さは映画業界のなかで見直されていくに違いない。
ほぼすべてのドラマツルギーが出揃ってしまった感がある現代において“今まで観たことがない!”というオリジナリティを求めるのは酷かもしれない。実際、どんな斬新な作品だと思っていても、必ず「何かに似ている」という指摘はある。そんななかでも、黒澤明監督をはじめ、過去の巨匠たちが残したオリジナル作品には、作り手の“伝えたいメッセージ”がしっかりと込められている。そもそも映画とは、監督やプロデューサーが伝えたい、伝えるべきと考えるメッセージを自身の手で書き上げ、映像に込めて世の中に発信してきたメディアである。2017年、そんな作り手の熱量がヒシヒシと伝わってくる作品にどれだけ出会えるのか。期待に胸が膨らむ。
(文:磯部正和)