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(更新: ORICON NEWS

『シン・ゴジラ』大ヒットで“エヴァの呪縛”から解放された庵野秀明

 『エヴァンゲリオン』シリーズの庵野秀明が脚本・総監督を務めた『シン・ゴジラ』が公開4日間で興収10億円を超える大ヒットを記録している。一部には「明快な怪獣映画が観たかった」「政治の話が中心で内容的に子どもには理解しづらい」といった否定的な意見はあるものの、全体的な観客からの作品評価はおおむね高く、ネット上では興奮した様子で早くも複数回観たと語る観客の口コミも散見される。

 また、シネコンでの1日の上映回数も非常に多く、さらに4DX、IMAXといった、鑑賞料金の高いプレミアムシアターで観たいという声も高まっていることから、1989年以降に製作された『ゴジラ』シリーズの中では最大のヒット作となった1993年の『ゴジラVSモスラ』(配給収入22億円=推定興収38億円)、さらには1998年に制作されたハリウッド版『GODZILLA』(配給収入30億円=推定興収50億円)を超える興行成績も期待されている。

◆『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』製作でうつ状態になっていたことを告白

 そんな結果を残した庵野秀明総監督だが、その道のりは決して平たんなものではなかった。本作制作に向けて寄せたメッセージ内で「『エヴァ』は魂の削られ方が激しい」と語った庵野は、2012年の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』公開直後に鬱(うつ)状態になったことを告白し、「6年間、自分の魂を削って再びエヴァを作っていた事への、当然の報いでした」と振り返る。

 『エヴァンゲリオン』シリーズは庵野の人生観が色濃く反映された、というよりも庵野そのものと言うべき作品であり、それゆえに作品が完成するたびに完全燃焼を繰り返してきた。しかし、2007年の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』第1作公開からおよそ9年という歳月を経て、いまなお未完のプロジェクトとなっている『新劇場版』に対するファンの飢餓感は、『序』『破』『Q』と作品を重ねるごとに高まっている。それゆえ、庵野が公のイベントなどに登場するたびに、「そんなことよりも早くエヴァの新作を」というファンからのプレッシャーの声が起こるのは、ある種の恒例行事のようになっていた。
 そんななか、2013年1月末に、庵野は『シン・ゴジラ』総監督のオファーを受ける。エグゼクティブプロデューサーを務めた山内章弘氏は、「日本のゴジラを復活させるにあたり、日本を代表する監督でなければならない。庵野さんは日本を代表するクリエーターであり、実写の経験もあり、さらには特撮への愛情・造詣も深い」とその理由を説明する。

 もちろん『エヴァンゲリオン』の制作を中断して『シン・ゴジラ』の監督を受ければ、エヴァの新作を待ち望むファンからの集中砲火を浴びることは必至。庵野自身、最初はそのオファーを「エヴァもあるし、できません」と固辞したというが、盟友・樋口真嗣監督らの説得によりオファーを受けることを決意。その理由を「エヴァ以外の新たな作品を自分に取り入れないと先に続かない状態を実感し、引き受ける事にしました」と説明。その切実なコメントからも、まさに不退転の決意で本作に向きあったことが分かる。

アニメではなく“実写映画”ヒット作を手に入れたことで次作制作を留保

 庵野と樋口のふたりが新しいゴジラを手がけるというニュースは大きな驚きと期待感とともに広がった。しかし一方で、デジタルビデオの映像を大胆に導入した『ラブ&ポップ』や、アニメーションの手法で実写を撮影した『CUTIE HONEY キューティーハニー』など、これまで映像的には意欲的な作品を発表しながらも、とくに実写の分野では『エヴァ』に匹敵するような大ヒット作を生み出していたわけではなかった庵野と、近作の実写『進撃の巨人』作品評価がそれほど芳しくなかった樋口とのタッグに心配の声があがっていたのも事実。さらには、近年の庵野が徹底している情報統制の影響もあり、新作の情報がまったく世間に流布しなかったことも「ゴジラよりもエヴァを」という声につながっていた部分もある。

 しかし、実際にふたを開けてみれば、そこには『エヴァ』ファンの飢餓感を満たすような作品世界が展開されており、そこに『エヴァ』との共通点を考察する熱狂的なファンが続出。いまだ未見の人たちのなかには『シン・ゴジラ』に疑心暗鬼な層が少なからずいるものの、庵野をめぐる状況は好転しているようにも見える。

 本作は、複数の会社が出資しあってリスクを分散する製作委員会方式をとらずに、東宝が単独で制作。複数のスポンサーの意向をとりまとめる必要がない環境は、作家性の強い庵野にとって好条件であったことは想像に難くない。事実、本作の撮影前に「この映画は珍しく東宝がお金を出してくれました。それを無駄なく使いたいと思います。ギリギリまでがんばります!」とうれしそうに切り出した庵野は、スタッフに対して「何よりもおもしろい日本映画を目指してやっていきたいと思います!」と力強く宣言した。その結果、『ゴジラ』があったからこそ『エヴァンゲリオン』があるのだ、という庵野の『ゴジラ』愛が非常に色濃く出た作品になった。
 それと同時に庵野ファン以外の一般層にとっては、これまで庵野秀明=エヴァであったイメージが、今回の『シン・ゴジラ』の成功によって変わった。庵野にとっては、実写の分野でも一般層に訴求するような、もうひとつの代表作を獲得したということも大きいだろう。この“実写ヒット”を手に入れた庵野は、“エヴァ以外も撮れる”“実写ヒットを生み出す作家”であることを改めて世に示し、次作制作を留保したといえる。今後、より実写制作の幅を広げていくことへのファンの期待も高まっていることだろう。そんな庵野がどんな『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』完結編を見せてくれるのか。より多くのファンからの注目が集まっている。
(文:壬生智裕)

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