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“ゾンビ映画はヒットしない”定説を覆す? 『アイアムアヒーロー』異例ヒット
ホラーとの違いとは?“ソンビ映画”の基本ルール
海外のゾンビ映画では“ブードゥー教で蘇らせた死者”を奴隷として働かせたという実話に近いものから、原因は不明だが死者がお墓から蘇る王道のゾンビ映画『ゾンビ』(ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロ監督作)、さらにはマイケル・ジャクソンの世界的大ヒット曲『スリラー』ミュージックビデオでの踊るダンシングゾンビなども有名だ。『ゾンビ』では“のろのろ歩く”“頭を破壊すると二度と蘇らない”というゾンビの基本ルールが作られ、その後の多くの映画がこのルールに従って製作されている。
日本ではゲームは人気も、映画はコアファンに限られる
それだけ映画関係者のなかにもゾンビファンは多い。ところがいまひとつ話題にならず、どれも不発ぎみに終わっていることが多い。そのひとつの要因には、日本は銃社会ではなく土葬の習慣も無いため、いわゆる海外で作られるような真面目なゾンビ映画の設定が難しい、観客が共感しにくいということがある。さらに、一般層の間では、ホラーそのものが苦手、わざわざ観たいとは思わないという風潮もあるようだ。映画ファンの間ではゾンビ好きは多いのだが、その物語性のおもしろさは、なかなか若い世代を含む一般層には響いていないことがうかがえる。
人気キャストと原作ファン、ライト層を取り込んだ邦画大作
このヒットの最大の要因には、人気キャストによるエンタメライト層へのアプローチに成功していることだろう。それに加えて、そういったゾンビ映画に慣れていない人たちに、過激な映像描写への驚きとともに、それを映し出す理由があるメッセージ性のある人間ドラマがしっかりと描かれているところのおもしろさが伝わり、ゾンビへのネガティブな反応が起きなかったことがある。同作では、家族や友人など愛する人とある日突然、戦ったり殺し合ったりしなければいけなくなる絶望感があり、“強者が弱者を支配する”“誰かを守ることで英雄になれる”というストーリー部分も丁寧に作られている。
そこには、ただ怖がらせるだけのホラー映画では味わうことができない、観る人それぞれに想像する余白を与えることで物語をおもしろくするゾンビ映画の醍醐味がつまっている。原作ファンも多い人気漫画をライト層にまで響く極上のエンタテインメント映画に仕上げた『アイアムアヒーロー』は、ゾンビ映画観客層の裾野を広げた。これまでの“ゾンビ映画はヒットしない”という日本映画界のジンクスを打ち破る作品になるかもしれない。
(文:奥村百恵、編集部)