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役者の力量が問われる入れ替わり劇 時代性に即した古典的コンテンツの強度

  • (C)テレビ朝日

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現在放送中の深夜ドラマ『民王』(テレビ朝日系)の人気が高まっている。現職総理大臣の武藤泰山(遠藤憲一)と、草食系の息子・翔(菅田将暉)の体が、突然入れ替わってしまう設定のコメディ作品だ。そのおもしろさの根底にあるのが“入れ替わり劇”。邦洋を問わず昔からある古典的なエンタテインメントだが、時代性をもたせたそのコンテンツの普遍的な強度を改めて示しているといえるかもしれない。

名作から話題作まで“入れ替わり劇”の数は多い

 心と体が入れ替わるという、観る者の目を引く奇想天外な設定から、大林宣彦監督の名画『転校生』(1982年)を筆頭に、映画『秘密』(1999年)『鍵泥棒のメソッド』(2012年)、ドラマ『ドン☆キホーテ』(日本テレビ系/2011年)『山田くんと7人の魔女』(フジテレビ系/2013年)『夫のカノジョ』(TBS系/2013年)など、これまでにも数々の入れ替わり劇が作られてきた。

 そのなかでもとくに印象深い作品を挙げるなら、舘ひろしと新垣結衣ふんする、サラリーマンのパパと女子高生の娘が入れ替わるホームドラマ『パパとムスメの7日間』(TBS系/2007年)。それまで強面のイメージの強かった舘が、ホームドラマに初挑戦し、ガッキーに負けないかわいらしさで話題を集めた。昨年放送されたドラマ『さよなら私』(NHK総合)では、高校卒業後、誰もが羨む専業主婦(永作博美)と、独身の映画プロデューサー(石田ゆり子)となり、久しぶりに再会したふたりの女性が入れ替わる。違う人生を生きてみたいという、乙女チックな欲求を満たす一方で、母親としての自分の人生に責任を持ち始めていく中年女性の心の変化を、永作がナチュラルに表現した。

 一人二役という難易度の高さが求められる入れ替わり劇では、演じ手の力量が問われる。前述した作品のように、配役とうまくハマれば、思いもよらぬ化学反応を引き起こして名作が生まれるが、そうならないケースも多い。非常にギャンブル性の高い作品ジャンルともいえる。

荒唐無稽な作品世界に引き込む、巧みな芝居

 そんな入れ替わり劇で、時代に即した物語性とキャスティングで成功したのが『民王』だ。主演を務める遠藤と菅田は、ビジュアルも含めた役柄との絶妙なマッチングと演技力が見事にハマった。20歳の草食系男子を、バンビのように潤んだ瞳で演じ切る遠藤。ベテラン俳優の遠藤や金田明夫らに物怖じすることなく頭を引っ叩き、堂々とした大芝居を打ってみせる菅田。芝居の巧さには定評のあるふたりだけに、荒唐無稽な作品世界に視聴者をぐいぐいと引き込んでいく力がある。

 『民王』ではさらにもう1組、入れ替わり父娘が登場するところが新しく、物語に深みと滑稽さを加えている。泰山&翔親子とともに、泰山の政敵・蔵本とその娘(翔の大学の同級生)エリカ親子も入れ替わっている。こちらの親子を演じるのは、草刈正雄と知英。ワニ顔で体育座りをする遠藤の衝撃も大きいが、女の子言葉でナイーブな乙女心を打ち明ける、ダンディ俳優・草刈の破壊力もすばらしい。クールコンビが、キテレツなキャラ設定により説得力を持たせている。これぞキャスティングの勝利といえるだろう。

 もうひとつ挙げるとすれば、これまでの多くの作品の“入れ替わり”がファンタジーだったのに対して、『民王』ではアメリカの最新科学技術で脳波を入れ替えられてしまうという、ある種のリアル(!?)に寄せている点がおもしろい。しかも、物語の途中からそれが判明し、2組目の入れ替わりがいることが明らかになって、ストーリーが新たな展開を迎えている。

 ベストセラー作家・池井戸潤氏の原作による同ドラマは、オリジナルの脚色が加えられながらも、大企業や現代社会の矛盾を鋭く衝き、市井の人々の溜飲を下げる展開は健在。そこに入れ替わり劇が加わり、政治にド素人の素朴な学生が総理大臣になり、若者感覚でさまざまな社会問題の解決の糸口を見つけ出し、国を動かしていく。そんなドラマチックな展開に共感するのは、若者世代だけではないはずだ。現代日本版入れ替わり劇の秀作の1本といっても過言ではないだろう。入れ替わり劇のおもしろさを改めて示してくれた。

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