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韓国映画特集『2014年後半を振り返る☆空前のヒット作が登場!K-POPスターが続々映画シーンに進出する背景』

<< インタビュー1>>

作家・深沢潮さんインタビュー
自意識が強く描かれるものを好む傾向が出てきている
在日のお見合いを仕切る「お見合いおばさん」のもとを訪れる親子の婚活の実態を描いた『ハンサラン 愛する人びと』や、デモが行われる一方で熱心なK-POPファンなどのいる新大久保の「今」を切り取った『ここではない』など、在日韓国人と日本と韓国についての本を書かれてきた小説家の深沢潮さん。韓国社会と今の若者の意識、そして韓国映画の現在についても語ってもらった。

半径50mくらいのものが受け入れられやすい

――最近ご覧になった韓国映画ってどういうのがありますか?
深沢 娘と映画館で『怪しい彼女』、DVDで3回目の視聴になりますが『サニー 永遠の仲間たち』を観ました。こっぱずかしいくらいストレートで生真面目だけど、韓国のエンタメだとすんなり受け入れられる。ベタな良さがあると思いました。

――日本にもベタなものはありますけど、どういうところが違うと思われますか?
深沢 恋愛のベタな作品は日本にもありますね。韓国は親子関係や友情など、社会に対する正義感、倫理観に関してのベタさでしょうか。日本にいると、正義感で行動するのってちょっと恥ずかしところがありますよね。でも、正しいことを正しいと言って何が悪い!というベタさがあるように思います。斜に構える感じがない。あと、ちょっとおかしみがありますね。例えば『ワンドゥギ』という映画があって、他人よりも身長の低い父親と風変わりな叔父、18歳になって初めて知るフィリピン国籍の母親とその息子が出てくる作品で、辛い部分も多いのに、エンタメとしての完成度の高さがありました。

――悲しみと喜び、両方あってもいいという感じがありますね。深沢さんは、小説を書いていて、日本ではこういうものがウケるという傾向は感じますか?
深沢 社会問題を書いても、なかなか受け入れられにくいということはあるような気がします。山崎豊子さんのような、社会に対する倫理観を問うものは今はなかなか難しいのではないでしょうか。逆に半径50mくらいのものが受け入れられやすい傾向にありそうです。自分のことを、もっと言えば自意識の問題を書いた小説の方が受け入れられやすいと言われたことがあります。

――逆に韓国では自意識を問題にする映画は少ないですよね。
深沢 韓国は未だに戦争中で休戦状態にあるんです。男の子は兵役もあるし、肌で感じる緊張感は日本とは比べものにならないと思います。それから自分で民主化を勝ち取ったという成功体験もあるので、『トガニ 幼き瞳の告発』のように、映画で世の中を動かせるという希望も持っているのだと思います。

日本では考えられないくらい大きくて重要なこと

――韓国はアジアのラテンとも言われていますし、ケンチャナヨ(大丈夫)精神もあると言いますよね。閉塞感をそこまで感じていないんでしょうか。
深沢 先日、スペインに行ってきたんですが、独裁政権から民主化して日が浅い点など韓国と似ているところがあると思いました。スペインも、ITに夢中になったり、新しいものを取り入れることにてらいがない感じはあります。それから、ソウルに行くと、年々街が整備されてきれいになっていくんですね。その変わっていく感じを見ていると、だんだんと良くなっているという自覚を持てるでしょうね。日本は、年々細かい部分で便利になっているとはいえ、変化はそこまで見えないですから。私は、チョン・ドファン政権の頃に韓国に行ったことがあるのですが、突然サイレンが鳴るし、そうなるとその場を動いちゃいけなかったんですね。それくらいここ30年くらいの変化が目覚ましいんです。軍事政権の様子は映画『サニー 永遠の仲間たち』にも出てきますけど。

――夜間禁止令があったころですね。チョン・ドファン政権よりはちょっと前の話ですが、『GO GO 70s』という映画では、1970年代に韓国ではカントリーやトロット(演歌)以外の音楽が禁止されていて、そんななかでロックやソウルなどの音楽にのめりこんだ若者の姿が描かれていました。
深沢 そうなんです。自由に音楽を楽しむことや外出すら禁止されていた時代があったので、映画などの表現が自由にできることは、日本では考えられないくらい大きくて重要なことなんです。最近、小説のために済州島で起こった『4・3事件』について調べています。『チスル』という映画にもなりました。韓国人が韓国人を虐殺するというタブーを描いているんですが、今はそんなタブーも、映画にできる。膿を自らが出しているんです。

――『トガニ』もある意味、韓国社会の膿を出す一本でしたよね。でも、そんなタブーを描くことには躊躇がないのに、キム・ギドク的な世界に対しては、まだタブー視する韓国というのが不思議です。
深沢 韓国映画にはエグい暴力描写は多いものの、やっぱり性や自意識に対するタブーはまだまだ大きいですよね。韓国の若い人たちにもいろいろ聞きましたが、ギドクの生々しさは苦手と言っていました。韓国ではキリスト教徒も増えましたが、そこに儒教的な考えも合わさって、性的なもの、露悪的なものに対しては苦手意識が強いのかもしれないですね。それと、よく「二歩先を行く人は嫌われる」とも言います。韓国では先鋭的すぎると一般的にはまだ受け入れられないのかもしれません。私も『嘆きのピエタ』を観て、観る人によって感じ方の違う映画だと思いました。

感覚勝負ができる人はまだ少ない

――ホン・サンス監督の『自由が丘で』も観る人によって感じ方の違う映画だと思いました。でも、韓国の大作映画は、誰が観ても同じ感じ方のできる映画も多いですよね。
深沢 そうですね。見事な起承転結で破たんがない。テクニックがあるという感じですね。私も小説を書く身なので、大作の描き方を見ると勉強になります。泣かせどころとかも、これでもかと詳細に描いていたりするし、最後に一回ひっくり返ったあとに、もう一回ひっくり返したりする。そんな韓国のむきだしの表現方法を見ていると、自分の小説を書くときにも、あまり抑えないで出し切ってから、削っていくという方法もいいかなと思いました。でも、ホン・サンス監督の作品は、真似はできない世界観で、純粋な娯楽として観ています。やっぱり、秀才のものは追いつけるけど、天才のものはおいつけないということなんでしょうか。韓国は勉強するのも練習するのも、がんばることを強いられる社会です。K-POPのアイドルの練習量が多いことでも有名ですよね。俳優も大学で演技論を学んだり。多くの監督も大学を出てセオリーを学んでからその世界に入るので、そのセオリーを崩すのはなかなか大変なのかもしれません。

――そういうこともあって、何も特別なことが起こらないのに心の機微が描けるところが、日本映画はすごいっていう韓国の映画人が多いんですね。
深沢 韓国の場合の大作映画は、やっぱりハリウッドに近いと思います。キャラを配置して破たんのない脚本で、要所要所にサービス精神もあって。逆に、感覚勝負ができる人はまだ少ないような気はします。

――そう考えると、キム・ギドク監督は韓国では珍しくたたき上げですね。
深沢 ギドク監督と対照的にホン・サンス監督はカリフォルニア美術大学を出て、シカゴ美術館付属美術大学に行っていたようです。ヨーロッパ的なあの作風ですが、学んだのはアメリカなのは意外ですね。

『ノルウェイの森』は今の韓国の雰囲気と似ている

――最近の韓国の大学生は、いわゆるメジャーな韓国映画、ブロックバスター的な作品は観ないという人も多くなっていると聞きました。今年の釜山映画祭でもそういう子はホン・サンス監督の映画や加瀬亮の挨拶は見たいと言っていました。
深沢 やっぱり、民主化を知っているか、知らないかでは違うでしょうね。民主化宣言は1987年ですから、その後に生まれた若い子は、いくら徴兵制があっても実感はないかもしれません。だから、上の世代よりは、自意識が強く描かれるものを好む傾向が出てきているのかもしれません。

――今までは「お前がいないと死んでしまう」という歌詞の多かったK-POPも変わってきましたね。G-DRAGONは、「俺はダメな男だから離れていいよ、不甲斐ないけど、変われない」と歌っていますが、韓国のなかではすごく自意識が強くてこじらせている感じがします。
深沢 親や世間に対してのいい子であるとか、そういう規範がちょっとずつ崩壊してきているのかもしれません。そうなると、エンターテインメントにおける表現や映画も変わってきますよね。あと、驚いたのは、ある学生に話を聞いたときに『ノルウェイの森』は、今の韓国の雰囲気と似ていると言っていたことです。今がちょうどそういうときなのでしょうか。

――さきほど、善悪がはっきりしているという話がありましたね。日本では、単に美人がいいわけでもないし、お金持ちだったらいいわけでもないし、勉強ができたらいいわけでもなくて、その尺度があいまいでもあり、多様でもありますよね。でも、韓国は良いと悪いの中間というものがなかなか難しいのではないかと思います。そう考えると、韓国の人が日本で自由が丘とか代官山によく来ているのは、中間の場所という気がするんです。
深沢 そうですね、東京のセレブは田園調布にもいれば、青山に住んでいることもあるけれど、ソウルのセレブはカンナムの狭い特定の地域を目指します。今の韓国の政治は、「カンナムの人のための政治・経済だ」って言われることもあるくらい政財界の人が集中しています。そして、そこで子どもは名門の学校に行って、お金持ちになっていく。目指すところがわかりやすいんです。

――ほかにも、韓国のここを知るとわかりやすいという部分はありますか?
深沢 韓国に行って、人に紹介されるときに、「有名な小説家です」って言われることがあるんですけど、こっちの感覚で「そんなことないです」って答えると、「韓国では有名っていうと、態度も違うし、向こうも有名な人と会っていると思って接するほうが気分がいいんだから、有名だって言ってください」って言われて。考え方によっては、そういうルールさえわかれば、腹のさぐりあいをしないでいいから楽でもあるんです。
(文:西森路代)
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深沢潮さん
小説家。著書に『ランチに行きましょう』(外部サイト)(徳間書店)『伴侶の偏差値』(外部サイト)(新潮社)『ハンサラン 愛する人びと』(外部サイト)(新潮社)などがある。実業之日本社Web『ジェイノベルプラス』にて「ここではない」(外部サイト)を連載中。
【公式Twitter】(外部サイト)

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