今月27日に開幕するカナダ・モントリオール世界映画祭。昨年、『おくりびと』がコンペティション部門でグランプリを受賞し、後に米アカデミー賞外国語映画賞を受賞したことから、オスカーへの“近道”と注目度が一段と高まっている同映画祭には、今年、日本から6部門9作品の出品が決定している。また、これを皮切りに9月から10月にかけては、ベネチア、トロント、ニューヨーク、そして東京と、国際映画祭の開催も控える。映画祭に出品する意義はどこにあるのか? アジア最大級の東京国際映画祭でコンペティション プログラミングディレクターを務める矢田部吉彦さんに聞いた。
■モントリオール世界映画祭(2009年8月27日〜9月7日)
■ヴェネチア国際映画祭(2009年9月2日〜12日)
■トロント国際映画祭(2009年9月10日〜9月19日)
◆海外の映画祭への出品が付加価値になる
| 第33回モントリオール世界映画祭ワールド・コンペティション部門へ出品される映画『ディア・ドクター』 僻地医療の現場を舞台に、ニセモノをめぐる人々の心模様を描いた西川美和監督の長編映画第2作。笑福亭鶴瓶の人生の機微がにじみ出る演技が光る | |
| 第33回モントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門へ出品される映画『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』 太宰治の小説を原作に、浅野忠信、松たか子が演じる夫婦愛をはじめ、様々な男女の愛を描く。広末涼子、妻夫木聡、堤真一が共演 | |
――2匹目のドジョウを狙うかのように、「○○映画祭に出品決定」を宣伝文句に使う映画が急増した気がします。
【矢田部】:1990年代後半から2000年代初頭にかけて、積極的に海外の映画祭に出品し、賞を獲って凱旋するというケースが続いた時期がありました。1997年にカンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞した河瀬直美監督の『萌の朱雀』、2000年にはカンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞とエキュメニック賞をダブル受賞した青山真治監督の『EUREKA(ユリイカ)』が好例ですね。その熱が少し冷めていたのが、ここ数年、再燃した感じはありますね。
――今、海外の映画祭に出品する目的とは何なのでしょうか?
【矢田部】:それは国内で映画がなかなか当たりにくくなってきており、少しでも多くの付加価値を付けたいということで、海外の映画祭への出品に積極的になってきているのではないでしょうか。
――付加価値にするには映画祭自体のステータスが重要。モントリオール世界映画際はどのような位置づけにあるのでしょうか?
【矢田部】:北米において重要な国際映画祭が2つあって、その1つがモントリオール世界映画祭で、もう1つがトロント国際映画祭です。開催時期も近く、近年はトロントに勢いがあります。開催規模の大きさでも、マーケットの重要度においても、カンヌ、ベネチアに次ぐ映画祭と捉えている映画関係者は多いですね。とは言え、トロントにはコンペティション部門がなく、対するモントリオール世界映画祭は伝統的なコンペティション部門があって盛り上がります。
――オスカーへの“近道”と注目されていることについては?
【矢田部】:2つの映画祭が開催される9月は、時期的に米アカデミー賞に向けた賞レースのスタート時期にあたります。昨年、トロントで観客賞を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』(ダニー・ボイル監督)は、米アカデミー賞の作品賞を含む8部門を受賞していますし、モントリオールでグランプリを受賞した『おくりびと』が外国語作品賞を受賞したのは記憶に新しいですね。しかし、モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞した作品は『おくりびと』以前にもあるんですよ。2006年には奥田瑛ニ監督の『長い散歩』が受賞していますが、残念ながらオスカーには至りませんでした。『おくりびと』はモントリオールからオスカーにつながって、凱旋上映や海外への配給が成功したレアケースだったと思います。
| 日本映画とモントリオール世界映画祭 日本映画とモントリオール世界映画祭は縁が深く、受賞関連では古くは山田洋次監督の『遥かなる山の呼び声』(1980年)が審査員特別賞を、『鉄道員(ぽっぽや)』で俳優・高倉健が主演男優賞を受賞。2006年には奥田瑛二監督の『長い散歩』がグランプリ、国際批評家連盟賞、エキュメニック賞の3冠を達成。昨年はクランプリを受賞した『おくりびと』(滝田洋二郎監督)だけでなく、『誰も守ってくれない』(君塚良一監督)が脚本賞を受賞している。また、今年度の同映画祭では奥田瑛二が日本人初となるコンペティション部門の審査委員に選任されたほか、奥田が出演する映画『ちゃんと伝える』(園子温監督)がコンペティション部門の次に重要なFocus on World Cinema部門に出品される。 |
◆米アカデミー賞と映画祭のグランプリは似て非なるもの
――著名なのは世界三大映画祭といわれる、カンヌ、ベネチア、ベルリンの国際映画祭ですが・・・
【矢田部】:その中でも、カンヌ国際映画祭(フランスで毎年5月に開催)はちょっと別格ですね。歴史の長さ(1946年〜)、フランスという国の映画産業に対する力の入れ方、南仏という地の利、すべてが世界の映画祭の中で飛び抜けています。しかも、カンヌ国際映画祭には巨大な映画マーケットが併設されていて、向こう1年の映画ビジネスのかなりの部分がここで成立してしまう。なので、名のある実力監督たちは映画を作ったら、まずワールドプレミア(=世界初お目見え)はカンヌでやりたいと思う。そうすることで、作品のビジネスチャンスが広がり、監督をはじめその作品の製作に関わった人たちのステータスも向上するという好循環が出来上がっているのです。
| カンヌ国際映画祭ある視点部門正式出品に続き、トロント国際映画祭マスターズ部門への出品も決定した是枝裕和監督最新作『空気人形』 | |
――今年のカンヌ国際映画祭には、是枝和裕監督の『空気人形』がある視点部門で上映されました。
【矢田部】:カンヌ国際映画祭に出品を希望する作品は毎年数千本もあるのに、公式上映できるはせいぜい80本という狭き門。しかも作品を選定するディレクターの好みにも左右されるので、カンヌに出品できるというだけで十分価値があると思います。
――米アカデミー賞と映画祭のコンペティション部門はどう違うのですか?
【矢田部】:似て非なるものですよ。米アカデミー賞はアメリカの映画関係者が選ぶアメリカ映画(英語映画)に対する賞とその授賞式で、一方で映画祭というのは文字通り“国際的な映画のお祭り”です。世界中から集めた映画を特定の場所で短期間に上映して、コンペティションで競わせたり、俳優や監督をゲストに招いた映画関連イベントを行ったりして盛り上がるお祭りです。しかし、日本の一般の人の耳に届く宣伝文句としては、米アカデミー賞は別格のさらに別格、カンヌといっても映画に興味のない人は知らないかもしれないですね。
――映画祭に期待することは?
【矢田部】:東京国際映画祭を主催する立場としては、「この映画祭に出品して賞を獲ったら付加価値になる」と思われる映画祭になるよう、ステータスの向上に努めたいと思います。そして、宣伝のためでも何でも、日本映画が海外の映画祭に出て行くことは絶対にいい事。海外の監督たちはどの映画祭に出品して自分のキャリアをスタートさせるか、かなり意識的にやっていますので、英語字幕をつける手間とコストはかかりますけど、日本の若い監督たちにはぜひ積極的に考えてほしいですね。
◆主な国際映画祭への出品一覧
■モントリオール世界映画祭
| 部門 | 作品 |
| World Competiton | 『ディア・ドクター』西川美和監督 『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』 根岸吉太郎監督 ★最優秀監督賞受賞 |
| First Films World Competition | 『ニセ札』木村祐一監督 |
| World Greats | 『60歳のラブレター』深川栄洋監督 |
| Focus on World Cinema | 『行旅死亡人』井土紀州監督 『さまよう刃』益子昌一監督 『ちゃんと伝える』園子温監督 |
| Documentaries of the World | 『eatrip』野村友里監督 |
| Short Films Documentaries of the World | 『GRANDMOTHER』Yuki Kawamura |
■ヴェネチア国際映画祭
| 部門 | 作品 |
| Venezia 66(コンペティション) | 『TETSUO THE BULLET MAN』 塚本晋也監督 |
| Out of Competition | 『よなよなペンギン』りんたろう監督 |
■トロント国際映画祭
| 部門 | 作品 |
| Masters | 『空気人形』是枝裕和監督 |
| Special Presentations | 『カムイ外伝』崔洋一監督 |
| Midnight Madness | 『しんぼる』松本人志監督 |
| Discovery | 『ガマの油』役所広司監督 『ウルトラミラクルラブストーリー』横浜聡子監督 |
| Wavelength | 『Lumphini 2552』西川智也監督 |
2009/08/27