変人だが天才的頭脳を持つ物理学者・湯川学が、不可解な未解決事件を科学的検証と推理で鮮やかに解決していく、ベストセラー作家・東野圭吾原作の「ガリレオ」シリーズ。2007年にフジテレビ月9枠でドラマ化され20％台を超える高視聴率を記録。以降、08年に映画『容疑者xの献身』、13年には第2シーズンおよび映画『真夏の方程式』が次々にヒットし、多くの人に愛される人気シリーズとなった。それから9年、昨年公開された最新作『沈黙のパレード』では、主人公の湯川を演じる福山雅治と、湯川のバディ的役割の刑事・内海薫を演じる柴咲コウ、湯川の親友で内海の先輩刑事・草薙俊平を演じる北村一輝の3人が集結。二転三転するミステリーと、その背景にある人間ドラマを濃厚に描き、興行収益30億円の大成功を収めている。10年ひと昔と言うが、なぜ「ガリレオ」シリーズは、人々の心をかくも捉えて離さないのか。

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■冒頭5分の圧巻の演出　登場人物の関係性や想いを見事に凝縮

　これまでも計算され尽くした緻密な演出で話題となってきた映画「ガリレオ」シリーズだが、第3弾となる『沈黙のパレード』では、まず、冒頭5分で、観客の意表を突き、一気に作品世界へと引きずり込んでいく。

　物語は地域の夏祭り会場で開かれた“のど自慢大会”で、女子学生の並木佐織（川床明日香）が歌い出すシーンから始まる。緊張のあまり歌い出しを失敗し、バンドや聴衆に何度も謝る佐織。その微笑ましい姿に笑い声が上がる中、歌い始めた次の瞬間、場内は一気に静まり返る。そして、その美しい歌声をBGMに、映像では、彼女の生い立ちや追いかけていた夢、取り巻く人たちとの温かい人間模様が描かれるのだが…、最後に観客は佐織が事件の被害者となってしまったことを知る。

　言葉で説明することなく、各登場人物の関係性や想いを凝縮させて見せるこの5分は、ドラマシリーズから『ガリレオ』を手がけてきた監督の西谷弘、脚本の福田靖の手によるもの。画面の牧歌的な光景は、シリーズのどの作品にも当てはまらず、思わず自身の観ている作品を確認したくなるほどなのだが、次第にその雰囲気が解けていき、緊張感が高まっていく…。なんとも挑戦的で圧巻の演出となっているのだ。

　シリーズのどの作品にも当てはまらないという意味では、本作での、北村一輝演じる刑事・草薙にウエイトが置かれたストーリーもそうだろう。過去の事件で明らかな犯人を有罪に導くことができず、自分の無力に苛まれていた草薙は、今回の佐織の事件で、過去のその犯人が容疑者となりつつも、追い詰められずにもがき苦しむ。まるでもう1人の主人公のようにスポットライトが当たり、物語に厚みが増している。

■人間味も増す湯川　胸打たれる友に見せた優しさ

　そんな親友の苦悩する姿を目の当たりにして、湯川は実に彼らしいスタイルで、事件解決に向けて動き出す。柴咲コウ演じる刑事・内海薫に「血も涙もない」と指摘される科学オタクで非社交的な湯川が、友を思い、さらに事件の真相に迫った際には、友のために真実を暴くことに戸惑い、逡巡する様子を見せるのだ。

　「変人ガリレオ」の異名をもつ湯川は、これまでも、事件を通して人々と関わることにより、人としての心の成長を垣間見せてきた。本作では、相変わらずクールな論理派なので、初めて観る人にとってはドライなキャラクターに映るかもしれない。しかし、シリーズを観てきた人の中には、例えば、仮装パレードの動画を実に楽しそうに、笑みを浮かべながら撮影したり、常連が集う大衆食堂に通いつめ談笑したりと、今まで以上に柔らかな雰囲気をまとった湯川の姿に、驚きを覚えた人もいるのではないだろうか。前作の『真夏の方程式』から9年の時を経て、准教授から教授へと昇格している湯川は、間違いなく人間味も増しているのだ。

　ちなみに、湯川の意外な一面と言うことでは、本作で描かれる事件の4年前に起こったもう1つの事件を描いたスペシャルドラマ『ガリレオ 禁断の魔術』にも、かなり驚かされた。高校の物理研究会の後輩で、帝都大学医学部の新入生・古芝伸吾（村上虹郎）に殺人の疑いがかけられたことを知った湯川は、いつになく感情的になり、草薙と激しくぶつかる。これまで客観的に物事を見て判断してきた彼が、科学者として、そして１人の人間として葛藤する姿を見せているのだ。それは全て自身の教え子に対する深い思いから出た行動なのだが、今までのクールな彼からは考えられない人間味のある姿に、「ガリレオ」シリーズの15年という時間の重みと、成熟を垣間見た思いがした。ドラマは映画公開直後に放送されたわけだが、このドラマを観ることによって、映画で湯川が草薙に見せた優しさが、いっそう心に沁みてくるのではないだろうか。

■登場人物たちへ魂の救済　心に沁み入る主題歌「ヒトツボシ」

　さらに映画を重厚なヒューマンドラマに仕立てているのが、佐織を取り巻く多数の登場人物たちだ。小さな町で正直に一生懸命暮らしている人たちが、佐織の死をきっかけに、歯車を狂わせ、誰かが傷つくことを恐れて、沈黙していく。1人ひとりの心情や人間模様を丁寧に、冗長になりすぎずに描き、椎名桔平、檀れい、吉田羊、飯尾和樹、戸田菜穂、田口浩正、酒向芳、岡山天音、出口夏希ら豪華な面々が真に迫る演技で表現し、観客は、ミステリーの謎解き以上に、登場人物たちに感情移入することになる。

　また、本作で久々のコンビ復活となった湯川と内海だが、2人の軽妙洒脱なやりとりは健在。15年にわたり構築してきた関係性が安定感をもたらしているようで、ともすれば重くなりがちな空気を和らげる、良いアクセントとなっている。そして、その2人を演じる福山と柴咲がタッグを組んだユニットKOH+（※）も、9年の時を経て本作で再結成している。福山が映画の登場人物たちへ魂の救済として愛を込めて書き下ろした主題歌「ヒトツボシ」を、柴咲が優しくも凛とした芯のある歌声で表現している。

　3月3日に発売されるスペシャル・エディションBlu-ray&DVDには、本編に加え、福山、柴咲、北村、西村監督が厳選したシーンについて語るビジュアルコメンタリーや公開記念特番『コウ福のラジオ』完全版など、ここでしか見られない映像も収録。

　科学的検証と推理を解決のベースとした本格ミステリーでありながらも、謎解き以上に、人間ドラマが心に響く本作。長く愛され続けてきたシリーズならではの実力を堪能してほしい。
※＋は上付き

文・河上いつ子

Blu-ray＆DVD『沈黙のパレード』
3月3日（金）発売
■スペシャル・エディション（3枚組）
Blu-ray：価格 7920 円（税込）／DVD：価格 6820 円（税込）
※特典ディスクはDVDとなります
■スタンダード・エディション
Blu-ray：価格 5280 円（税込）／DVD：価格 4180 円（税込）

【Blu-ray／DVD　スペシャル・エディション 3枚組】
＜特典映像＞
・ビジュアルコメンタリー 〜シーンセレクション〜（福山雅治、柴咲コウ、北村一輝、西谷弘監督）
・公開記念特番『コウ福のラジオ』完全版　
・イベント集（ジャパンプレミア／完成披露試写会舞台挨拶／ファンミーティング＆特別試写会 in 福岡／初日舞台挨拶／公開記念舞台挨拶 in 名古屋／公開記念イベント＆舞台挨拶 in 大阪／大ヒット御礼舞台挨拶／大大ヒット御礼舞台挨拶）
・クランクアップ集
・予告編集（予告／特報）※本編ディスクに収録
・TVCM集（ティザー編／ミステリー編／エモーショナル編／完成披露編／ガリレオ旋風席巻編）※本編ディスクに収録

発売元：フジテレビジョン
販売元：TC エンタテインメント
（C）2022フジテレビジョン、アミューズ、文藝春秋、FNS27社

■キャスト
福山雅治　柴咲コウ・北村一輝
飯尾和樹　戸田菜穂　田口浩正　酒向芳
岡山天音　川床明日香　出口夏希　村上淳
吉田羊　檀れい　椎名桔平
■スタッフ
原作：東野圭吾「沈黙のパレード」（文春文庫刊）
脚本：福田靖
監督：西谷弘
音楽：菅野祐悟　福山雅治
主題歌：KOH+「ヒトツボシ」（アミューズ／ユニバーサルJ）
製作：フジテレビジョン　アミューズ　文藝春秋　FNS27社

Blu-ray＆DVD『ガリレオ 禁断の魔術』
2月15日（水）発売
Blu-ray：価格 5280 円（税込）／DVD：価格4290 円（税込）
＜特典映像＞
・メイキング

発売元：フジテレビジョン
販売元：TC エンタテインメント
（C）2022フジテレビジョン

■キャスト
福山雅治　　新木優子　　澤部 佑（ハライチ）　村上虹郎　森 七菜　朝倉あき　平原テツ
中村雅俊（特別出演）　鈴木浩介　　渡辺いっけい　　北村一輝
■スタッフ
原作：東野圭吾「禁断の魔術」（文春文庫刊）
脚本：岡田道尚
音楽：菅野祐悟・福山雅治『オリジナルサウンドトラック』（ユニバーサルミュージック）
企画・プロデュース：鈴木吉弘
プロデュース：宋 ハナ、古郡真也（FILM）
演出：三橋利行（FILM）
制作・著作：フジテレビ

映画「沈黙のパレード」から
（C）2022フジテレビジョン、アミューズ、文藝春秋、FNS27社