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『明日の君がもっと好き』脚本家の本音「無視されるが一番怖い」

 テレビ朝日系で放送中の市原隼人主演ドラマ『明日の君がもっと好き』(10日放送の最終回は後11:20〜)。爽やかなタイトルとは裏腹に、複雑に入り組んだ男女関係をとがった視点で描き出し、刺激をたっぷりはらんだ展開が続いてきたが、いよいよ最終回を迎える。「月がデカイ」「マントとハットが…」「BGMが三味線…」など、「ツッコミどころ満載でめちゃくちゃカオスだけど面白い」と、SNS上を賑わせてきた本作。最終回を前に、脚本を手がけた井沢満氏と、里川静子役で出演した女優の三田佳子に話を聞いた。

 井沢氏は、連続テレビ小説『君の名は』(NHK)、『氷点』(テレビ朝日)、『外科医 有森冴子』(日本テレビ)などで知られ、時代を正確に切り取った鋭いせりふ回しに定評のあるベテラン脚本家。近年は、2012年『花嫁の父』、13年『母。わが子へ』、15年『わが家』(3作品ともMBS)といった家族をテーマにした作品で文化庁芸術祭優秀賞をはじめとする数々の賞を受賞している。三田については言うに及ばず、1960年にデビューして以来、映画・ドラマ・舞台の第一線で活躍し続ける大女優。井沢氏とは『外科医・有森冴子』シリーズなどでタッグを組み、公私にわたって親交がある。

 これまでの反響をどう受け止めているのか。まずは、井沢氏。「今回は深夜枠で放送されることもあって、かなりテンションを上げて、隈取りをきつくして、劇画っぽい中に文芸をチラッと入れようと思いました。世間からツッコミが入るところは予見していましたし、ツッコミ自体がテレビの賑わい。筋違いなツッコミがあったとしても、それだってうれしいですよ。無視されるのが一番怖い。いまはSNSで伝わりますので、どんどん意見を寄せてほしいですね」。

 このドラマは、恋愛に消極的な松尾亮(市原)、恋人を妹に奪われて以来、ダメ男とばかり関係を持ってきた里川茜(伊藤歩)、自らの性的アイデンティティーに悩む丹野香(森川葵)、母親に虐待されたトラウマで歪んだ女性観を持つ城崎遥飛(白洲迅)の4人の恋愛模様を描いたものだが、4人の恋路に首を突っ込む茜の妹・黒田梓(志田未来)の性悪ぶりや、人生の先輩である茜と梓の祖父母の修羅場が盛り込まれ、“想定外”の物語を紡いでいる。

 特に、三田が演じる静子は、「夕焼けは嫉妬の色」「一時の春に浮かれても一生の計算は忘れない」など、詩的で格言めいたことばを孫の茜に聞かせながら、寝たきりの夫にお茶をかけたり、手編みのマフラーで首を締めたり、編み棒で喉元をグリグリしたり…。その修羅場は、まさに「三田佳子劇場」と絶賛されている。演じる三田は、撮影に入る前、役作りに相当、悩んだことを打ち明ける。

 「ここへきて、はたと役作りに悩んでしまったんです。視聴者の皆さんと同じですよ。台本を読んで、井沢先生らしいすてきなせりふだなと思ったら、寝たきりの旦那さんにお茶かけるってどういうこと?って(笑)。思わず、井沢先生にメールしてしまいました。返ってきたことばの中に、『静子さんすべてお見通しのフクロウのような人』というのがあって、それが突破口になりました。フクロウは知恵・知識のシンボルとされていますし、夜の闇の中で目を光らせている。そういう感じか、と。だんだんやっていくうちに自分の顔が恐くなってきて、やだな、やだなって思いながらも最後まで頑張りました(笑)」

 井沢氏と三田がタッグを組み、90年代にヒットした『外科医・有森冴子』は、今の『ドクターX〜外科医・大門未知子』などにもつながる女医ドラマの先駆けとなった。二人には、その自負と、共に新しいものにチャレンジした信頼関係がある。

 「エキセントリックで役作りが難しいキャラクターも、三田さんだったできる、そんな甘えがあるんですよ」(井沢氏)、「難しい役は期待されている証拠、愛の裏返しみたいなものだと思って、やり遂げられなかったら役者がすたると思いました」(三田)。

 取材は、すでにクランクアップした後だったので、笑顔に達成感をにじませている三田を見て、井沢氏は「昔、私がまだ脚本を書いていない頃、『私という他人』(1974年、TBS)というドラマで、多重人格の女性を演じる三田さんを観て、人格が変わる瞬間の表情の変化が印象的で、それをまた見たかった、というのもあるんです、実は」と、個人的な感情が裏にあったことも打ち明ける。

 続けて「女優さんって本当に不思議。普段の僕が知っている三田さんは、あっけらかんとして、さばけた方だし、常識的な人。修羅なんてどこにあるんだろうと思うけど、ドラマを見ていると静子の顔に修羅がよぎる。どこから引っ張り出してくるんだろうって思います」と熱演を讃えた。すると、三田が「あるんですよ、私にも修羅が…」と返し、井沢氏も「それは初耳」とおどけて、二人で爆笑していた。

 最終回も井沢氏が紡ぎ出す、美しい日本語のせりふが満載。「『外科医・有森冴子』で芸術選奨文部科学大臣賞をいただいた時、贈賞理由に『歯切れの良いせりふ』とあったんです。その頃からずっと、ことばにこだわってきました。自分のことばの源泉はもちろん読書にあるのですが、もう一つ、歌謡曲の歌詞にも影響を受けています。阿久悠さんをはじめ、作詞家の方々の感性はすごくて、短い行数にことばが凝縮されていて、学ぶことは多い。音としてのせりふ、メロディーとしてのせりふというのかな、せりふとせりふが連なってひとつのメロディーを奏でるようなイメージ。今回の『明日の君がもっと好き』は、ハードで、過激なシーンがあるので、余計にことばは汚くしたくなかったというのはありますね。せりふ一つ一つに愛を込めたし、その思いが役者さんたちにも伝わっているな、通じたな、という感触を得ていました」。

 三田は「最後まで文学的で本当にすばらしいせりふばかりでした。それをごく普通に言いながら、半分狂気の世界を演じるのは、本当に難しいことだったんです。私以上に、若い役者さんたちもよくよく悩んで、でも音を上げずに、寄り添って、乗り越えていったと思います。劇中の茜たちがどういう答えを導き出すかはもちろんですが、静子さんと清さん(品川徹)にも具体的には言えませんがあっと驚く展開が待っていますので、ぜひ見ていただきたいですね。井沢先生、ありがとうございました」。



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