突出したヒットがない今クールの連ドラのなかで、安定した人気を保っているのが『ドS刑事』(日本テレビ系)。土曜21時のドラマにしては大胆なタイトルだが(七尾与史氏のベストセラー小説が原作)、多部未華子演じる女刑事・黒井マヤのドSぶりが観ていて楽しい。
◆10代のデビュー当時は等身大のナチュラル女優
黒ずくめのパーカーとコートに、映画『レオン』のマチルダをイメージしたというボブカット。「悪人を好きなだけいたぶることができる」との理由で刑事になり、犯人が目を背けていた事実を暴いて言葉攻めで追い込んだうえに、ムチをふるって拘束。強い目力で睨みをきかせ、不気味にニタッと笑う。犯人だけでなく、バディを組む新米刑事・代官山脩介(大倉忠義)をも「バッカじゃないの!」と容赦なく罵倒する。
多部といえば民放連ドラ初主演作も、4年前の日本テレビ系・土曜21時枠のキャラ刑事もの『デカワンコ』だった。森本梢子氏のマンガが原作の同ドラマで演じた花森一子は、フリフリのロリータ服を着て、犬並みの嗅覚を武器に捜査に当たる刑事。事件現場で関係者の匂いをクンクン嗅いだり、警察犬と張り合って四つん這いで鼻をヒクヒクさせたり、いかにもマンガっぽい役へのなり切りぶりが評判を呼んだ。
連ドラに初出演した『山田太郎ものがたり』(TBS系)から、二宮和也演じる主人公に恋してとてつもない妄想を繰り広げてはひとりでトロンとする役で、こうしたキャラクター路線は多部のお家芸にも見える。だが、彼女が女優デビューして映画中心に出演していた高校生の頃は、まさか黒井マヤのような役をやるとはまったく想像できなかった。
多部が最初に注目されたのは、10年前に公開された映画『HINOKIO』。ベリーショートの髪形で小学生を演じ、知らずに観ていたら途中まで男の子かと思う役だった。その後、『青空のゆくえ』『ルート225』『ゴーヤーちゃんぷるー』といった作品に相次いで出演。演技というより近所の女子高生の物語を見るような自然体で、等身大の青春感を体現できる女優としてズバ抜けていた。映画界での評価は高く、映画好きの間でも“ファン”というより“支持者”が多いタイプだった。
本人の高校最後の年に公開された『夜のピクニック』は、そうしたジュブナイル路線の頂点。友だちと夜空を見上げて交わす会話など小さなエピソードも胸に残り、多部のナチュラルな高校生らしさが存分に生きていた。
◆ドラマからコメディエンヌ含みの対極路線へ
ところが翌年の『山田太郎ものがたり』では、前述のようなマンガ的な役で連ドラデビュー。彼女の映画を観てきた層を驚かせた。当時は本人も「今までとまったく逆で戸惑っています」と話していた。その後も、NHK連続テレビ小説で初の平成生まれヒロインとなった『つばさ』もコミカルだったり、ドラマではコメディエンヌ含みの役が多い。一方で『僕のいた時間』(フジテレビ系)での難病を抱える主人公の恋人役など、シリアスな作品でも好演しているが、印象が強いのは『デカワンコ』など軽いノリのほうで、『ドS刑事』で輪をかけるだろう。
10代の頃の作品を観ていたら、多部がこういう引き出しを持つとは予想外だが、彼女の女優としての大きな財産になった。いくら青春映画で評価されても、いつまでも高校生役は演じられない。彼女と同じように10代でナチュラルな演技を称賛されながら、20代になると伸び悩むケースも少なくない。多部もいずれにせよ映画中心に活動していくと思われていたのが、ナチュラルとは対極の路線でも当てたことで、ドラマでも重宝されるようになった。
彼女はヴィジュアル的にスタンダードな美形というわけでなく、演技力はあっても、本来はコンスタントに連ドラの主役級に起用されるタイプでない。だが、鋭い目つきなど個性的な顔立ちは、キャラクターものにはこのうえなく生きる。玄人受けする実力派に留まらず、独自の立ち位置をうまく確立した。
何より彼女自身、『デカワンコ』や『ドS刑事』で“やらされている感”はない。黒井マヤが冷淡な表情で代官山を文字通りアゴでこき使うのも、ムチを大きく振り回して投げてポーズをキメるのも、ノリノリに見える。小さい頃から吉本新喜劇が好きで、実はコメディに順応する感覚がもとから体のなかにあったのかもしれない。
そして、確かにマンガチックでキャラクターっぽい役だが、わざとらしさは感じない。おもしろさを出しつつ安っぽくはならないバランスで演じているのだ。だからこそ、視聴者は何も考えずに楽しめる。
多部は以前、「衣裳を着て世界に入ってしまえば、違和感はあまりない」とも語っていた。10代の頃に出ていた青春ものと『ドS刑事』のようなコメディは大違いのようでいて、作品の世界観を自然に体現するという意味では、彼女の女優としての本質が変わらず出ているとも言える。
(文:斉藤貴志)
◆10代のデビュー当時は等身大のナチュラル女優
黒ずくめのパーカーとコートに、映画『レオン』のマチルダをイメージしたというボブカット。「悪人を好きなだけいたぶることができる」との理由で刑事になり、犯人が目を背けていた事実を暴いて言葉攻めで追い込んだうえに、ムチをふるって拘束。強い目力で睨みをきかせ、不気味にニタッと笑う。犯人だけでなく、バディを組む新米刑事・代官山脩介(大倉忠義)をも「バッカじゃないの!」と容赦なく罵倒する。
多部といえば民放連ドラ初主演作も、4年前の日本テレビ系・土曜21時枠のキャラ刑事もの『デカワンコ』だった。森本梢子氏のマンガが原作の同ドラマで演じた花森一子は、フリフリのロリータ服を着て、犬並みの嗅覚を武器に捜査に当たる刑事。事件現場で関係者の匂いをクンクン嗅いだり、警察犬と張り合って四つん這いで鼻をヒクヒクさせたり、いかにもマンガっぽい役へのなり切りぶりが評判を呼んだ。
連ドラに初出演した『山田太郎ものがたり』(TBS系)から、二宮和也演じる主人公に恋してとてつもない妄想を繰り広げてはひとりでトロンとする役で、こうしたキャラクター路線は多部のお家芸にも見える。だが、彼女が女優デビューして映画中心に出演していた高校生の頃は、まさか黒井マヤのような役をやるとはまったく想像できなかった。
多部が最初に注目されたのは、10年前に公開された映画『HINOKIO』。ベリーショートの髪形で小学生を演じ、知らずに観ていたら途中まで男の子かと思う役だった。その後、『青空のゆくえ』『ルート225』『ゴーヤーちゃんぷるー』といった作品に相次いで出演。演技というより近所の女子高生の物語を見るような自然体で、等身大の青春感を体現できる女優としてズバ抜けていた。映画界での評価は高く、映画好きの間でも“ファン”というより“支持者”が多いタイプだった。
本人の高校最後の年に公開された『夜のピクニック』は、そうしたジュブナイル路線の頂点。友だちと夜空を見上げて交わす会話など小さなエピソードも胸に残り、多部のナチュラルな高校生らしさが存分に生きていた。
◆ドラマからコメディエンヌ含みの対極路線へ
ところが翌年の『山田太郎ものがたり』では、前述のようなマンガ的な役で連ドラデビュー。彼女の映画を観てきた層を驚かせた。当時は本人も「今までとまったく逆で戸惑っています」と話していた。その後も、NHK連続テレビ小説で初の平成生まれヒロインとなった『つばさ』もコミカルだったり、ドラマではコメディエンヌ含みの役が多い。一方で『僕のいた時間』(フジテレビ系)での難病を抱える主人公の恋人役など、シリアスな作品でも好演しているが、印象が強いのは『デカワンコ』など軽いノリのほうで、『ドS刑事』で輪をかけるだろう。
10代の頃の作品を観ていたら、多部がこういう引き出しを持つとは予想外だが、彼女の女優としての大きな財産になった。いくら青春映画で評価されても、いつまでも高校生役は演じられない。彼女と同じように10代でナチュラルな演技を称賛されながら、20代になると伸び悩むケースも少なくない。多部もいずれにせよ映画中心に活動していくと思われていたのが、ナチュラルとは対極の路線でも当てたことで、ドラマでも重宝されるようになった。
彼女はヴィジュアル的にスタンダードな美形というわけでなく、演技力はあっても、本来はコンスタントに連ドラの主役級に起用されるタイプでない。だが、鋭い目つきなど個性的な顔立ちは、キャラクターものにはこのうえなく生きる。玄人受けする実力派に留まらず、独自の立ち位置をうまく確立した。
何より彼女自身、『デカワンコ』や『ドS刑事』で“やらされている感”はない。黒井マヤが冷淡な表情で代官山を文字通りアゴでこき使うのも、ムチを大きく振り回して投げてポーズをキメるのも、ノリノリに見える。小さい頃から吉本新喜劇が好きで、実はコメディに順応する感覚がもとから体のなかにあったのかもしれない。
そして、確かにマンガチックでキャラクターっぽい役だが、わざとらしさは感じない。おもしろさを出しつつ安っぽくはならないバランスで演じているのだ。だからこそ、視聴者は何も考えずに楽しめる。
多部は以前、「衣裳を着て世界に入ってしまえば、違和感はあまりない」とも語っていた。10代の頃に出ていた青春ものと『ドS刑事』のようなコメディは大違いのようでいて、作品の世界観を自然に体現するという意味では、彼女の女優としての本質が変わらず出ているとも言える。
(文:斉藤貴志)
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2015/05/24