三陛下へ献上されていた「御料たばこ」の系譜?ベールに包まれる“皇室たばこ”の現在
時代の変化とともに2005年に廃止が決定した「賜たばこ」
しかし、終戦を迎えると「御料たばこ」は廃止される。終戦後、天皇家の人間宣言があり、象徴として存在へと変わり、神への献上という“御料”という概念がなくなったためだ。そして、昭和24年に日本専売公社になると、皇室向けのたばこは作られたが、それは特殊たばこ(はまき、パイプ、刻みたばこなど、紙巻きたばこ以外のたばこ)のひとつという位置づけの枠になり、宮内庁へ収める「特製たばこ」(宮内庁用たばこ)と呼ばれるようになった。
一方、「恩賜のたばこ」は“賜”の字だけ残して「賜たばこ」(言葉としては恩賜のたばこ)となり、皇室や宮内庁が行事などのほか贈答用として使用した。昭和40年くらいまでは、成人男性の約7割が喫煙者であり、たばこ自体を贈り物にする風潮が一般的にあった。また、外交など政治の舞台でもたばこの果たす役割があった時代であり、海外の政治家やVIPに贈ったり、一般への勤労奉仕への御礼としてわたすための宮内庁向けたばことして、「賜たばこ」は製造された。
しかし、平成に入り、時代とともに社会が遷りゆくなか、2000年代にはたばこと社会のあり方が大きく変わった。それを契機として、宮内庁は、2005年に「賜たばこ」を2年をかけて廃止していくことを発表。“賜わり”という行為そのものが見直された。「賜たばこ」は2006年末で廃止された一方、「皇室たばこ」のほうは宮内庁向けとなって、いま現在も存在する。宮内庁の行事用とされ、JTから収められている。
現在もJTから宮内庁へ収められる「皇室たばこ」
「御料たばこ」から続く“皇室向けのたばこ”の系譜という観点からすると、「恩賜のたばこ」(賜たばこ)は2006年末までに終了しているが、JTから宮内庁へ納品している「皇室たばこ」として、現在も存在することになる。ただし、その詳細はベールに包まれたまま。JTでは詳細を非公開としており、今回の取材で見えてきたのは、「缶入りの紙巻きたばこ」と「箱入りの葉巻たばこ」の2種類があるようで、一般向けには販売も流通も一切していないということ。
いずれにしても、残念ながら一般入手は難しいようだ。数々の皇室にまつわる伝統と同様、完全にその詳細が明かされないのが文化であり、「皇室たばこ」もそのひとつと言えるのかもしれない。