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『anone』プロデューサー、嘘のレトリックに挑戦「多メディア時代のドラマは“お茶の間エンタメ”ではない」

名作『Mother』『Woman』を手がけた日テレ&脚本家・坂元裕二氏による新作ドラマ『anone』は、坂元脚本の特徴的な会話劇よりもストーリー性を重視し、“嘘のレトリック”に挑んだ。次屋尚プロデューサーにそんな注目作に込める想いを聞いた。

“ニセモノ”をテーマにストーリー性を重視した新作

 坂元脚本といえば、17年1月期『カルテット』(TBS系)がコンフィデンスアワード・ドラマ賞で作品賞をはじめ5部門を受賞したほか、数々のドラマ賞などで高い評価を受けた。そんな坂元氏と日テレとの『Mother』『Woman』に次ぐ5年ぶりのタッグとなる『anone』では、特徴的な坂元脚本の会話劇よりもストーリー性を重視。作家性の強い作品を目指したという。

「坂元さんとは、『Woman』のあとすぐに次作の話をしていたのですが、スケジュールや状況の折り合いがつかなかったりで、5年が経ってしまいました。その間に、『カルテット』のリズミカルでコミカルな会話劇が高く評価されましたが、坂元さんにとっては、こうした手法は言ってみればお手のもの。でも彼の本質は、社会派で作家性が強い作品でこそ輝くので、そういった部分を引き出したいと思っていました」

 そんな次屋プロデューサーと坂元氏が選んだ今回のテーマが“ニセモノ”というキーワードだ。

「企画自体は以前から話をしていた題材なのですが、“いままでなんの疑いもなく信じていたものがすべて嘘だった”というのは、実は身近に起こっていることであり、普遍的なテーマだと思うんです。生きていくための嘘が持つ力もあるし、嘘が生み出す真もある。今作では、“ニセモノ”というテーマのなかで、いろいろな登場人物のエピソードが出てきますが、なにが本当でなにが嘘かがわからない。しかし、どのエピソードでも、間違いなく人の感情は動いている。こうした“嘘のレトリック”が今作での坂元さんの挑戦です」

 エッジの効いた社会派ストーリーのなかに、家族の愛の物語を紡いできた坂元氏。今作では、家族を失い社会からもはぐれてしまった主人公の少女を広瀬すずが演じる。

「作り手としては、今まで見たことがない広瀬すずを引き出したいと思っているのですが、これまでいろいろな人が、いろいろな色の広瀬すずをすでに開拓している。だから僕たちは、田中裕子さんや小林聡美さん、阿部サダヲさんという芸達者な俳優さんたちと組み合わせたり、坂元さんのセリフをしゃべらせたりすることによって、どういった化学反応を起こすのかを提示していきたいと思っています。その意味では、広瀬さんと相対する俳優さんたちは、本当に魅力的な人たちばかりです」

視聴率だけを目標にした企画はコンテンツとして偏ってしまう

 次屋プロデューサーの話を総合すると、メッセージ性の強い重厚なストーリー展開が予想されるが、視聴率という物差しで考えると、近年はシリアス系の作品からほとんどヒットが生まれていないように感じられる。
「もちろん、テレビというメディアにおいて視聴率は無視できませんが、そればかりが僕らの仕事ではない。とくに多メディア時代といわれるいまは、スマホでドラマを視聴する人もいれば、日本のシナリオが海外に輸出される時代でもあります。テレビだけがお茶の間のエンタテインメントではない時代にあっては、テレビに求められるコンテンツは、その多様性であり、視聴率だけを目標にした企画だと流行を意識するだけの番組に偏りがちになる気がします。だから今回僕らがやろうとしているようなドラマがあってもいいと思うんです。それに、“当たる企画”という枠組みばかりを脚本家に求めてしまうと、強い想いや作家性を持った脚本家が育ってこない。かつて、山田太一さん、倉本聰さん、市川森一さんなどの脚本家は、文化人という側面を持っていました。こうした人を輩出するためには、作家性を具現化していくプロデューサーの存在が不可欠です」

 第1話放送前に行われたメディア視聴会で次屋プロデューサーは、「オリジナルにこだわって、ドラマを世の中に出す意味や社会における役割を問いたい」と熱い想いをあふれさせながら、「いろいろな角度から人間愛を考えさせられるドラマになっています。感じたことをなんでも書いてください」と作品への自信をにじませていた。
(文:磯部正和)

新水曜ドラマ『anone』

 全てを失ってしまった少女は、それでも生きようと思った。でも、生きる術を知らなかった。そして、ある老齢の女との運命的な出会い。それはある事件がきっかけだった。

脚本:坂元裕二
演出:水田伸生
出演:広瀬すず、田中裕子、瑛太、小林聡美、阿部サダヲ ほか
毎週水曜夜10時〜11時
【公式サイト】(外部サイト)

提供元: コンフィデンス

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