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ライゾマ・齋藤精一氏が考える、未来の都市の姿「もっと個性を活かし、東京全体をデザインすべき」

 最先端のメディアアート作品やイベント演出、インタラクティブな広告プロジェクト等で、注目を集めるクリエイター集団・ライゾマティクス。昨年7月に設立10周年を迎え、エンタテインメント業界においてもその影響力は増していくばかりだ。代表取締役を務める齋藤氏は、2020年の東京オリンピックはもとより、その先の“東京”を見据えて常に考えを巡らせている。

10周年を機に3基軸に、理由の1つは「接点」を増やすこと

――御社は昨年7月に10周年を迎え、研究開発・メディアアートを軸 にした「Research」、データを用いたデザイン戦略・広告プロジェクトなどを手がける「Design」、新たな建築の概念・都市の在り方を提唱する「Architecture」という新体制で 事業をスタートさせました。
齋藤 3部門に分けた理由はいろいろあって、取締役の中でも良い意味で意見が違うと思うのですが、1つのきっかけは、ライゾマの仕事はブラックボックスだと気付いたことなんです。例えば、WEBサイトの制作を依頼されたのにイベントを提案するとか、イベントの相談を受けてフィルムを作るとか。外からは「自由にいろいろなことができるチーム」という印象だと思いますが、その中には広告に近い人間、商品開発に寄り添っている人間、建築や空間デザインについて考えている人間が存在している。それをわかりやすく分けた ほうが、今まで接点がなかったクライアントとも絡めるのではないかと思ったのが大きな理由ですね。それぞれのキャラクターはまだ定まっていないので、これからも変化するとは思いますが。
――齋藤さんは「Architecture」の代表。“建築の概念を拡張し、即時性を高める”ことに取り組んでいるとか。
齋藤 これから建築は大きく変わると思うんです。建てたら終わりではなく、むしろそこから始まる。また当初の目測と違うことが起きた場合、建築中でも変更ができるプログラムが求められるようになる。例えば、渋谷駅を1960年代から現代まで定点観測するとオーガニックな動きが見られるように、そういう有機的な変化は長いスパンで考えれば既に起きているんです。私たちはその速度を速め、もっと早く新陳代謝を促していくということですね。ソフトウェア、情報学、メディアなどと建築の中間領域において、我々が貢献できることもあると思っています。
――今現在、具体的にはどのような依頼があるのですか?
齋藤 多岐にわたりますが、都市開発の場合、どういう施設が必要なのか、その中で何をやるのか?という提案も含まれます。私が依頼を受けて感じるのは、「ボタンのかけ違い」 がとても多いということ。例えば、新しい商業施設を作る場合、「300坪の店舗をいくつか設けて、事業採算を採りましょう」という話になることが多いのですが、今の時代それほど大規模な店舗が必要なのか?と思うんですよね。それよりも25坪くらいの店舗を多く作ったほうが事業性は高いだろうし、リースの契約期間にしても、半年ではなく2週間単位にすれば、抜けたい時に抜けて、入りたい時に交渉ができますから。それだけでは通常のコンサル業務ですが、私が考えているのは「建物が生きているとすれば、彼は何を求めているか?」ということなんです。生活の中にテクノロジーが入り込んだことで、上の階でどんな施策をすればどこに人が集まる、という消費者動向の因果関係もわかるようになっているし、建物をオーガニックに動かすためのツール、情報提供することも可能ですから。それは私が米・コロンビア大学で建築を学んでいた時から考えていたことなんです。60年代には現代思想の分野で「オートノミー(自律性)」の概念が提唱されていましたが、今のテクノロジーがあれば、建築においてもそれに近いことができるんじゃないかなと。

2020年に向け大切なのは、行政・民間が1つになって東京を作ること

――その考え方は2020年の東京オリンピックに向けて、東京の都市デザ インにも影響を与えそうですね。
齋藤 東京はすごく広くて、解像度も高いですからね。オリンピックに関して言えば、スタジアムや競技場ではなく、その間にあるもの、もしくは街全体の在り方に興味があります。会社ごとに別々に動くのではなく、共鳴行動を起こすのに最適な機会だと思うんですよね。共通の認識を持ち、情報を共有することで、行政、民間が1つになって東京全体を作っていくことが必要なんじゃないか、と。そこにはエンタテインメントも絡んでくるし、これまではできなかった道路を占有したイベントなども可能になるかもしれない。12年に制作したKDDIのCM(au「FULL CONTROL/Xmas」)でも、そういうイメージを描いているんですよ。 ただ、現状はなかなか難しいところがあって。18年の後半、一気に新しい施設が開業していきますが、話を聞いていると全体的に似通ったものが多いんですよね。このままでは東京の街の個性が薄くなってしまうのでないかと危惧しています。

――街ごとの個性は残すべき、と。
齋藤 はい。私くらいの年代だと「スキー用具なら神保町」「電化製品なら秋葉原」など、キーワードごとにパッと街の名前が浮かびますが、今の若い人にそういう感覚はあまりないと思うんですね。街並みを消さないためには、ランドマーク的なものを作り、街や場所に個性を持たせることが必要なんじゃないかなと。それを教えてくれたのは、海外からの旅行者、移住者なんです。北海道のニセコ町にあれほどオーストラリア人が増えて、海外のレストランが参入し ているのも、「パウダースノウ」という磁石があるから。東京の街もそういうものを見つけて、きちんとデザインすべきだと思います。「住む、食べる、遊ぶ、働く」を1つのエリアにまとめるのではなく、東京全体を人生が詰まった場所にするべきだし、そのほうが面白いじゃないですか。
――東京という都市自体が、ライゾマティクスという社名の由来である 「リゾーム」にも似た状態になるわけですね。
齋藤 確かにそういうフェーズに入っているのかもしれないですね。表現に関わる人たちも、理解できる領域を広げないとダメなんですよね。行政、警察や消防、国家戦略特区のことなどを知ったうえで表現を考えないと、新しいものはできないので。

エンタメ業界は、もっと大きな視点で モノゴトを見極めるべき

――エンタテインメントもその領域に入っていかないといけないのですが、残念ながらまったく追いつけていないのが現状。どうしても近視眼的になり、直近の売上ばかりに気を取られている状況だと思います。
齋藤 短い期間で売上を立てることも大事だと思いますが、もっと大きな視点に立って、日本のエンタテインメント全体がどういう潮流に向かっているかを見極めることも大切でしょうね。日本のエンタメは良い意味でガラパゴス化していて、も のによってかなり質が違うと思うん です。海外に向けて発信する機会は2020年以降も増えていくでしょうし、そこで何を提示できるかは非常に重要だと思います。今の状況を見てい ると、早い流れの一番先を目指すか、そのストリームから離れるか、その2つしか選択肢がない気がするので。
――御社もエンタテインメントと深く関わっていますが、もどかしさを感じることもありますか?
齋藤 ありますね。アーティスト、マネージメント、メーカー、メディア、コンテツホルダーなどがひしめき合って、そこでトランザクションが生まれるからビジネスになっているのもわかるのですが、どこかのタイミングで1つになる必要があると思うんです。でも最近は、徐々にですが変化も感じていて。建築と同じで縦割りの弊害も残っていますが、アーティスト自身が「そんな時代ではない」という意志を示し、マネージメントが変化することも増えています から。アートとの役割分担も大事でしょうね。時代を先取りして、文化を作ることはアートに任せたほうがいい。そこで生まれたものを、よりたくさんの人が楽しめるものにするのがエンタテインメントの役割ではないかなと思います。

――テクノロジーとアート、エンタメ、広告を繋ぐ御社の役割もさらに大きくなりそうですね。
齋藤 ライゾマの好きなところは、テクノロジーを道具として使おうとしているところなんです。しかも、その中にはちゃんと人が介在している。それは広告でもエンタメでも、すべての作品に言えることだと思います。テクノロジーを道具にできれば、人々の生活はさらに変わるはず。そうなった時に初めて、建築もエンタメもメディアも進化するのではないでしょうか。

(文/森朋之、写真/逢坂聡)
(コンフィデンス誌 17年5月29日号掲載)
さいとうせいいち
1975年、神奈川生まれ。東京理科大学の 建築科を卒業後、米・コロンビア大学に留学し建築デザインを学ぶ。00年よりクリエイターとしてニューヨークで活動を開始。03年に新潟県の芸術祭「越後妻有トリエンナーレ」でアーティストに選出されたのをきっかけに帰国し、06年7月にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、さまざまな作品を作り続けている。現在は同社代表取締役のほか、東京理科大学理工学部建築学科 非常勤講師として、若手クリエイ ターの育成にも注力している。なお、一緒に会社を立ち上げた真鍋大度氏、千葉秀憲氏は、東京理科大学時代の同級生。

提供元: コンフィデンス

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