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蔦谷好位置インタビュー 良質な“サントラ盤”の条件とは?

 CDの販売数が縮小傾向にある一方、『アナ雪』を筆頭に、『君の名は。』や『ラ・ラ・ランド』など、多くの劇場映画サントラ盤がヒットを記録。そんな“サントラブーム”の現状について、現在公開中の『SING/シング』日本語吹き替え版サントラを担当した音楽プロデューサー・蔦谷好位置にインタビューを敢行。その豊富な音楽知識から、楽曲ごとの“構造解析”を得意とし、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)など多くの音楽番組にも出演する氏に、良質なサントラ盤の定義について聞いた。

“アナ雪”にヒット以降、音楽が台詞のようになっている作品が増えてきた

――まず、今回担当した『SING/シング』のサントラを振り返って、蔦谷さん自身の拘り、やりがい、良かったなと思うのはどんな点ですか?
蔦谷好位置まずやって本当に最高でした。いろんなポイントがあるけれど、山寺(宏一)さん含め、長澤(まさみ)さん、斉藤(司 トレンディエンジェル)さんもそうだけど、僕はミュージシャンとばかり仕事をするので、普段仕事をしない人とたくさん仕事ができたこと。そして“こんな一流の人たちが日本にたくさんいるんだ”と知ることができましたし、自分の視野が大きく広がりました。あと本国から送られてくるオケだったり、オケのデータだったりを聴いた時に、もの凄く丁寧に作られていて、やはりハリウッドの映画のクオリティや熱意というのを“本当に凄いな”と感じました。
――本国とのやりとりは順調に進みましたか?
蔦谷好位置最初は“吹き替えなんてフザケンナ”っていう感じの対応だったんだけど(笑)、それが少しずつ変わっていったのも嬉しかったと同時に、彼らはやはり誇りを持って作っていて、“自分たちが作った最高のものに手を加えるな”というプライドもあると思うんです。それに対してこちらも誠実に一個一個やっていったので、目線を下げて、レベルを下げるためにやってるのとは違っている。この映画の素晴らしさをより伝えるために何度ももっといいポイントはないかと、お互いに歩み寄りながら、アメリカ本国と一緒に仕事が出来たのも、僕の今後にとっても活きるんじゃないかなと思います。

――蔦谷さんの視点から見た、昨今のサントラブームの要因とはどこにあると思いますか?
蔦谷好位置音楽映画が増えてきたこともあるんじゃないですか。『ラ・ラ・ランド』もそうだし『君の名は。』も正にそうだし、もっと前だと『アナ雪』(『アナと雪の女王』)もそう。メロティがしっかりあって、ミュージカルとまでは行かないまでも、音楽が台詞のようになっている作品が増えてきたせいもあるんじゃないですかね。音楽の力も凄く大切になってくるし、歌詞も大事になってくる。昔からそういうのはあったと思うんですけれど、今ブームなんじゃないでしょうか。

蔦谷好位置が選ぶ歴代最高のサントラ盤とは?

――蔦谷さんご自身の中で、歴代最高傑作といえるサントラは?
蔦谷好位置ダントツのトップで『ニュー・シネマ・パラダイス』のサントラです。説明する必要ないでしょ、というくらい超名サントラですよね。あの音楽がなかったら、たぶんあの映画もあんなにヒットは……というか、公開当初はそこまでヒットしてなかったと思うんだけど、超名作として誰もが観たことのあるような映画じゃないですか。最後のシーンで、キスシーンを繋ぎ合せているところで掛かる(エンニオ・)モリコーネの……あれは実は息子の作ったメロディなんだけれど。それも含めて映画とリンクしていて。

――映画の名シーンがサントラを聴くことですぐに思い出されますよね。
蔦谷好位置師弟関係みたいなのがあるじゃないですか。映画技師のおじさんと映画に興味を持っている子ども。それが大人になって、当時のことを忘れていて封印されていたのが、最後のキスシーンで思い起こされるというところで流れてくるメロディが、本当に美しくて。あの映画には確かメインテーマっぽいのが3〜4曲あって、それが全て美しくて、いろんなCM、ドラマ、旅番組などで、とにかく使われているじゃないですか。あんなにいい曲……ハリウッドの作品もたくさん好きなものがありますが、ああいうフルオーケストラでドーンというのではなくて、シチリアのオレンジ色の太陽の下で、乾いた空気の中でやっている感じが、サウンドの質素な感じとメロディの美しさも感じられ、完璧なサントラですね。本当に大好きです。サントラの仕事をたまにやりますが、参考にするわけじゃないけどルーツ的という意味で、聴き返すことはよくあります。

――サントラ作単体としても『ニュー・シネマ・パラダイス』はよく聴かれるんですね。
蔦谷好位置ええ、凄く聴きます。好きな理由はいっぱいあるんですけど(とピアノを弾きはじめる)……この進行って実はここまでで10小節なんですよ。10小節って、あまりなくって、普通は4とか8なんです。あっても一個足して9とかで。でも10小節という感じは全然しないし、実はちょっと変わったことをやっているのに、そうとはまったく気付かせない感じ。それにあと典型的な4度で進んでいく進行は、メロディアスなものを作る時によくある進行で、日本人は好きだったりするのだけれど、その使い倒されたコード進行の中で“あ、まだこの手があったか”というぐらい美しいメロディだと思います。このコード進行って、いわば俳句みたいなもので、5−7−5みたいに決まっている。誰でも使えるけれど、その中で美しいものを作るのは凄く難しいんです。映画とリンクしていて“あ、親父モリコーネに一歩近づいたか、越えてはいないかもしれないけれど”みたいなね。そんなニュアンスもあって、そこが鳥肌だったりする感じですね。

安易に“泣かせるための音楽”を付けるのは良くないんじゃないか

――サントラは映画に対してどのような立ち位置であるべきだと思いますか?
蔦谷好位置監督などにもよると思うんですね。“とにかく音で盛り上げてくれ”みたいな、音が無きゃ成立しない映画……『ラ・ラ・ランド』や『君の名は。』もそうですよね。音楽が無きゃ成立しない映画ですけど、僕の好きな映画に『ノーカントリー』というのがあって、音がほぼ無いんです。ずっと無音。効果音というか、バタンとか、ガシャンとか、プシュみたいなのだけで。その音がないことであの緊張感が生まれているというのもありますね。安易に感動させて泣かせるために音楽を付けることって簡単だと思うのですが、それって結婚式のでっかいケーキみたいなもので、実は中身は発泡スチロールで皮だけ生クリームみたいな。それは、あまり良くないんじゃないかなと思うんですね。

――そこに必然性があれば“無音”もサントラになりうると?
蔦谷好位置例えば『スター・ウォーズ』のジョン・ウィリアムズの曲、あれは絶対フルオーケストラで80人以上の編成じゃないとダメじゃないですか。宇宙の壮大さに負けちゃうし。それは必然性があるんですけれど。やはり必然性じゃないですかね。

曲が印象に残らなくても「音、すげえ良かったな!」という映画もある

――蔦谷さんの考える“いいサントラ”の定義とは?
蔦谷好位置やはり音によって、そのシーンの持っている感情だったり表現を増幅させる効果があれば“いいサントラ”じゃないでしょうか。“ここで絶対泣きます”という時に、さっきの『ニュー・シネマ・パラダイス』だったら、師弟関係と親子関係とリンクまでしていて、そういう素晴らしい曲が出来ている。ジョン・ウィリアムズもそうですし、『戦場のメリークリスマス』もそうだと思います。最高の曲ですよね。単体で聴いても勿論いい曲だし。という、それが一個。それとは別に、曲とかまったく印象に残ってなくて“音、すげえ良かったな”という映画もあると思うんです。この間も『ムーンライト』を観たけれど、あれは音がもう最高だったんです。

――今年の最優秀監督賞を受賞し、アカデミー賞の歴史を変えたとまで言われる話題作ですね。
蔦谷好位置メロディが特に残るというサントラじゃないですけど、聞く話によると、何でも作ったのはヒップホップ畑の人だとか。オーケストラのレコーディングも、録ったものをヒップホップ的な感覚でサンプリングしてもう一度貼り直したりとか、そういうふうに作っていったみたいなので、独特なものが出来ていたと思うんです。質感が普通の劇版をやってる人じゃない感じで、独特で、オリジナリティがあって、あの映画の持ってるちょっとパンキッシュな感じで、いろんなものに挑戦的な感じとリンクしていて、良かったなと思います。だからチグハグになっちゃ絶対いけないですね。画と音が。“画も良くて、音も良い、けど一緒に合わせる意味がある?”みたいになっちゃ、良くないと思います。
(取材・文/村上ひさし)
蔦谷好位置
音楽プロデューサー。自身もアーティスト活動を行う傍ら、音楽プロデュース、作曲、編曲家もこなす。2009年度の日本レコード大賞にて、プロデュース作品であるSuperflyの『Box Emotions』が優秀アルバム賞を受賞。13年度の日本レコード大賞では、プロデュース作品である、ゆず『LAND』が最優秀アルバム賞を受賞。これまで手がけてきた楽曲は300曲以上、総売り上げ数は500万枚をこえる。その豊富な音楽知識から、楽曲ごとの“構造解析”を得意とし、数多くの音楽番組にも出演。

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