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国産飲料メーカーが世界を席巻する日は来るのか? 「生活者の兆し」を可視化したサントリーの勝機
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グローバルメガブランドの高い壁と「井の中の蛙」からの脱却
サントリー食品インターナショナル事業推進本部 新価値創造部 部長の大塚匠氏(写真/片山よしお)
「飲料の世界は市場やカテゴリーの変化が非常にスピーディーで、これまで日本の市場の中でもさまざまな挑戦を続けて新しいカテゴリーを生み出してきました。一方、海外でも飲料市場は伸びており、競合も含めていろいろな提案がなされています。国内で開発していると『日本は一番変化が早く最先端なのでは』と思ってしまいがちですが、それは完全に井の中の蛙でした。より早く移り変わる市場の変化にいち早く対応するために、この新部署が設立されました」
大塚さんは「海外市場において、コカ・コーラやペプシ、レッドブル、モンスターといったメガブランドに比べれば、『サントリー』の認知度はまだまだこれからという段階」と現状を冷静に直視。「『日本のメーカーだから売れる』というほど甘くはない」と厳しい認識を持って、海外展開への取り組みを始めている。
総額1億円をかけた“トレンド予測”「俯瞰して観ることで機会を見出せる」
開発風景
主要な拠点8ヵ国で、現地の人たちワークショップを行い、『生活者はどのように飲料を楽しんでいるのか』『どんな価値観を持っているのか』を議論し、その内容を編集・集約。1ヵ国につき、100〜150個の生活者の価値観や行動に現れる変化の兆が集まり、その中から1ヵ国あたり30個に絞り込み。全体で計240個の兆しを1枚の「フューチャーアドベンチャーマップ」にまとめたという。
「過程で見えてきたのは、国ごとの文化や価値観といった『普遍的なもの』と、健康意識やフレーバー(味わい)トレンドのような『可変的なもの(流行などで変わる部分)』の両面があるということです。マップの中心には国ごとの普遍的な価値観を置き、それを可変性のあるトレンドが包むイメージで設計しています」
同時に、それぞれの国の「違い」と「共通性」を理解することも重要だと大塚さんは言う。
「国ごとに独自の生活があるため『違いを理解する』ことは大事ですが、同じ人間ですから、気候や歴史的背景、嗜好の流れなど、実はある一定の『共通性』も見えてくるんです。それらを俯瞰して見ることで、『隣の国で起きている兆しが、すぐこちらにも波及するかもしれない』という機会を見出せるようになりました。この『違いと共通性』、そして『普遍性と可変性』の両方を行き来しながら俯瞰して見るアプローチは、これまで個人としても会社としてもなかなかできていなかったことで、この部署の大きな価値の1つだと感じています」
「徹底的な現地化」のジレンマと、現場のリアリティに触れる主観・客観の目
「新価値創造部」が手掛けた商品『ロコモアWATER』『セサミン1000』『Suntory Hy! Water Lock』(写真/片山よしお)
「結論から言うと、私たちは『日本ブランドらしさ』を実はあまり意識していません。まずはベースとして『徹底的に現地化する』ことが大前提だと思います。日本のメーカーが作るものは、“品質が良さそうに見える”というアドバンテージは確かにあります。しかし、最終的にお金を払っていただけるかどうかは『現地の生活に合っているか』『今まさに欲しいものになっているのか』という点につきます。だからある意味、現地化しすぎるくらい徹底的に現地化しています」
大塚匠氏が手掛けた『CRAFT BOSS(クラフトボス)』(写真/片山よしお)
「ただし『BOSS』のようなブランドの場合、我々が培ってきた『働く人の相棒』というブランドの哲学があります。この哲学は、現地の働く人に寄り添う形に変えれば世界共通で守ることができるもので、すでにタイやベトナム、オセアニア、米国などで少しずつ広がりを見せています。こうした『日本のユニークなブランドをどう現地化させていくか』というアプローチも我々のミッションの1つで、両方の視点を持って取り組んでいます」
「先日初めてベトナムの小さな商店を訪問した際、冷蔵庫で冷えているスペースを巡る激しい競争の実態を肌で感じました。こうした『現場のリアリティ(主観)』と、一歩引いて市場を見る『客観的な俯瞰の目』の両方を行き来しないと、本当の意味での戦略は描けないと感じています」
「全く『生きない』ですね(笑)。ゼロベースです。国内での成功体験や過去のプライドを持ち込みすぎると、全ての物事を“日本のフィルター”で見ることになり、海外のリアルな兆しを捉える邪魔になってしまいます。なので、このプロジェクトが始まる際に、自分の頭を完全にリセットしようと決めました」
既存の成功体験を「再編集」する難しさ、「コミュニケーションに時間と労力をかける」
『サントリーウーロン茶』の技術をベースにした『TEA+(ティープラス)』(写真/片山よしお)
「約10年前にアジアで発売し、『サントリーウーロン茶』の技術をベースにしています。サントリーには40年以上のお茶開発の歴史と技術があるが、そこに現地の人々のヘルシー志向、お茶を飲む文化性が上手く合致した事例です。現地を深く理解し、新しい目線を提示すること。この両方が組み合わさったときに、成功が生まれるのだと思います」
日本企業は海外展開の際に「国内での成功体験への縛り(押し売り)」に陥るケースもあるが、サントリーとしては、それをどう乗り越えようとしているのか?
「そこはバランスだと思います。サントリーグループのパーパスである(人と自然と響き合い、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命の輝き』をめざす。)を仲間と共有することは大切ですが、こちらのやり方を押し売りしてしまうと本質を見誤ります。マーケティングは基本的にローカルのものなので、現地へのリスペクトが何より重要です。もちろん日本の商品開発における“ものの見方”が生きる可能性も十分にありますが、原則として主役はローカルです」
大塚匠氏(写真/片山よしお)
「既存の資料が使えないので、毎回非常に苦労する部分でもあります(笑)。結局コミュニケーションが全てですから、そこに時間と労力をかけることが、最終的には後々の良い成果に繋がると信じて取り組んでいます」
世界で勝つために「成功事例を作る」、タイで実証した「スクラム型」の開発
『Suntory Hy! Water Lock』発売時のタイでのプロモーションの様子
「タイは暑く、大量の水分を取るのですが、『水分補給してもなかなか水分が溜まっていかない』というお客さまの声が多かった。そこでウォーターロックという体内での水分保持を意識した設計を取り入れ、日々の暮らしの中でバランスの取れた水分補給を行うという新たな飲用価値を提案しました。また、約8〜9ヵ月というスピードでローンチし、自信と喜びが現地に生まれたことで、『自分のエリアでもやりたい』と次々と手が挙がっています」
『Suntory Hy! Water Lock』タイの駅での交通広告
「一緒に汗をかいて具体的な成功事例を作り、『自分たちにもできるかもしれない』と思ってもらえるカルチャーを、泥臭く作っていくしかないと思います」
『Suntory Hy! Water Lock』サンプリングの様子
「日本企業は、専門家が磨き上げたバトンを次の部署へ高いクオリティで渡す『バトンパス』が得意です。でも一定の時間がかかると市場が変わってしまうリスクがあります。理想的なのは、早い段階からいろいろな人を巻き込んでスクラムを組み、一緒に考えること。サントリーの強みを再認識し、海外のスピード感に合わせて実践していくことが最も必要だと思っています」
サントリーが定義する“日本らした”の本質は? 「慢心はない」大ヒットメーカーが挑む次なるステージ
大塚匠氏(写真/片山よしお)
「サントリーが考える『日本らしさ(日本品質)』とは、味や素材の違いではなく、ブランドの姿勢そのもの。国内外問わず、商品開発の根底にある『生活者を真ん中に置く』というスタートラインを徹底することだと考えます。これまでは『基盤を整えて海外で価値提供していく』という土台のステージでしたが、そこから『もう1回ジャンプアップするための新たな挑戦』ステージへと移りました。自分たちの自前のプラットフォームに外部の知見やR&D(研究開発)視点も入れ込みながら、現地発信の商品を増やし、世界中の仲間とスクラムを組んで次のステップへ挑んでいきたいと思います」