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「本麒麟」ヒットに至るまでの“12連敗”をいかに糧としたのか? キリン・マスターブリュワー田山智広が語る「良い負け方」の定義
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“新しさの追求”が足かせに? 「のどごし<生>」ヒット後に悪夢の12連敗「次に活かしてこそ“負け”に意味が生まれる」
――2001年からマーケティング部の商品開発研究所に所属されます。その、2年後の2003年にはビール市場における新たな転換期となる「新ジャンル」(第三のビール)が産声を上げることとなります。またしても渦中ですね(笑)。
田山智広 まぁ、そうですね(笑)。最初は「のどごし<生>」のプロトタイプと言いますか。それはスタート時から関与していましたが、正直、箸にも棒にも掛からなかった。麦を使わずに何使うか? まさにゼロベースからのスタートでした。
――さまざまな試行錯誤あったんでしょうね。どこが先に新たな機軸を作るのか? 競合も踏まえて各社躍起になっていたことは想像に難くない。
田山智広 そうですね。我々技術者としては、スタンダードのビールカテゴリーにおける美味しいビール作りと並行して、(酒税の)安いカテゴリーで美味しいと思えるようなビールを作るにはどうしたらいいか?ということを常に研鑽してきました。
――その成果として、2005年に「キリンのどごし<生>」(麦や麦芽を一切使わず、「大豆たんぱく」を味の決め手に使用)が発売され大ヒット。文字通り「新ジャンル」の新たな基軸を作った。
田山智広 「のどごし<生>」が出た段階で、かなりの手応えを持っていました。ただ起死回生の商品だったので、売上が伸びている段階では“その先”ということは、考えていなかったんです。でも、サントリーさんから「金麦」が発売されて、今度はリキュールと言う隙間のカテゴリーを使用してきて、これはヤバいと。
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田山智広 実は「金麦」が発売された前後の2006年から2009年まで、ビール部門から離れて健康食品部門に異動していたんです。09年から再びビールに復帰しましたので、そこから…。
――2018年に現在の「新ジャンル」におけるフラッグシップである「本麒麟」が発売されるまでに、実に12にも及ぶ商品が開発されたそうですね。つまり、「本麒麟」で覇権を再び奪うまでに計12回の負けを経験された。決して一朝一夕で勝てるほど甘い世界ではない中で、“悪い負け方”と “良い負け方”をどう識別していったのか? 「本麒麟」に至るまでに、どのように“負け”を昇華していったのでしょうか?
田山智広 うーん。正直言いますと、“負けっぱなし”では、企業としてみると何の意味もないという判断になってしまうと思うんです。次に活かして初めて、その負けに意味が出る。ただ、商売上は勝ち負けが常に問われますが、技術で言うと勝ち負けってないんです。例えば、うちはスパークリングホップを展開しましたが、市場から消えました。でも、ここでのホップの使い方は、その先のクラフトビールも含めて、次に活かされている。すごく学習できるわけですよね。それってやっぱりチャレンジしなかったら、絶対に学習もできないので。常にチャレンジの積み重ねだし、技術の上では絶対に負けはない。常に何か新しい知見がみられて、それが糧になっています。
――勝敗を問う土壌をまず理解するということですね
田山智広 そうですね。ただし、教訓が次に活かされてないとすれば、やはりそれは「良い負け方」とは言えない。なぜ失敗したのかを徹底的にレビューしなければ、次に活かされない。
――とはいえ、商品開発を矢継ぎ早に行わなければならない宿命も背負っていると思います。開発部としてはもう少し吟味する時間が欲しいけど、営業部からは「もっと早く」というような声も…。
田山智広 そうですね(笑)。ウチは「新しさの追求」という部分をすごく大事にしてきたんです。つまり、今までにない、一見して新しいと思えるような商品を創造しようという。哲学と言ったら言い過ぎですが、一貫してのポリシー。もちろん、ベースにはお客様の価値になるものを出すというのが前提として。ただ、新規性を大事にするが故にどうしても、既視感があるような“ど真ん中”というよりは、ひねりを入れた商品を開発しがちと言いますか。
――なまじ技術力があるだけに、まだ見ぬ世界へ誘おうとする傾向が(笑)。
田山智広 その背景には、「淡麗<生>」(1998年 ※現在の名称は「淡麗極上<生>」)と「キリンのどごし<生>」の成功事例があったんです。「淡麗<生>」に関しては、本当にあのヒットがなかったら、迫っていたアサヒさんに一気に逆転されていたでしょうね。ジリ貧に陥るかもしれないというぐらい、危機的な状況を持ち直させた新商品という神風でした。この2つのヒットが、ある意味「新しい商品の追求」に拍車を掛けたと言えるし、やはり成功事例がその先の失敗を生むという流れを作ったとも言えます。