• ORICON MUSIC(オリコンミュージック)
  • ドラマ&映画(by オリコンニュース)
  • アニメ&ゲーム(by オリコンニュース)
  • eltha(エルザ by オリコンニュース)
ORICON NEWS

“芸人系街ブラ”のフォーマットを確立し、女性アナブレイクの登竜門にも…15周年『モヤさま』の功績

“街ブラ”を芸人のものにした草分け「『モヤさま』はオルタナティブ」

『モヤさま』は、「世界一ドイヒーな番組」をキャッチコピーに「深夜の1クール限定の番組」(株木氏)として、2007年に“ひっそり”とスタート。

「普通、テレビ番組ではこんなことやらないよね。むしろ王道なことって寒いよね、という感覚をさまぁ〜ずさんとスタッフ双方が感じており、遊び心満載でスタートした番組です」

 王道を行かない、“テレビ東京らしい”アプローチ。今でこそ芸人が出演する街ブラ番組はバラエティの“鉄板コンテンツ”になっているが、『モヤさま』が始まった2007年以前は、『ぶらり途中下車の旅』(日本テレビ系)、『ちい散歩』(テレビ朝日系)など、歳を重ねた俳優らが、旅の一環として街を歩くのが主流。旬の芸人が出演し、笑いを起こす今のバラエティの街ブラフォーマットを作り上げたのは間違いなく『モヤさま』の功績と言えるだろう。

「(芸人が出演しない)旅系の街ブラ番組は、『この旅先が良い』『お店のこれが素晴らしい』『宿のここが素敵』など、“情報”が軸。一方で『モヤさま』が重視しているのはあくまで“お笑い”。街は笑いを生み出す大喜利の舞台にすぎず、そこにある“変な”物、人を“いじり”に行く。何もないところでいかに笑いを生み出すか。そこが大きく違うところですね」

 その後、『有吉くんの正直さんぽ』(フジテレビ系)、『帰れマンデー見っけ隊!!』(テレビ朝日系)をはじめ、芸人が出演する“街ブラ番組”は増加。“王道”をいかないはずが、『モヤさま』はいまや“芸人系街ブラ番組”の金字塔として君臨するまでになったが、今もその立ち位置がゆるがない理由を、株木氏は「この番組はオルタナティブなんです」と解説する。

「いわゆる街を舞台にした番組は、今結構あると思うんですけど、それらの主人公は出ている芸人さんや俳優さん。その方々がいかに面白く、楽しくしているかを見せるものだと思うんです。でも、この番組の主人公は、さまぁ〜ずさんではなく、街の人たち。いかにその人たちを面白く見せるか、なんです。なので、“街ブラ番組”として一見同じように見えるんですが、そこが違うところかなと思います」

さまぁ〜ずのすごさは、“低温”の笑いを繰り返して“いい湯加減”を持続させる

 この「街の人たちをいかに面白く見せられるか」という“黒子精神”が成立するのは、さまぁ〜ずだから、と株木氏は言う。

「一般の方が何か変なことやっていて、それを芸人さんがツッコむと、一刀両断で終ってしまうケースが多いんです。だけどさまぁ〜ずさんは、それらを面白がってずっと見ていられる。あくまで、その人たちの生活をのぞかせてもらっているというスタンスなので、絶対に否定しないというのが、2人のなかのルールとしてずっとあるようです。そして、合気道のように相手の力を利用して笑いに持っていく。2人のすごさは、このずば抜けた観察力と“合気道力”だと思っています」

 野原に穴があるだけで10分近く話し、なんでもない八百屋のおじさんを面白い人にしてしまう。それがさまぁ〜ずのすごさだという。

「お笑いはツッコミで成立することが多い。しかし2人は、こうだよね、こうだよねと笑いを積み上げていき、想像を超えた方向へと持っていく。ツッコミによる瞬発的な笑いって“熱”は高いんですが、さまぁ〜ずさんは“低温”の笑いを繰り返してクセにさせる笑い。瞬間的な“熱”は高くなく、“いい湯加減”を冷まさず持続させるんです」

 この“いい湯加減”な笑いは老若男女誰からも愛され、ターゲットを選ばない。結果、早朝に深夜、ゴールデンと、ターゲットが全く異なる放送枠でも順応。通常の番組ではありえない、8回もの引っ越しを経ても人気を維持する稀有な存在となっている。この特異性もあり、テレビ東京内でも、ある種の“治外法権”になっているという。

「『この番組面白いでしょ』と“面白さ”を提供するのが僕らの役割。編成でもこの番組は当初から“なんか面白いからいいか”と大目に見てくれて口を出されないんです(笑)」

 放送枠に囚われず“面白さ”を追求する『モヤさま』は、昨今はSNSを中心にテレビについて「どこを見ても同じような番組ばかり」と言われることへのアンチテーゼになりうるのはではないかと問うと…。

「敢えてその質問に答えるなら、編成がマーケティングをしすぎると、番組の“角”がとれて丸くなってしまう。一方で口を出されない『モヤさま』は“角”が残ったまま。その『角』が視聴者に刺さっているのかもしれません」

必ずハネる女性アナ…選考の基準は人気ではなく「人間味」

 さまぁ〜ずが「面白くする」のは、何も街の人だけではない。一緒に街ブラするテレビ東京の女性アナウンサーも、この番組をきっかけに新たな一面を見せ大きく飛躍。『モヤさま』は、“テレ東女性アナの登竜門”となっている。株木氏は「さまぁ〜ずさんは“女性アナ”という仮面をはずさせる天才」と話す。

「普通、スタジオで初対面のアナウンサーがいたら少し気を遣いますよね。でもこの番組の場合、アシスタントというよりも完全に仲間という意識なんです。カメラの前に3人で立てば、それは対等な関係。一人の人間として遠慮なく、呼び捨てにして距離を詰めていじっていく。そこは、素人の人たちと同じですね。
 過去4人の女性アナウンサーがアシスタントを務めてきたんですが、いずれも“ハネた”回があります。それは共通して『人間味が見えた時』。“女性アナ”という背負っているものを脱ぎ捨てた瞬間から一気にハネて、伸びていくんです。だから僕らもアシスタントを選ぶときは、“人間味”を一番重要視しています」

 なかでも、最も変化があったのは、二代目の狩野恵里アナだという。

「入ったころは見た目もあか抜けておらず、なぜアナウンサーをやっているのかという不思議なキャラでした。だけど初代の大江(麻理子アナ)が卒業する前に、大江に『次を誰にしよう?』と意見を聞いたところ狩野アナを推薦したんです。『なんで狩野なの?』って思ったんですけど、いろいろ話したりしているうちにすごく“人間味”ある子だなと思って抜擢しました」

 結果、当時ほぼ知名度がなかった狩野アナだったが、いじられキャラが開花し、『モヤさま』登場からわずか半年でORICON NEWSの「好きな女子アナランキング」TOP10入り(6位)を果たすなど人気アナに成長。バラエティから報道まで活躍の幅を広げている。また、最も“女性アナの仮面”が外れるまで時間がかかったのが三代目・福田典子アナだという。

「福田は、番組登場からしばらく“女性アナ”を背負って、なかなか下ろそうとせずにロケに臨んでいました。それが変わったのは、自身の不注意であごを骨折して収録に臨んだ回。そこをさまぁ〜ずさんにうまくいじられて、一皮むけたように思います。
 さまぁ〜ずさんは、お笑いの教科書を持たない人。教科書どおりが好きではなく、女性アナの素が見えた時に『そういうところだよ』と喜ぶ。良い相乗効果が生まれるんです」

 ちなみに、初代の大江アナが抜擢された経緯は、当時年末年始特番の撮影時期で、スケジュールが空いていたのが大江アナら数名しかおらず、そのなかで人柄、人間味から選ばれたという。当時の看板・大橋未歩アナ(現フリーアナウンサー)は特番や新番組に引っ張りだこだったそうだが、そこには目もくれなかったというエピソードがいかにも『モヤさま』らしい。

 そんな『モヤさま』は15周年を記念し、7月に『放送15周年記念「モヤさまドイヒー展」』を開催。ファン垂涎の懐かしい資料が並ぶというが、そこにもらしさ全開の“ドイヒー”なものも展示するという。

「先日、あるメニューを見た田中アナが顔をしかめる場面がありました。“ドイヒー”な見た目でモザイクをかけて放送したのですが、我々はこれを食品サンプルにして展示します(笑)。気合を入れて作った年表もあるので、お時間ある方はぜひご覧になってください」

取材・文/衣輪晋一

あなたにおすすめの記事

 を検索