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発売なしの“空白の2年間”が存在…『プロ野球チップス』が50周年、今でも購入半数が小学生 娯楽が多様化しても“野球好き男子”は一定数いる
選手の活躍や不祥事は読めない…回収に至ったケースはないが、野球は筋書きのないドラマ
その『プロ野球チップス』を知り尽くしているカルビーの現役社員がマーケティング本部の三井剛さん。1995年に入社し、2009年からは1人で『プロ野球チップス』を担当している。
「もちろん選手の人選は私だけでなく、球団さんとも相談しながら行っています。シーズン開幕の3月に第1弾、セ・パ交流戦が始まる6月に第2弾、ペナントレース後半戦の9月に第3弾とラインナップを変えて発売。各回、1球団6人ずつの現役選手のレギュラーカード72種類に加え、開幕投手カードやエキサイティングシーンカード、タイトルホルダーカードなど120種類前後を制作・発行します」
年3回の制作で三井さんが最も頭を悩ませるのが第2弾だという。
「第2弾は開幕前の3月頃から制作を開始するのですが、その選手が実際にどんな活躍をするかは読めません。先日は4月10日に千葉ロッテマリーンズ・佐々木朗希選手が完全試合を達成されて、急きょ写真や裏面の紹介文を差し替えました。これはうれしいケースでしたし、発売前だったのでセーフでしたが、例えば外国人選手が突然帰国したり、あるいは選手が不祥事でも起こしたら…。回収しようにも封入を開けないとどの選手が入ってるかわからないので、手の打ちようがないんです」
幸い、今のところ回収に至ったケースはないというが、野球は筋書きのないドラマ。特に第2弾は「発売後もいろんな意味でドキドキしています」とのことだ。
発売なし“空白の2年間”はJリーグ人気によるものだった、その間はポップコーン商品に封入
「時はまさに巨人のV9時代(65年〜73年、9年連続の日本シリーズ制覇)。またON砲(王貞治・長嶋茂雄)も炸裂しており、小学生男子が好きなものとして真っ先に上がったのがプロ野球でした。また当初はカードのラインナップも巨人の選手が大半を占めていました。ちなみに73年の第1号カードは長嶋茂雄さん。『プロ野球チップス』が最も売れたのも、長嶋さんが監督として巨人を率いてリーグ優勝した94年です」
ところがその翌年から2年間にわたって『プロ野球チップス』は販売されていない。背景にあったのがJリーグフィーバーだ。
「カルビーではJリーグのプレ大会が始まった92年に『Jリーグチップス』を発売しましたが、Jリーグ人気が最高潮に達した95〜96年は『Jリーグチップス』も爆発的に売れたため、同じ工場ラインで『プロ野球チップス』が製造できなかったと聞いています。ただプロ野球選手カードについてはこの2年間もグループ会社のポップコーン商品に封入する形でお届けしていました」
かつては多くの小学生男子が野球帽をかぶっていたが、子どもの興味も多様化している。カルビーでもスポーツにとどまらず、『遊戯王』や『妖怪ウォッチ』、『鬼滅の刃』などさまざまなアニメとコラボしたカード付きチップスが展開されてきた。
「始まりが『仮面ライダー』だったように、その時代ごとの小学生男子の興味を反映しながらカルビーのポテトチップスのおいしさをお届けするのがカード付きチップスの役割です。また、特撮やアニメが放送を終了しても、プロ野球は毎年シーズンがやってきます。娯楽は多様化しましたが、いつの時代も“野球好き男子”は一定数いて、それが『プロ野球チップス』が50周年を迎えられた原動力なのかなと思います」
大谷翔平は異例の1枚のカードに2枚の写真を採用 射幸心を煽りすぎず高額転売防止も
「リーグMVPに加え、投手と指名打者の両部門でベストナインをダブル受賞された年です。カードに採用する写真も投げているところと打っているところ、どちらを選ぶか悩みに悩みました。結果、『1枚のカードに2枚の写真を採用』という異例の形になりました」
コレクターも多く、なかにはネットオークションやフリマアプリで高額取引されているカードもある。しかし三井さんはこうした現象にやや複雑な表情を浮かべる。
「欲しいカードがあるのはいたしかないのですが、個人的にはあまり高額がついてしまうのは好ましくないなと思っています。『プロ野球チップス』は、カード裏面の文章の漢字にもルビを振っているように、小学生男子に向けた商品です。長年のファンに親しんでいただいているのはうれしいですが、カードも含めてあくまで子どもの手が届きやすいものであってほしい。カードホルダーが当たるラッキーカードなどはありますが、極端に発行枚数の少ないカードを設定するなど、射幸心を煽りすぎないようには気をつけています」
現在も購入者の半数は小学生だという。
「5年ほど前からカードを袋の表面に貼り付けるようになり、それをきっかけに『プロ野球チップス』の売上が改めて伸びています。それまでは袋の裏面に貼り付けていましたが、カードが付いていることに気づかないお子さんが多かったようなんですね。今はデジタルのゲームが主流ですが、現物としてのカードが手元にある喜びは今も昔も変わらないのかなと思います」
今シーズンは3年ぶりに観客の人数制限のない球場で熱戦が繰り広げられている。
「現場での盛り上がりは画面からも伝わりますし、生の応援はきっと選手にも届くはず。カードのデザインに映えるような素晴らしいプレイに期待しています」
(文/児玉澄子)