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大河ヒットのカギは“群像劇” 三谷式が生んだ、主人公に焦点を合わせないことで生まれる物語の余白

 今年1月に放送開始され初回視聴率は17.3%、2月13日の第6回放送も13.7%と“好発進”の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)。脚本は『新選組!』(2004年)、『真田丸』(2016年)に続き、3度目の執筆となる三谷幸喜氏。コメディタッチ要素をどこまで組み込めるのかという“三谷節”への期待も高いが、もう1つのキーワードとなるのが“群像劇”。小栗旬演じる主役・北条義時のほか、源頼朝(大泉洋)、北条政子(小池栄子)など、歴史上のビッグネームが並ぶ同作だが、そもそもタイトルにある「13人」の意味とは? じっくりと1年かけてそれぞれの登場人物を描く三谷式「群像劇型大河ドラマ」の醍醐味とは。

ドラマであることを活かし「歴史に埋もれたヒーロー」にスポットをあてる集団主演制

 これまでの大河ドラマは、実在した人物の生涯を描きつつ“新解釈”で新たなイメージを構築し、歴史上の定説とは離れた演出を加える一方、実際に歴史的新事実を発掘するなどの一面があった。

 『天と地と』(1969年)では武田信玄・上杉謙信ブームを巻き起こし、『独眼竜政宗』(1987年)ではマイナーな存在だった東北の武将に焦点を当て、大河ドラマ歴代最高視聴率39.8%(年間平均視聴率)を記録、さらに『麒麟がくる』(2020年)では、歴史上最大のヒールともいわれる明智光秀を主役に“抜擢”した。大河ドラマは、武将のみならずその妻や参謀、中央ではない地方の武将など、本来“地味”な存在を世間に知らしめる役割も担っていたのである。

 そうした「歴史に埋もれたヒーロー」にスポットを当てる大河ドラマとは、三谷幸喜脚本作品はむしろ“相性がいい”といえそうだ。

 第一作目の『新選組!』は、題材こそ超定番コンテンツだが、近藤勇役の香取慎吾を筆頭に山本耕史、藤原竜也、オダギリジョー、堺雅人、中村勘九郎、中村獅童等々、当時の若手実力派の俳優陣を敷き、いわば青春群像劇=「集団主演制」ともいうべきスタイルをとった。第二作『真田丸』では、『新選組!』の起用でブレイクした堺雅人を主役に迎えて「日本一の兵」真田幸村(信繁)を演じさせ、父親役の草刈正雄も何十年ぶりかの再ブレイクを果たした。

 『新選組!』も『真田丸』も最終的に主人公は天下を取るには至らず死を迎えるが、三谷自身、「真田信繁も新選組も歴史を築いた人物ではありません。言ってみれば歴史に取り残された『敗者』です」とNHKの公式サイトで発言している。しかしながら、そこには湿っぽいままでは決して終わらせないという、三谷流“敗者の美学”を貫く自負も見え隠れしている。そして事実、三谷大河には視聴者それぞれに感情移入できる対象が揃えられており、結果的に幅広い視聴者層を満足させる仕上がりとなっているのである。

1人のスターに作品を背負わせるのは不要? 主人公を凌駕する存在を創造出来るのが大河の魅力

 また、大河ドラマでは、歴史的スーパースター“以外”のヒーロー・ヒロインを主人公にする…というのも恒例。世間的に評価がまだ固まっていない、いわば“未知の俳優”を抜擢するのである。

 古くは『太閤記』(1965年)の緒形拳、『天と地と』(1969年)の石坂浩二、『独眼竜政宗』(1987年)の渡辺謙など、当時の視聴者にとっては若干の懐疑的な人選であったものの、演技力はもちろんのこと、意外性と新鮮さがあいまって作品ともども大ブレイクしたといえる。

 史実に沿って重厚かつ壮大に描く大河ドラマ作品には、どうしてもカリスマ的な人気を誇る銀幕のスターが必要だった。しかし三谷作品では、登場人物それぞれの生き様が描かれるので、その個性的キャラクターや会話劇を含む「群像劇」が魅力となり、一人のスターに作品を背負わせなくても物語展開を楽しむことができる。

 そして群像劇であることは、主人公以外の人気キャラクターを起用した、いわゆる“スピンオフ”作品を期待することもできる。実際、『新選組!』では続編を望む声に応えて『新選組!! 土方歳三 最期の一日』が放送されており、おそらく大河ドラマ史上唯一のスピンオフ作品となっている。最近では、民放の連続ドラマの本編放送終了すぐ、Huluなどのサブスクリプションでアナザーストーリーが放送されることも多くなっているし、『鎌倉殿の13人』においてもまだまだ語るべき“余白”はありそうである。

視聴後にSNSでシェアしたくなる群像劇の持つ“余白”

 こうしたスタイルはSNSでも相性がよく、たとえば放送直後からファンアートが飛び交い、印象に残ったシーンやセリフ、人物などをイラストで描いてはSNSでアップ→拡散→トレンド入りする流れが見られる。

 実際、『真田丸』や『おんな城主 直虎』、『いだてん』『麒麟がくる』などはそうした盛り上がりからも、ドラマ自体の注目度が上がっていった。他の連ドラではあまり見られないそうした傾向も、群像劇ならでは。

 取り上げられる人物が多いだけに、視聴者それぞれに心を揺さぶられるシーンが多く、個性的なキャラクターも豊富でイラスト化しやすく、人によっては妄想を含めた創作意欲が掻き立てられ、SNS上で共有したいという市場もでき上がるのだ。

 往年の銀幕スターが主役を張り、家庭でお父さんお母さんがじっくり鑑賞する…なんて昭和な大河ドラマはもう過去のものなのかもしれない。一人ひとりの趣味嗜好が多様化し、万人のための絶対的なカリスマがいなくなった現在、それぞれに感情移入しやすい俳優たちが登場する、“群像劇的な大河ドラマ”のほうが時代に合っているのだろう。

 今回の『鎌倉殿の13人』においても、主人公の小栗旬は戦の現場ではけっこうへっぴり腰だし、「300人は欲しい」と鎌倉殿(源頼朝=大泉洋)に言われていた兵にしても、前日で18人しか集められない体たらく。2月6日の第5回放送では、大将の頼朝ですら大敗走し、仲間に当たり散らす無様な姿をさらす。

 突出したカリスマ主人公がいない群像劇だからこそ、それぞれの“推し”が成長してくる余地がある。三谷氏は2020年1月に同作の発表をした際、「このドラマが2022年にオンエアされて、その年の暮れぐらいになると、もう日本中の皆さんが13人全員の名前を言えるようになると確信しております」とのコメントを残しているが、三谷氏の“野望”はおそらく実現されることだろう。

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