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60年“変わらない”文明堂のCM、「売上に直結しなくても…」裏に込められた老舗の矜持
テレビ黎明期から続くCM、クマか? ネコか? 「カステラ一番」の歌の裏話も
「当時、高価な菓子というイメージのあったカステラですが、一般家庭への消費拡大を図るという目的で、そのころ最先端だったテレビに着目しました。人形劇は、お子さんにわかりやすく、目を釘付けにする人気コンテンツ。当時は街頭テレビなどもあった時代ですから、お子さんが足を止めると、親御さんも一緒に足を止める。そうしてカステラをアピールするという、狙いがあったんだと思います」(広報担当者/以下同)
こうして、広く知られることになった『文明堂豆劇場』だったが、視聴者からは踊るぬいぐるみについて、「あの動物は一体なんなんだ?」という疑問の声が寄せられることも多かったそうだ。実は当初、バーグ夫妻はカンカンキャット(ネコ)として制作し演じていたが、多くの視聴者はクマと捉えてしまったという。ダンスの最後でシッポが振られるのが、キャットであった名残りだ。実際、同社が調査したアンケートでも、88%があのぬいぐるみをネコだと思っていなく、半数以上がクマだと認識していたそうだ。「今は正式に“仔グマ”ということに(笑)。バーグ夫妻にも当然、了承を得ています」。
そして、有名なCMソング「カステラ一番、電話は二番」は、文明堂を東京に進出させた宮崎甚左衛門氏が生みの親。宮崎氏は「肉は一番、電話は二番」と広告を打って効果を上げていた肉料理店のことを知り、「赤坂二番」の電話番号を取得(当時は該当局の電話交換手に番号を告げて電話をかけた)。それが「カステラ一番、電話は二番」のCMソングにつながったというわけだ。
社会や嗜好が変化する中、「変えない」CMに込めた老舗からのメッセージ
「何度か、少し違うCMを流していたのですが、その都度お客様から『変えないでほしい』という声をいただきました。そこで仔グマのダンスが復活するわけですが、『あれは誰が操っているんだ』という声にお応えして、バーグ夫妻に出演していただいたことも。ですが最終的に原点へと返り、1994年に初代バージョンをリメイクし、そこからまったく変えることなく現在に至ります」
視聴者や顧客の声に応えるとはいえ、この60年は日本の社会も、消費者の好みも大きく変化している。他の食品メーカーなどでは、流行を取り入れたり、最先端を目指すようなCMが次々に作られているのに、なぜ文明堂は「変えない」のか。
「それは、『老舗の文明堂ですが、今も元気にやっています』というメッセージを届けたいから。仔グマのぬいぐるみもバーグ夫妻の手作りですし、文明堂もずっと変わらず、手作りと丁寧な製造をしています。それをこのCMで、少しでも感じていただけたら」。