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ツッコミ必至だけど納得感ある、『シャーロック』ディーン・フジオカのケレン味が時代にフィットする理由

  • 『シャーロック』主演を務めるディーン・フジオカ(C)ORICON NewS inc.

    『シャーロック』主演を務めるディーン・フジオカ(C)ORICON NewS inc.

 初回視聴率12%超えの好スタートを切った月9ドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)。第2話は前番組の影響で開始時間が遅れ9.3%だったものの、第3話では9.9%と0.6ポイントもアップ。作り込んだストーリーや登場人物、演出も好評で、ディーン・フジオカ演じる主人公のキテレツさがとくに異彩を放っている。これまでも“舶来モノ”ドラマで評価されてきたディーン。“自然体”や“重厚感”、“味”ばかりが重宝されがちなエンタメシーンのなかで、 ディーンから漂う“ケレン味”の持つ意味は?

SNSからもツッコミ、でもなぜかフィットするディーンの演技

 『シャーロック』はアーサー・コナン・ドイルが生み出した世界的ミステリー『シャーロック・ホームズ』の日本版。名探偵シャーロックこと誉獅子雄(ほまれ・ししお)をディーン、相棒・ワトソンこと若宮潤一を岩田剛典が演じるミステリードラマだ。原作でその名称だけ語られる過去に解決した事件(語られざる事件)に着目しているのが特徴で、そのアレンジやトリック、演出や芝居などSNSではおおむね高評価を得ている。

 だがそれ以上に(?)盛り上がっているのが、ディーン演じる獅子雄の奇行だ。突然バイオリンを弾き始めたり、なぜか変装でひげモジャになっていたり、そのひげを大げさなポーズで取り去ってみたり。とかく言動が芝居がかって大げさで、SNSでも「なぜバイオリン!?」「ドラマの途中でいきなりバイオリンを弾いても許されるのはディーンくらい」などの声のほか、ひげを取り去るシーンでは「変装解除!(笑)」とツッコミが。また、単にメガネを外すだけのシーンでも「このメガネ外しプレイがたまらない」とファンが沸いたり、「フジテレビはディーンの魅せ方を本当によくわかっている」と賞賛する声も見られた。

 キャラ設定がそもそも変人ではあるが、普通の俳優がやったら微妙になりそうなところ、ディーンだとツッコミを入れたくなりながらも、なぜかハマる。浮世離れした演技に納得感があり、クセになりそうな予感もある。なぜディーンだと許されるのか?

“舶来モノ”がハマる理由、特異なバックグラウンドや人物像が影響

 ディーンといえば、近年『モンテ・クリスト伯』や『レ・ミゼラブル』(ともにフジテレビ系)などで熱演。いずれも高い評価を得た。海外の古典を元にしたドラマでは、その特性ゆえ、舞台的な芝居や日常ドラマにはない劇画っぽさ、浮世離れ感が必要となる。多くの論評では、ここにディーンがハマったのは、彼のバックグラウンドに要因があるとされている。

 ディーンは大学卒業後、旅行したことをきっかけに拠点を香港に。クラブで飛び入りパフォーマンスをしていたところ、現地のファッション誌編集者からモデルとしてスカウトされた、という特異な経歴の持ち主。逆輸入の形でNHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』(2015年〜)でブレイク。その後も海外で活躍、居住している他、マルチリンガルでアーティストとしての顔もある。

異文化感に弱い日本人、『ディーンなら…』と納得

 そんなディーンについて『シャーロック』でプロデュースを務める太田大氏(『モンテ・クリスト伯』『レ・ミゼラブル』ほか)も、「彼の得体のしれなさはとても貴重。身近すぎない、そして見ていてどこか不安を感じさせるミステリアスな雰囲気。ディーンさんが本作の企画意図そのもの」と語っている(エンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』)。

 「その身近ではない印象は、“どこかから来た異国のワケあり王子”的要素。そんな貴種流離譚を地で行くフィクション感がディーンさん最大の魅力」と話すのは、過去にディーンへのインタビュー経験豊富なメディア研究家の衣輪晋一氏。「日本人は基本的に異文化に弱く、例えばオーバーな愛の表現を日本人からされると引いてしまうが、外国人からだと“ロマンティック”に感じる一面があります。同様に、異文化感を持ったディーンであれば、たとえ突然バイオリンを弾き始めようが、いきなりひげモジャになってようが、『ディーン・フジオカなら仕方ない』と納得してしまう部分がある。この彼の持つ違和感が逆に本作では良い“ケレン味”となって作用しており、『ディーン、今度は何やってんの?』という興味やツッコミにもつながる。これはプロデューサー太田さんのディーンさんの魅力に対する発見であり大発明と言えるでしょう」。

“重厚感”や“味”ばかりが重宝される昨今、軽視されがちな“ケレン味”の存在感

 “ケレン味”(外連味)とは、大げさなはったりやごまかしを利かせたさまを言う。演劇用語で、うまい具合に誇張されていたり演出されている場合に、褒め言葉として用いられる。ただ、昨今の日本の芸能界で重宝されるのは、自然なスタイルの芝居や、重厚感、味のある演技。どんな役にも染まり変幻自在に変化するカメレオン俳優、個性派俳優などと呼ばれる人々が評価される。オーバーアクションやケレン味ある演技は、ときに軽薄だ、俗受け狙いだと嫌われる風潮があるのだ。

 衣輪氏は「これはトレンディードラマ以降の風潮」と解説する。「80年代に起こったポストモダン運動は、それ以前の文化を古臭い、ダサいと蹴落としてしまった。テレビドラマも同様でナチュラル志向に。ケレン味のある芝居や演出、脚本を避け、“芝居している感のない自然な立ち居振る舞い”の芝居が主流となりました。こうして、ガチガチの俳優たち以外の若手が活躍するトレンディードラマの流行につながり、さらにケレン味が持ち味の時代劇も衰退。ところが、『半沢直樹』(TBS系)あたりで復活。舞台役者が次々とテレビ進出するなど、少しずつ他のドラマでも見られるようになりました。ケレン味とは、歌舞伎や人形浄瑠璃に多く見られる放れ業、早変わり、宙乗りなどのこと。そもそも日本のエンタメの源流にあり、文化の奥底に根付いているものなので、日本人ならば(好みはあれど)、あればあったで楽しめるもののはずなのです」。

かつて壊したケレン味を再生するフジテレビ、体現する貴重な俳優

 はったりを利かせて魅力的に、面白く見せるということは、イコール大衆性がある、エンタテインメントであるということ。つまり「楽しい」ということだ。また原作の『シャーロック・ホームズ』はミステリーの源流であり、そもそも登場人物たちのケレン味がその“味”とされてきたものであり、ドラマ『シャーロック』にケレン味があることにも違和感はない。原作へのオマージュとパロディの狭間で、ディーンという存在がうまくバランスを保っているのだ。

 「まさにディーンさんでなくては成立しない作品が『シャーロック』。つまりケレン味の強い作品は、トレンディードラマの王であったフジテレビが壊し、フジテレビが本作で再生させたともいえます」(衣輪氏)

 重厚感や味のある俳優もいいが、こういったケレン味ある俳優も重要。それは単に選択肢が増えるということであり、その分、エンタメ界に奥行きが出るからだ。ケレン味を自然に体現できるディーンは日本の芸能界でも数少なく、エンタメ界にとっても貴重な存在ではないか。今後も同作で見られるディーンのケレン味を堪能してもらいたい。

(文:西島亨)

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