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ハウス食品“辛いハヤシライス”発売の背景に中学生の“ハヤシ卒業”問題?
ハヤシライス=ハッシュドビーフ 時短料理としても好評
明治時代にはすでにメニューとして掲げられていたと言われており、以降、老舗洋食店や喫茶店の定番メニューとして浸透。1980年代後半からは、ハヤシのルーがメーカー各社から発売され、家庭でも楽しめる料理の一つになった。とくに小さい子供がいる家庭を中心に、ハヤシライスは時短料理として広く親しまれてきた。近年では、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』で注目されたのも記憶に新しい。
ハウス食品のハヤシライスのルーと言えば、1996年に発売された『完熟トマトのハヤシライスソース』だ。当時はデミグラスソースが主流で、同社もハッシュドビーフのルーを発売していた。だがもっと子供たちにハヤシライスを食べてほしいとの思いから、完熟トマトの濃厚な甘みと、ほどよい酸味を特徴とした『完トマ』を発売。ファミリー向けの商品として、大箱で展開した。
ロングセラー商品にまで成長したことについて、田村さんは「『完トマ』発売前の家庭でのハヤシライスは、ケチャップを入れて作られていたこともあったらしい。なので、トマトとハヤシがそんなに違和感なく受け入れられたのでは」と推測する。
一方、ハヤシのルー市場は縮小傾向にある。市場調査会社のインテージによると、2001年以降、ハヤシのルー市場は拡大基調にあり、2011年には約66億円とピークを迎えたという。だがその後は縮小に転じ、2013年に60億円を割り込んで以降、50億円台で低迷が続いている。2018年の市場規模は、約54億円となっている。
田村さんは「ハヤシのルーの新商品は毎年、各社から発売されているため、決して品数が減っているわけではない。カレーやシチューより手軽に作ることができるハヤシライスは、まだまだチャンスがあるはずだが、毎年、一定数の“ハヤシ卒業”がある」と危機感をあらわにする。
甘口、中辛、辛口…中学生以上はカレーに移行
だが昨年、その捉え方が違っていたと分かった。同社の調査によると、『完トマ』を食べている世帯の多くは末子小学生がいる家庭で、中学生以上の子供がいる家庭は、カレーに移行していたという。調査結果を受け、田村さんはこう分析する。
またハヤシライスとハッシュドビーフは同じ料理でも、別のメニューとして認識されているケースが多いという。田村さんは「カレーの甘口、中辛、辛口と移行するように、ハヤシからハッシュに移行すると捉えていたが、大きく違った。お客様には“トマト系ハヤシ”と、デミグラスのハッシュは別物で、それぞれのご家庭の好みで召し上がっていただいていることが分かった。“トマト系ハヤシ”の中で、『完トマ』はある意味独占状態だったが、その“トマト系ハヤシ”に、まだ提案領域があることに気付くことができなかった」と振り返る。
『トマ辛ハヤシ』で“ハヤシ卒業”を食い止めることができるのか
「どんなハヤシライスが食べてみたいのか調査したところ、うなぎに山椒のような、甘さの中にほどよい辛みがあるものを食べてみたいという声がありました。ただハヤシの良さは、あくまでトマトのうまみや甘みなので。それを失うほどの辛さが強調された味は、ハヤシではなくなってしまう。なので『完トマ』の味をベースに、世界観を崩さないよう辛みの質にもこだわり、トマトと相性の良い『焙煎唐辛子』を入れて開発しました」(田村さん)
『トマ辛ハヤシ』は、発売初年度で約5億円の売り上げを目指している。田村さんは「『完トマ』から移行するお客様だけでなく、昔食べてくださっていた人も戻ってきてくれると思う。ハヤシのルー市場はダウントレンドですが、まだ需要は拡大できると見込んでいます。『トマ辛ハヤシ』で“ハヤシ卒業”を食い止めたいですね」と語っている。