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なぜ『ハズキルーペ』のCMは視聴者にインパクトを与えたのか

 「小さすぎて読めなぁいっっっ!!」。ハリウッドでも大活躍のあの世界の渡辺謙が“ブチ切れた”演出が話題となり、世間を騒然とさせた『ハズキルーペ』の新シリーズCM放送から1年。現在放送中の第4弾の新CMでは松岡修造が起用され、ネット上では「ついに世界一熱い男がw」「ハズキルーペ最強すぎ!」など話題を呼んでいる。なぜ『ハズキルーペ』のCMは、ここまで視聴者にインパクトを与え続けているのか。ハズキカンパニーの代表取締役会長で、プリヴェ企業再生グループの最高経営責任者でもある松村謙三氏に聞いた。

松村氏「最近はタレントのイメージCMばかり。何の宣伝をしているのか分からない」

 「CMの監督、企画、脚本、チーフスタイリストまですべて、私自身がやっています。撮影現場で一発OKを出すのも、私です」(松村謙三氏・以下同)

 松村氏は、渡辺謙&菊川怜が出演する新シリーズ第1弾から、総監督を務めている。それまでの石坂浩二、舘ひろし出演のCMは大手広告代理店が制作していたが、松村氏の意向がCMに反映されなかったという。「役者に商品名言わせてと頼んでも『そんなCMはないですよ』と突っぱねられた。有名タレントが出演する際、タレントに嫌われたらと怯んで制作者は忖度してしまう。だから最近はタレントのイメージCMばかりになっている」
 松村氏は「僕はまだCM制作の一年生」と謙遜するが、「イメージCMは、有名タレントは覚えていても、何の商品を宣伝しているのか分からないものがほとんど。私はCM制作の素人ですが、CMを見て商品を買う視聴者側もCMの素人。商品を売るためにCMがあることを忘れている」と語る。

 「イメージCMは、スポンサーのためにあるわけではなく、CMクリエイターのために作られている。CMに関する賞が多く設けられているが、そのほとんどは商品が売れた実績を元に選考されていない。選考基準を根本的に変えないと、結局スポンサーが離れていく現状を止める事はできないと思う」
 松村氏の手法は功を奏した。CM総合研究所の好感度ランキングで4135作品中、第1位を獲得(2018年10月度後期作品別)。玄光社の雑誌『コマーシャル・フォト』の「クリエイターが選ぶ2018CMベスト10」では、第1位、第3位を獲得している。

 CM効果もあり、『ハズキルーペ』自体の売り上げも好調だ。現在、取り扱い店舗は全国で約5万7000店にまで増加したという。これは全国にあるコンビニの店舗数に匹敵する数字だ。松村氏は「CMは、タレントを見たらすぐに商品を連想できる内容でないと意味がない。有名タレントだけ覚えていて商品が浮かんでこないCMは、制作費を捨てるようなもの」と断言する。

出演タレントを自宅に招待、食事しながら意図を説明

 キャスティングも担当している松村氏。キャスティングの基準は、一流の役者であることだ。「渡辺謙さんは映画『SAYURI』で、小泉孝太郎さんはドラマ『ブラックペアン』(TBS系)を見て決めましたね。松岡修造さんはドラマ『陸王』(TBS系)の外資系社長役の演技を見て、役者としても一流だと感じ、出演を交渉した」

 武井咲が出演した第3弾の「クラブ編」は、テレビ業界が驚がくした。武井の主演ドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)を彷彿とさせる設定で展開されるからだ。CM秘話について、松村氏はこう語る。
 「『黒革の手帖』を見て武井咲さんの着物姿が美しいと思ったんですよ。なので『黒革の手帖』の設定でCMを制作したいと大手広告代理店に打診したが、映像監督含め全員から『無理だ』と言われた。CMは他局でも流れるから、事務所もテレ朝も動いてくれないだろうと。だが、それは聞いてみないと分からない。だから僕は、代理店の担当者に『黒革の手帖は、10数%の高視聴率だったが、それでも80%以上の人は、武井さんの着物姿を見ていない。私は、もっとたくさんの人に武井さんの着物姿を見せたいと事務所の社長に伝えてほしい』と頼みました」
 同事務所の菊川怜が出演した第1弾が好評だったこともあり、事務所から了承を得て、見事CM制作にこぎ着けた。出演ドラマの設定を彷彿とさせる姿で、テレ朝のみならず全局で放送されるCMが制作されるという“前代未聞”の革命が起きることとなった。

 「キャスティングした俳優、女優さんたちは、撮影前に自宅に招いて食事をし、コミュニケーションを取るようにしています。いきなり撮影現場で顔を合わせても、良い演技をしてもらうことは難しい。事前にCMの意図を説明して、納得してもらった上で、撮影現場に入るのが重要なんです」

話題の“ヒップアタック”は松村氏の実体験から発案

 『ハズキルーペ』のCMといえば、商品をお尻で踏む演出を思い起こす人も多いだろう。いわゆる“ヒップアタック”だが、松村氏の実体験から生まれたアイデアだという。「ベッドで本を読んで寝た時、いつの間にか下敷きにして壊すことがよくあった。背中だと何とかなることもあるが、お尻だと全体重がかかり、壊れる。おそらくメガネ所有者は皆体験していると感じ、演出に取り入れた」
 だが先日、フジテレビが同演出について「セクハラといった視聴者からのクレームがあった場合は差し替える」とし、『ハズキルーペ』が全CMを引き上げると激怒したところ、フジが謝罪する事態になったと『週刊文春』が報じた。

 この件に対し、松村氏は「セクハラは同意がない場合の話。出演している女性モデルは、自らの意志でオーディションに参加し、選ばれた人たちだ。美脚な人が職業として表現しているだけなのに、それを否定するのは、憲法で保障されている表現の自由を侵害することだ」と、自身の見解を明かす。
 手でハートマークを作り、“ハズキルーペ、だ〜い好き”と笑う演出も松村氏の発案だ。“ヒップアタック”も含め、大手広告代理店は「そんなのはやりませんよ」と難色を示したが、松村氏はこう語る。

 「機能など理屈だけで人は動かない。人の脳は、理論を理解する部分と感情で判断する部分がある。大好きやすごいなどは一見、何の意味があるのかと思う視聴者もいるだろう。だが主観的な言葉である大好き、すごいは、脳の感情で判断する部分に強く訴える言葉です。人に何かを判断、実行してもらうためには、脳の構造を理解した上で、人間の持つ脳の両方の機能に訴えかける必要がある。このCMは、そういった部分を戦略的に考え抜いて制作しているのです」
 視聴者にインパクトを与えた『ハズキルーペ』のCM放送から1年。今や“渡辺謙、菊川怜といえばハズキルーペ”と周知されるほど、同CMは成功を収めている。大手広告代理店では不可能と思われてきたキャスティングや演出など、すべて実行してきた松村氏。「業界のセオリーとまったく違うことをやった結果、商品名が世に広まった」と話す一方で、今も試行錯誤していると本音を明かす。

 「世の情勢は、常に変わって行くもの。1年先など予測はできない。ましてや半年先でも。毎日が試行錯誤の連続です。事業経営は、薄氷を踏む思いでやるもの。経営トップが判断一つ間違えただけでも、企業は傾きます。『ハズキルーペ』は、お子様からシニアまで全世代に使える商品だが、まだまだ認知は足りない。現在の成功を富士山で例えると、まだ2合目程度。ただ世界を見渡せば、潜在需要は莫大に広がっています。すでに日本国内だけでなく、北米、ヨーロッパ、中東など世界戦略に舵を切っているので、あと5年が勝負と考えています」

 今後、革命者・松村氏がどんなCMを制作していくのか。目が離せない。

(文:衣輪晋一)
Information
松村謙三著『自分の頭で考える』(角川書店より4月27日発売予定)
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