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エッジの利いた個性派俳優も続々参戦、“胸キュン青春映画”に起きた変化とは?
映画界を席巻、“胸キュン青春映画”ブーム続く
さらに、神木隆之介が初青春(恋愛)モノに主演する『フォルトゥナの瞳』や欅坂46の平手友理奈主演の『響 ‐HIBIKI‐』など話題作が続き、漫画・アニメ・小説の原作を問わず、また季節にも関係なく、常に胸キュン青春映画が上映されているといった状況なのである。
しかし、映画界において“青春もの”は実は昔から続く“古典”でもある。そもそも悲恋劇の古典『ロミオとジュリエット』ともなれば16世紀まで遡るし、ハリウッド映画にしても『ウエストサイド物語』や『スタンド・バイ・ミー』など、名作青春映画は時代ごとに存在し、枚挙に暇がない。それは、邦画においても同様だ。
壁ドンブーム、『君の名は。』で拍車! 映画界に欠かせない結果の出るフォーマット
そこにはいくつかの成功フォーマットも見え隠れしている。『君の名は。』のヒットの背景としてもSNSの拡散と若年層との親和性の高さがさまざなメディアで指摘され、現在の映画業界におけるPR戦略ではSNSによる情報拡散が最重要視されている。さらには、その余波として胸キュン映画を大人世代にもPRすることで、かつて高校生だった大人たちが自分の甘酸っぱい恋愛体験を思い出し、ノスタルジーに浸りたくなったりもする。事実、サラリーマンのみを招待した試写会イベントなども行われるのも珍しくない。また、固定ファンのついている原作モノが主流だからこそ、ある程度は最初から集客・興行収入も見込めるし、若手俳優たちの主演・出演が主流であれば、大御所俳優に比べればギャラを抑えることもできるだろう。
そのように胸キュン青春映画のブームにはいくつもの要因があるようだが、実際にブームを支えているのは女性が中心。しかしながら、女性同士またはカップルによって鑑賞されており、まだ映画好き層へのアプローチは弱く、「男性がひとりで観に行きたい」ものに至っていないことも忘れてはならない。
若手のイケメン&美少女ではなく、エッジの利いた“個性派”役者の出演例が増加
その個性派役者の例では、菅田将暉が挙げられる。菅田は昨年、寺山修司原作・R15指定のハードコア作品であり、映画はR18指定だった『あゝ、荒野』に主演。そんな骨太な作品で芝居を評価され、アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した菅田が、現在上映中の『となりの怪物くん』で主演しているのである。また、菅田と同じく『となりの怪物くん』ヒロインであり、土屋太鳳はNHKの朝ドラヒロイン出身の正統派だが、現在の青春映画では欠かせない存在となっている。
また、二階堂ふみは、今年2月に公開した映画『リバース・エッジ』でヌードシーンを体当たりで演じるなど“個性派”の若手女優の筆頭にも挙げられる。過去には『愛のむきだし』、『冷たい熱帯魚』などで知られる気鋭の監督・園子温作品『ヒミズ』にも出演する一方、青春胸キュン映画“ど真ん中”の『オオカミ少女と黒王子』にも出演し、映画ファンを驚かせた。
さらに胸キュン青春映画系のスーパーヒロインとも言える小松菜奈も、スパルタ指導で知られる中島哲也監督の『渇き。』で徹底的に鍛えられた経験を持つ。デビュー作では6人とのキスシーンを体当たりで演じ、アカデミー新人賞を受賞。当時の衝撃は大きく、小松本人もインタビューで、「『渇き。』で演じた加奈子のようなエキセントリックな役が続いて、そのイメージから抜け出せなくて悩んだこともあった」と語っている。こういった、いわば“尖った”ともいわれる役者たちが青春もの映画で見られるようになったのだ。
役者側の「食わず嫌い」意識の変化 青春映画は“挑戦しがいのあるステージ”
さらに、演じる“難しさ”も俳優にとっては魅力のひとつになっているようだ。青春ものの多くには漫画や小説の原作があり、何かと辛口の原作ファンを納得させる存在感が要求されるだけに、“挑戦しがいのあるステージ”となっているのである。菅田は「エンターテインメントとして成立するとは思いますが、本当の意味で高校生の持つ“青さ”はビジュアルだけでカバーできるものではない」と、やはり演じる難しさを明かしている。また青春モノのヒロイン役が続く小松菜奈にしても、「ビジュアルではなく、内面で勝負する」とまで言っているのだ。
かつての若手俳優は、まずは胸キュン青春映画で経験を積み、俳優としてひと皮むけるために、よりハードで演技力が求められる作品に出演するのがお約束だった。それが今や、演技派・個性派のポジションを確立した若手俳優たちがあえて胸キュン青春映画に挑戦することで、自分の演技の幅・枠をさらに広げていこうとする“逆行現象”が起きているのである。それは今後、彼らの“挑戦”によって胸キュン青春映画が、男性たちをも巻き込んで“本流”となっていくはじまりなのかもしれない。