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バイプレイヤー育成の土壌を作った“Vシネ”の功績
渋滞が起きるほどの脇役ブーム…おじさま俳優の下積み時代にVシネあり
また、現在“主演”として映像作品に出演する名俳優にもVシネマ出身者は多数いる。阿部寛は、『悪党図鑑』(1994年)『拳鬼』(1995年)で格闘アクションを経験するなど、Vシネマで役者としての幅を広げた。香川照之(48)は、『静かなるドン』シリーズ(1991〜2001年)で、夜はヤクザの2代目、昼は下着メーカー社員という主人公を演じた。そんな、今をときめくおじさま俳優たちの活躍の“土壌”を作ったのがVシネマなのだ。
現在も年間60本製作、経験を積む貴重なステージとして俳優・監督を育んだ実績
VシネマはATG(日本アートシアターギルド)や日活ロマンポルノの“流れ”をくむ、低予算制作の映像作品。日活ロマンポルノは、1970年ごろに洋画が邦画を上回った日本映画低迷期に、低予算で利益を上げる作品として劇場で展開されていた成人映画。「10分に1回の濡れ場を作る」「上映時間は70分程度」「モザイク・ボカシは入らない様に撮影する」など、所定のフォーマットだけ確実に抑えておけば、表現の自由を尊重した自由度の高い映画作りができる場であった。作り手側の自由度が高いだけに、芸術性の高い作品が“突然変異”のように生まれることが多々あり、滝田洋二郎(『おくりびと』ほか)や周防正行(『Shall we ダンス?』ほか)、故・相米慎二(『セーラー服と機関銃』ほか)など、名だたる名監督を輩出してきた。
その後、VHSビデオの普及と共に映像作品のステージも劇場からビデオパッケージへと移行し、Vシネマとなる。「低予算」「表現の自由度が高い」映画作品として、東映をはじめ、映像制作各社から販売され、オリジナルビデオ商品が広まっていった。現在はDVDに形を変えてセル・レンタル商品として流通している。“Vシネマ”は、シリーズ化するのも特徴の一つで、竹内力主演の『ミナミの帝王』は約60シリーズを展開。ヒットシリーズ『極道の紋章』はスピンオフの外伝を含めると20巻超。『日本統一』はシリーズ継続中であり、27作目が3月に発売される。“四天王”といわれる竹内力、哀川翔、白竜、小沢仁志らはこの“Vシネマ”文化を代表する俳優として知られている。
現在は制作会社が減少し、“Vシネマ”を展開するメーカーは限られているが、それでも年間60本ほどのタイトルが発売され続けている。俳優・監督たちにとって“Vシネマ”は、ドラマ・映画・舞台に並ぶ貴重な芝居のステージだったのだ。
一発勝負の緊張感で俳優の強じんな“現場力”を育成
「一昔前は各社から発売されていたVシネマですが、現在は継続的にリリースをしているのはほぼ弊社のみです。実力派俳優を育んできた背景は、基本撮り直しをしないことにあるのではないでしょうか。劇場公開の大作映画とは異なりVシネマは低予算ですので、俳優さんたちも多少納得いかなかったとしても次々と撮影が進んでいき、ある意味一発勝負に近いやり方で制作が進みます。そんな緊張感あふれる現場で俳優さんたちは空気を読む力や、ここ一番の集中力も鍛えられていたと諸先輩方からも聞いております」(人見氏)。
事実、“ミスター・Vシネ悪役”と呼ばれる遠藤憲一は過去に「(Vシネは)演技の基礎体力を鍛えてくれる場所。出演するたびに何かが磨かれる」と発言している。2017年は年間CM起用者数で男性タレントナンバーワンに輝いた遠藤の強烈な個性を育んだのは、紛れもなくVシネマだと言えよう。
「さらに、」と続ける人見氏。「三池崇史監督、黒沢清監督も“Vシネマ”出身です。ほかにも、駆け出しの頃に何らかの形でVシネマに関わっていた監督は多いと思います。そういった方たちにとっては長年かけて信頼関係が出来上がっていますから、今のスター脇役人気を見ても、監督からの直接オファーで出演を快諾する機会も多いと聞いています」
若手育成の場としてVシネの灯は消えていない、動画ネット配信時代でもパッケージは継続
これまで“Vシネマ”は若手の登竜門としても知られてきた。現在でもDA PUMPのISSAを起用した『極道十勇士』シリーズや、財木琢磨、小南光司といった2.5次元舞台で人気を博した若手イケメン俳優が出演する『高校愚連隊』シリーズ、モデル・女優として活躍する橋本愛を起用し、『リアル鬼ごっこ』の山田悠介が原作を手掛ける『アバター』といった若者向けの作品も発売されている。依然として登竜門として、若手世代が活躍できる場は継続中であり、“Vシネの灯”は消えていないのである。遠藤憲一らに続くスターの出現なるか、俳優育成の土壌でもある“ネオVシネマ”に、今後も期待したい。