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ドラマにおける“決め台詞”の再評価 SNSの盛り上がりもカギに

  • 『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』に出演中の米倉涼子 (C)ORICON NewS inc.

    『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』に出演中の米倉涼子 (C)ORICON NewS inc.

 今期ドラマで盤石の強さを誇っているのは、言わずと知れた『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日系)。劇中に毎回登場する主人公の大門(米倉涼子)が放つ「私失敗しないので」や、名医紹介人の神原(岸部一徳)が「メロンです。請求書です」など、“決め台詞”も人気の要因のひとつ。『水戸黄門』をはじめ、毎度お馴染みのセリフが登場する“心地よい予定調和”は、視聴者に絶大なカタルシスをもたらすのも周知の事実。だが、視聴者から支持の高い“決め台詞”を要するドラマが近年、急激に増加したかといえば、そうとも言えない。一体何故なのだろうか?

現在から過去に至るまで、人気ドラマに“決め台詞”アリ!

 『水戸黄門』(TBS系)の「この紋所が目に入らぬか!」を皮切りに、『ガリレオ』(フジテレビ系)の「実に面白い」、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)の「承知しました」、『TRICK』(テレビ朝日系)の「全部まるっとお見通しだ!」、『花咲舞がだまってない』(日テレ系)の「お言葉を返すようですが」など、ドラマ発の決め台詞は数知れず。ほんの少し振り返るだけでも、『家なき子』(日テレ系)「同情するなら金をくれ!」、『ひとつ屋根の下』(フジ系)「そこに愛はあるのかい?」、『金田一少年の事件簿』(日テレ系)「じっちゃんの名にかけて/謎はすべて解けた」と枚挙に暇がない。

 現在放送中の『ドクターX』に至っては、「私失敗しないので」「請求書です」「御意!」など、複数の決め台詞が存在する。これら決め台詞に共通するのは、台詞を聞けばそのドラマの1シーンが浮かんでしまうほど作品の世界観の一部となっている点だ。今期、視聴率10%以上をキープする綾瀬はるか主演『奥様は、取り扱い注意』(日テレ系)でも「私が助けてあげる」という台詞から、問題解決へ向かう流れが心地よく、ドラマに爽快感を生み出している。

「決め台詞はダサい」という風潮を跳ね返した“半沢直樹”

 「そもそも、決め台詞的なケレン味と娯楽は伝統的に親和性が高い」と話すのは、メディア研究家の衣輪晋一氏。「作劇での決め台詞的なカタルシスの大元をたどれば“歌舞伎の見得”に辿り着きます。元々は、ザワザワした劇場で注目を集めるために生まれたと言われていますが、やがて観客は、見得を楽しみに劇場に集まるようになりました。見得や決め台詞は、物語の流れを強引にせき止めてしまう難しさもありますが、逆に凝縮したエネルギーを一気に放出する強烈な力を持っています。演者と演出の呼吸が物語にうまくマッチングすれば、これまでの物語のエネルギーのうねりが内的圧力を高めていく様にもワクワクしますし、それが解放された瞬間、得も言えぬカタルシスが得られるのです」(同氏)

 一方で、決め台詞のある予定調和な展開に視聴者が飽き、そのスタイルが“ダサい”と思われていた時期もあった。上位に挙がった決め台詞、もしくは流行語となりうるべき決め台詞の共通項を改めて振り返ると、(1)簡潔で印象的なフレーズあること。(2)学校、職場で直ぐにパロディ化できる汎用性の高さ。(3)物語の進行に必要不可欠であること。が主に挙げられる。だが、それらは同時に“ケレン味”を生じさせ、マンネリ化を引き起こし、一気に鮮度が落ちる危険性もある。そのため、『踊る大捜査線』(フジ系)のような“決め台詞のない”ドラマが多く制作され、それぞれがヒットを飛ばしてきたのだ。

 その風潮を跳ね返したのが「倍返しだ!」でムーブメントを起こした『半沢直樹』(TBS系)。「2013年の流行語大賞には“倍返し”や“じぇじぇじぇ”が選ばれています。そういった意味では、2013年は決め台詞のあるドラマの面白さを視聴者が改めて感じた年といえるでしょう」(衣輪氏)

決め台詞が話題のタネに SNSでの盛り上がりがドラマ人気と比例

 2013年からも『ドクターX』をはじめ、『家売るオンナ』や『花咲舞が黙ってない』など、決め台詞ありのドラマ人気は続いている。だが、決め台詞のあるドラマは年に1〜2本程度で、急激に増加したという動きはとくに見られない。

 増加しない理由は上に記した通りだろう。同じ台詞を使う予定調和な内容で、心地よいマンネリ感をもたらすストーリーの構成が難しく、単にありきたりな内容になる可能性が高い。せっかく決め台詞を作ってウケを狙っても、それが“スベって”しまったら大惨事になってしまうのだ。ドラマの企画会議にも多く出席する衣輪氏は「決め台詞を作るというのは物語作りに制約がかかるリスクもある。テーマや物語には、語られるべき手法がそれぞれあるので、制作側も多様化のためにそこばかり注目をしてないように見える」とも語る。

 では、なぜ決め台詞ドラマが目立っているように感じるのだろうか? これについては「インターネットの発達」がカギとなっているようだ。「昨今の視聴者は決め台詞のような印象的なフレーズを使ってSNS上で盛り上がる傾向があります。某キー局のプロデューサーに話を伺ったところ、以前はお茶の間やドラマ放送の翌日、学校や職場でドラマについて話し合っていたスタイルが、SNS上へと場所を変えたのではないかと話されていました。SNSで話題になると次にネットニュースで拡散される、拡散されると大きなムーブメントが生まれたように感じられ、決め台詞ドラマ人気が強く印象付けられるのでしょう」(衣輪氏)

 決め台詞ドラマの特徴でもある“印象的なワード”がSNSとうまくマッチし、盛り上がりにつながる……近年、人気決め台詞ドラマはシリーズ化される傾向にあり、視聴者のニーズが高いことが伺える。SNS人気が続く今こそ、制作には是非リスクを恐れず挑み、決め台詞のある、“ケレン味たっぷりの”ドラマを生み出す決断も必要なのかもしれない。

(文:西島享)

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