(更新:)
ORICON NEWS
“夜の2時間ドラマ”が終焉 エンタテインメントシーンにおける功績とは?
「断崖絶壁で犯人説得」などお約束のシチュエーションが誕生
やがて1981年には日本テレビで『火サス』が放送開始。ともに安定したフォーマットが人気を博し、「断崖絶壁での犯人説得」「温泉で殺人」「京都で殺人」などお約束のシチュエーションが次々と誕生した。そんななかで“『土ワイ』らしさ”として良くネタに挙がるのが、“午後10時頃に見られるおっぱい”のイメージで、これは『火サス』登場1年後の1982年から始まった古谷一行主演の『混浴露天風呂連続殺人』シリーズ(〜2007年)が“主犯格”なのだが、“事件+温泉+おっぱい”の“『土ワイ』フォーマット”は後年、『特命係長 只野仁』(テレ朝系)などでもパロディ化され、“テレ朝らしさ”としても定着していった。
「基本的にしっかりとした物語展開が魅力で観ていて安心、ドラマとしてもおもしろい作品が多かったのですが、80年代後半、トレンディドラマ隆盛とともに『古くさい』『同じネタの繰り返し』などのネガティブなイメージで低迷。この頃は、2時間ドラマに出演する俳優たちに“都落ち感”が漂うのを感じた視聴者も多かったと思います。しかし、サブカル界ではそのクセの強さで逆に注目を浴びることになったのです」と話すのはメディア研究家で多くのエンタメ記事を手掛ける衣輪晋一氏。
「サブカルがメイン化し始めた1995年頃、人気漫画家のとり・みきさんとゆうきまさみさんがミステリーギャグ漫画『土曜ワイド殺人事件』を制作。“2時間ドラマ”のお約束をことごとくギャグ化しており、知る人ぞ知る名作になっています。またテレビ界でもその後、サブカル色の強い脚本・演出家の宮藤官九郎さんが“2時間ドラマ”ファンを公言したり、前出の『只野仁』の“事件+温泉+おっぱい”などさまざまな作品でオマージュシーンが登場したりと、テレビ界でも一般的に。その最もエポックメイキング的なものは堤幸彦監督のヒットドラマの映画化『トリック 劇場版2』(2006年)でしょう。“2時間ドラマの女王”片平なぎさを敵役として起用しており、冒頭から『土ワイ』を匂わせる演出も。こうしたネタ的な盛り上がりもありながら、“2時間ドラマ”は再評価の機運を高めていったのです」(衣輪氏)
サブカル発の再評価でネタ的な楽しみ方が一般層にも広がった
また、サブカルでの再発見により、多くのパロディを生んだ『家政婦は見た』シリーズのようにネタ化がしやすくなっており、好きだったシリーズについて一般視聴者でも語りやすい環境が整っている。そもそも人気シリーズが多く、『土ワイ』だけでも、藤田まこと『京都殺人案内』、異色の怪奇ミステリー『京都妖怪地図』、ややエキセントリックな名取裕子が見られる『法医学教室の事件ファイル』、そのほか『タクシードライバーの推理日誌』『十津川警部シリーズ』『炎の警備隊長・五十嵐杜夫』と枚挙に暇がない。このタイトルを見るだけで語りたくてウズウズするドラマファンも多いのではないだろうか。
「こうした再評価の流れや、安定した視聴者やファンが見込めることもあり、連ドラ化された草なぎ剛主演『スペシャリスト』など、“2時間ドラマ”枠のキャスト陣はどんどん豪華になっていきました。“2時間ドラマ”は時代を創り、時代とともにあり、そして時代に翻弄された枠だったと言えるようにも思います」(同氏)
テレビで気軽に楽しめるサスペンスであり、2時間で完結するスッキリとした構造、昔ながらの泥臭いベタさ、これらのアプローチを変えずに続けてきたことで、サブカル層などから火がついて再評価を勝ち得た夜のレギュラー“2時間ドラマ”枠。連ドラの視聴率苦戦の一方で、“2時間ドラマ”の人気シリーズは安定した評価を得ていたかと思うが、ドラマ視聴者そのものの減少傾向、バラエティ番組の長時間化など、時代の流れには抗えず淘汰されてしまうのか。
一時代を築いてきたレギュラー枠の“夜の2時間ドラマ”がなくなることへの悲しみの声も思いのほか大きいように感じられる。これまでにも特番などでは、さまざまな“2時間スペシャルドラマ”が放送されるている。今後はそういったショットの扱いで、かつてのフォーマットの“夜の2時間ドラマ”が観られることもあるのだろうか。新たに新設される日曜ワイドにも期待しつつ、これまでの作品を改めて振り返ってみるのもいいかもしれない。
(文:西島享)