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中井貴一&吉田羊、見出した恩人と快進撃中のスターの初対談「ふたりで絆を深め合ってしまった撮影現場」

僕の俳優の価値観かな。芝居をしないときは価値のない人間(中井貴一)

 本作のメガホンを取った君塚良一監督は、“冬彦さん現象”を巻き起こした『ずっとあなたが好きだった』(1992年)や『踊る大捜査線』シリーズ(1997〜2012年)をはじめ、テレビ業界を知り尽くした脚本家。中井が主演した『携帯忠臣蔵』(2000年 ※『世にも奇妙な物語 映画の特別編』の一編)や橋田賞を受賞した『はだしのゲン』(2007年)の脚本も手がけた。近年は脚本のみならず自ら監督も務め、『誰も守ってくれない』(2009年)『遺体 明日への十日間』(2013年)などの映画を世に送り出してきた。
――夫婦のラストシーンもそうですが、劇中、澄田の前に2度も立ち塞がるバリケードは、何の象徴だと思いましたか?
中井貴一ものを重ねて人が来られないようにするバリケードって、なんてアナログなものなんだと思いましたね(笑)。それ越しに人と人とが話すというのは、そんな障害があっても、お互いに目と目を合わせて、言葉を交わして、同じ空間にいることの大切さ。結局、テレビってアナログで、人と人とを結びつけて対話させるものなんだということを、監督は言いたかったのではないかと思いました。人間同士って必ず障害があって、心にも壁があるけれども、それを越えて話していくことの大切さみたいなものを演じながら感じていました。最後の夫婦の壁なんていうのは、まさしくこういうものだろうと思います。仲のいいご夫婦もいるけど、やっぱり何か壁はあるじゃないですか? でもその奥でわかり合えたりしているという、人間らしいもののたとえがバリケードなのかなと。
吉田羊バリケードって、だれもが持っているもので、他人ごとじゃないなって思いました。そしてテレビの世界も、演出という名前で許された嘘のようなもので「みなさん、ここから先は入ってこないでね」というバリケードがあって。でもそこには、伝える側に心がなければいけないし、(視聴者を)楽しませようという思いがなくてはいけない。そういう約束ごとがあったうえで、対話しようとする、わかり合おうとすることが、ほどよい距離感のエンタテインメントを作っていくのかなっていう気もしたんです。そういうものの象徴にも見えました。人間同士で言えば、中井さんがおっしゃったように、お互いに選ぶ言葉次第、出方次第で、バリケードって高くも低くもなっていくことを象徴したラストだと思います。それは、この映画全体に流れるテーマなのかなって。
――声高にメッセージを主張せずとも、楽しく鑑賞したあと、バリケードやテレビの在り方についてなど、自ずといろいろなことを考えさせられる本作にもつながりますね。
中井貴一「広い野っ原で、自分たちで穴を掘って、いろいろなものを探してください」という映画だと思います。何も考えないで、エンタテインメントとして楽しむ人もいるだろうし、観る人の心によって、掘るものが違う。「エンタテインメントという敷地のなかで、それぞれが見つけたいものを見つけて、感じてみてください」って。決めつけないで、見る人が好きに掘れる本を書くというのが、君塚さんの脚本のうまさだし、君塚脚本のおもしろさではないかと思います。

――観客を楽しませたいとエンタテインメントにこだわる君塚監督の思いには、おふたりも共感されますか?
中井貴一それしかないよね?
吉田羊(強くうなづいて)はい。
中井貴一お客さんが楽しんでくれる、何かを感じてくれるというところに向かない限り、自分がいい気持ちになったって、何にもならないんですよ、俳優の仕事って。好き嫌いと一緒ですから。僕らが納豆だとすると……。
吉田羊ん!?
中井貴一どんなにおいしく納豆を作ったからって、嫌いな人は嫌いなんです。そういうことも考えながら、でも楽しんでもらう、でもおもしろかったねって言わせる何かを、僕らは考えていかなくてはいけないんじゃないかな。「役者なんて、自分の内面にだけ向いていたら価値がない」というのが、僕の俳優の価値観かな。芝居しないときなんて、なんの価値もない人間だと思っていますから。
吉田羊演じてなければ、タダの人!
中井貴一本当に価値がないっ!!
吉田羊本当にそう!!!
中井貴一世の中の何の役にも立ちゃしないと思うけど、カチンコが鳴ってから終わるまでの間だけが、自分の生きている瞬間なのかもしれない。そこにも価値がないって思われてしまったらつらいけど(苦笑)。

もっと中井さんとやりたい。口に出せば実現するかな(笑)(吉田羊)

 対談中、随所に見られた丁々発止のやりとりが小気味良い。8年前の出会いは必然だったのでは? と思うほど、ぴたりと息の合ったふたり。

――満を持しての、本作での貴重な共演を経て、改めて芝居やお互いの魅力について、どんなことを感じましたか?
吉田羊バリケード越しに話すラストシーンで、私の出方とか、セリフのトーンとかを受ける中井さんのお芝居に、久しぶりにお芝居って楽しいなと心から思わせていただきました。お芝居っていうのは、リアクションであって、会話であって、呼応なんだなっていうことを実感しました。ひとりではお芝居ってできないんだなと。やっぱり昔から知ってくださっている中井さんだからこそ、少しのシーンでも夫婦間の信頼というか、このふたりだから出せたのかなという気はしています。
中井貴一ふたりでバリケードを下ろしていくことによって、夫婦として(の関係が)戻っていくっていうのは、羊ちゃんとだからできたんだって僕も思いました。
吉田羊私の気持ちが高まれば、中井さんの気持ちも高まるし、お芝居が呼応し合っているということを実感できるシーンでした。私の気持ちが高まり過ぎて、中井さんが呼応し過ぎて、監督からダメ出しが入るっていうこともありましたけど(苦笑)。「そんなセンチメンタルなシーンじゃないから!」って。たしかにつながったもの(完成作)を観ると、カラッとスカッと笑って終わる、みたいな最後に向かっていくので、現場でふたりで夫婦の絆を深め合ってしまったなって(笑)。それくらい、何も言わなくても、通じ合える中井さんだからこそ、成立したお芝居だったなと思います。でも、もっとがっつりやりたいと思いました。できれば穏やかに関係を構築していくような夫婦役を……。って口に出しておけば、いつかは実現するんじゃないかなって(笑)。
中井貴一必ず実現しようね。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:逢坂 聡)

グッドモーニングショー

 澄田真吾は、朝のワイドショー『グッドモーニングショー』のメインキャスター。かつて報道番組のエースキャスターだったが、ある災害現場からのリポートが世間から非難を浴びて番組を降板。以来、現場からのリポートが怖くてできなくなり、同期入社のプロデューサー石山聡に拾われて今に至っている。
 ある日、いつものように深夜3時に起床した澄田は、息子と妻の言い争いに巻き込まれる。面倒くさいことから逃げるようにテレビ局に向かう車内で今度は、サブキャスターの小川圭子から連絡があり、ふたりの交際を今日の生放送で発表しようと迫られる。
 そんなとき、都内のカフェに爆弾と銃を持った男が人質を取って立てこもっているという速報が飛び込む。芸能ゴシップや政治家の汚職事件、行列スイーツ特集を押しのけ、立てこもり事件をトップのネタとして番組はスタートするが、その直後、警察からとんでもない知らせが入る――。

脚本・監督:君塚良一
出演:中井貴一
長澤まさみ 志田未来
池内博之 林 遣都 梶原 善 木南晴夏 大東駿介
濱田 岳 吉田 羊 松重 豊 時任三郎
2016年10月8日(土)全国東宝系にてロードショー
(C)2016 フジテレビジョン 東宝
【公式サイト】(外部サイト)

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