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吉田羊インタビュー『愛に対する理解が深まった?』

涼やかな美貌を活かした役どころから、バラエティ番組の進行、トーク番組の語りまで、多彩に活躍中の女優・吉田羊。淀むことなく、新しい水を湧き出し続ける川のようにキラキラと輝く彼女が、映画『ビリギャル』でまた新境地を拓いた。「ビリギャル」と呼ばれたヒロイン・さやかを「ダメ親」と呼ばれながらも支え続ける母親・ああちゃんに、彼女が込めた“愛”を聞いた。

この役が私に来たのは運命だ!

――まずは、本作のオファーを受けたときのお気持ちから教えてください。
吉田小さいころからずっと、人を愛することや信じることの難しさを痛感してきました。実践できていない自覚があるからこそ、人に優しくありたいという思いで、いつも生きているというのか(笑)。今回のああちゃんは、それを見事に体現した、愛のかたまりみたいな人です。“この役が私に来たのは運命だ!”と、まず思いましたね。ああちゃんを演じることで、愛について、私が常々疑問に思っていることや、できないと思ってきたことへのヒントをもらえるかも知れないって。

――役へのアプローチはどのように?
吉田最初の顔合わせのとき、土井裕泰監督から、私のパブリック・イメージとして“できる女”感が強いので(苦笑)、自分が思うより何割か増しで柔らかく作ってほしいと言われました。そうすることで、クライマックスのシーンも活きるだろうと。私自身も台本を読んだだけでは、ああちゃんがさやかの学校に乗り込んでいくシーンがいまいちイメージできなかったんですよね。吉田羊ならば、早口でたたみかけるように先生に詰め寄る、見たまんまの“モンスター・ペアレント”なんだろうけど、ああちゃんは違う気がする。そういうこともあって、撮影前、ご本人に会いに名古屋へ行きました。
――お会いしてみて、どんなことを感じましたか?
吉田ピュアでまっすぐで、話していて“この人に嘘はつけないな”と思ってしまう、不思議な魅力を持った方でした。いつも涙目で、ややもすれば泣き出しそうな感じなんだけれど、発する言葉は強いんです。物腰も口調も柔らかいんだけど、芯の強さを感じました。読書家ということもあって、一つひとつの言葉を大切にされた、ゆっくりと丁寧な話し方も印象的でしたね。今回は実在の方なので、できるだけご本人に寄せた役作りを考えていましたが、まずは喋り方から似せていこうと。ゆっくり喋ることで“あなたは、ああちゃんなのよ”と体にわからせていく(笑)。普段聴いている音楽を教えてもらって、撮影中はなるべくそれを聴くようにしていましたね。アドリブで口癖も入れさせてもらったりして、何とかご本人の片鱗を見せたいと思いました。

体温を相手に伝えることで 伝えたかった気持ち

――母親との確執という過去のエピソードについては、どう捉えましたか?
吉田ああちゃん自身の背景に関しては、原作や関連書籍を読ませていただき、そこからイメージを膨らませていきました。お母さんから「おまえはダメだ」と言われ、自分はダメ人間だと思い続けてきたとああちゃんはおっしゃっています。でも、やっぱりお母さんに愛されたかったのだろうし、そういうお母さんだったからこそ、さやかをはじめ自分の子どもたちにはワクワクすることだけをさせてあげたい、自主性を尊重してあげたいと考えて、そういうふうに生きてこられたのだと思います。そういう意味ではああちゃんは、自分の境遇を恨むのではなく、必要なことと受け止め、お母さんに対して感謝しているのではないか。そう解釈して、私は演じました。
――どんなときも、さやかを信じ抜くああちゃんと、そんな母親の愛に支えられて偉業を成し遂げるさやか。母娘の強い絆を表現するために、どんなことを大切にして撮影に臨まれましたか?
吉田家族ものって、家族の温度が絶対ににじむと思うんですよね。さやかちゃんとは、友だちのような、目線の近いふたりだったので、そこはにじませたかった。まずは、家族ならではの遠慮のなさを表現したいと思い、撮影現場で(さやか役の有村)架純ちゃんが、例えばケータイをいじっていたら「何やってんの?」ってちょっかいを出してみたり、一緒に写真を撮ってみたり(笑)。台本を覚えたり、集中したいときもあったと思うんですけど、あえて無遠慮に接することで、彼女にも遠慮しないでほしくて。全然必要じゃないところでも、なるべくペタペタと触って、スキンシップを図っていましたね。

 自分の体温を相手に伝えることで“私はあなたの味方だよ、あなたのこと大好きだよ、愛してるよ”と伝えたかった。やっぱり好きじゃないと、触りたくならないじゃないですか(笑)。撮影の終盤、クライマックスのシーンで、テンションMAXになったああちゃんを見て、こらえ切れなくなったさやかが、台本とは違う動きで、私を抱きしめてくれたことはすごくうれしかったです。本番ではさやかの妹役の(奥田)こころちゃんも駆け寄って来てくれて。“娘たちよ!”って気持ちでした。ちゃんと家族としてお芝居ができたことを強く感じましたね。寒さを感じないくらい、あったかいシーンでした。

――愛娘・さやかを演じた有村架純さんの印象は?
吉田最終的には、何の役作りも要らないくらい、架純ちゃんが本当にいい子だったので、全てのセリフが素直に言えたと思っています。ちょっかい出したりすることも、架純ちゃんが許してくれたから、関係を詰めることができました(笑)。撮影2日目に、福沢諭吉像の前で、ああちゃんがさやかに「記念写真を撮ろうよ」と声をかけるシーンがありました。私の呼びかけで振り返った架純ちゃんを見たとき“この子に本当に慶應(大学)に入ってほしい”と心から思えたんです。今回、ああちゃんという役をどれだけリアリティをもって演じられるかが私のテーマでしたが“あ、私ああちゃんをできるかもしれない。彼女を娘として、ちゃんと愛せるかもしれない”と思った瞬間でした。

本能的に体が知っている 女性独特の感覚

―― 一見弱々しいが根性のある、ああちゃんのナイーブな演技には、例えば『HERO』(フジテレビ系)で演じた馬場検事とは違った、新鮮な魅力を感じました。演じ手としては、母親という役どころのおもしろさをどう捉えていますか?
吉田“この子のためなら、死んでもいい”と思えることは、自分が女性として生まれてきたからなんだろうと思うんですね。私には妊娠も、出産や子育ての経験もありませんが、それにも関わらず、そういう役が来ると、何となく子宮がうずくんです。命を育むという女性独特の感覚を、本能的に体が知っているんだなと思いました。やっぱり母親って、女性にしかできない唯一の役だと思うので、そこが母親役の醍醐味かなって。
――本作に参加したことで、最初にお話しくださった愛への疑問は解決しましたか?
吉田今回、ああちゃんの役をやって気づいたことは、女性はとくに、愛されないと幸せになれないなんて言われますけど、いや、愛している方が幸せだなって(笑)。こんなに愛おしい人がいる、それだけで幸せなんだなって。その人が笑ってくれる、生きていてくれる、それだけで私は幸せだって、ああちゃんをやっていて思えたんですね。それが愛に対する理解が深まったのかどうかはわからないですけど、愛に対してこれまで自分が思っていたこととは違う、ひとつの新しい考え方をくれた感じですね。

――『愛を積むひと』(6月20日公開)では、本作とはまた違った、エモーショナルな母親の愛を体現されていますが、男と女の愛の謎に迫る、しっぽりとした大人の女性も、今後ぜひ演じていただきたいところです!
吉田今回のああちゃんも、絶対やりたいと思いながらも、実は難しそうだなと思っていました。でも、難しい役ほど挑戦していかないと成長していかないので、そういう役にこそ、チャレンジしていきたい気持ちはあります。私に恋愛ものをやらせてくれる奇特な方がいらっしゃれば、ぜひがんばりたいと思います(笑)。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:鈴木一なり)

ビリギャル

 名古屋の女子高に通うさやかは、勉強は一切せず毎日朝まで友だちと遊びほうける日々。このままでは大学への内部進学すら危ういと心配した母・ああちゃんは、さやかを塾へ通わせようとし、そこで教師の坪田と運命の出会いを果たす。
 坪田は、金髪パーマ、厚化粧に耳にはピアス、極端に短いミニスカートにへそ出しというギャル全開のさやかに面食らうが、見た目はハデでも素直な性格だと気付く。そんなふたりはすぐに打ち解け、慶應大学への受験合格を約束することに!
 はじめはノリで慶應大学合格という目標を掲げたさやかは、当然、絶望的な高い壁に何度もぶち当たる。しかし、仲間たちの友情に支えられ、本気で勉強に取り組むようになっていった。果たして、偏差値30のギャル・さやかは偏差値70の慶應大学にいかにして現役合格を果たせたのか!?

監督:土井裕泰
出演:有村架純 伊藤淳史
   野村周平 安田顕/吉田羊/田中哲司
5月1日(金)公開
【公式サイト】(外部サイト)
(C)2015映画「ビリギャル」製作委員会

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