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松田龍平インタビュー『関係性が父と息子から男同士になっていく』

例えば一冊の辞書づくりに15年の歳月をかける編集者の情熱、例えば友人の便利屋を手伝う男の狂気……。その人物の内に秘める想いを、静かに、しかし強烈に表現してしまう不思議な俳優・松田龍平。役を人間くさく、魅力的にする松田に、最新主演映画『モヒカン故郷に帰る』で演じた父と息子の関係を聞くと、自身の父子の関係性についても思いを馳せながら語ってくれた。

いい意味で全部すっ飛んでいった

――まずは、沖田修一監督のオリジナル脚本を読んだ感想から教えてください。
松田父親の死に向き合っていく家族の話なんですけど、親の死という誰もが経験することを、沖田さんは、何でもない日常のなかに転がっている、素敵なこととしてうまく拾い上げています。おもしろい脚本だなって思いました。家族それぞれのキャラクターもユニークですよね。(両親が)広島カープを応援している母親の春子(もたいまさこ)と、息子に永吉って名前をつけるくらい、矢沢永吉さんを愛する父親の治(柄本明)って、なんかいろいろと想像してしまうなあって(笑)。脚本に書かれていないところについても、考える余地があるんです。

――松田さんが演じた主人公の永吉も、トレードマークの緑のモヒカン頭をはじめ、デスメタルバンド・断末魔のボーカル担当など、想像力をかき立てるポイントの多い役どころでした。どのように役作りをされたのですか?
松田現場に入るまで、いろいろな想像をしたんですけど、なかなかそれが具現化するには至らないというのか。今回はわりと順撮りで撮影が進んでいって(冒頭の)ライブのシーンから撮影が始まりました。それがありがたかったです。
 お客さんとして来てくれたエキストラの人たちが、本当にそういうカルチャーとか音楽の好きそうな、気合いの入った人たちで。「俺、3日前くらいにモヒカンにしたんすよ」ってレベルではない、カッコいい人たちがたくさん来てくれて、「えっ、俺まだ1回しか歌ったことないんですけど?」って(笑)。そんなプレッシャーがかえって、永吉を演じなくてはとか、永吉を演じるなかでライブをしなくてはとか、そういうことではなくて単純に“俺もライブを楽しみたいな”って思わせてくれたんです。そういう始まり方でした。撮影前にいろいろと想像しても、結局撮影してみてわかることがほとんどなので、(撮影初日に)役について考えてきたことが、いい意味で全部すっ飛んでいったのは、すごくありがたかったです。

――ファーストシーンがライブのシーンとは、粋な演出ですね! 今回初めてタッグを組んだ、沖田監督の演出はいかがでしたか?
松田あまり細かく芝居をつける感じではないのですが、かといって自由にやってくださいってことでもない。だからこそ、沖田さんがいいなって思っていることは何だろう? って、すごく感じようと思っていました。それが楽しかったですね。とにかく「もう1回いいっすか?」って何回か撮るんですけど、(現場の)居心地がよかったから、何回でもやりたいって思っていましたね。

素のリアクションはおもしろかった

――とくに印象に残っているシーンは?
松田 中学校の音楽室で指揮をするところは楽しかったですね。野呂くんと清水さん以外の吹奏楽部員はみんな役者ではなく、撮影した島の中学生たちだったんですけど、指揮の途中で永吉がリズムを変えるとか、そういうことを全く知らせずに、ぶっつけ本番で彼女たちのリアクションを撮りたいという監督の狙いがあったから、秘密裏に作戦を立てて。あのシーンの撮影までは、ほとんど彼女たちと会っていなかったので、モヒカンのツンツンした人がいきなり(音楽室に)来て、テキトーに指揮し始めたときの、素のリアクションはおもしろかったですね(笑)。

――柄本明さんふんする、父親とのシーンはいかがでしたか?
松田(妊娠した恋人の由佳(前田敦子)を連れて帰郷した永吉が、家族と)7年ぶりに再会するシーンで、いきなり殴られるところは緊張しました。柄本さんとの撮影1日目だったので、いい緊張感もあって。でももう30(歳)も過ぎると“父親って、こんなに小さかったっけ?”って、そういうことに気づいて、関係性が父と息子じゃなく、少し男同士になっていくみたいな感じがありますよね。そんなちょっと拍子抜けした感じもありました。

――老いていく父とそれを見守る息子の間には、たしかに男同士の優しさや切なさを帯びていった印象を受けました。ところで拍子抜けといえば、永吉がお父さんに大芝居を打つ直前、暗がりのなかでひとり、何を飲んでいたんですか?
松田お茶です。お茶を飲んで、ちょっとひと息ついてから“よし、いくか!”みたいな感じです(笑)。

――お酒ではなく、お茶というところにもまた、永吉の可愛げが漂いますね。改めて、あたたかみの感じるカットだなあと。
松田実はあの(芝居を打った)あと、父親のまさかのリアクションに驚いて、外に逃げ出した永吉が寒さでガタガタ震えているっていうシーンも撮ったんです。そのシーンはカットされていたので、目では見えないけど(完成作を観ると)うまいこと編集されていて、その余韻みたいなものは残っているなと思いました。

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