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『進撃の巨人』から2016年新作『ゴジラ』へ 樋口真嗣監督への高まる期待

今夏をもっともアツくシーンを盛り上げた夏休み映画といえば、『進撃の巨人』だろう。前篇公開時の炎上騒動こそ落ち着いたが、公開半月経ってもなお冷めやらぬ賛否両論の応酬が続く様子からは、なんだかんだ作品に関心を持った多くの人たちが劇場に足を運んでいることがうかがえる。前篇の興行収入はすでに30億円を超えており、ネガティブな話題性だけではそこまでのヒットにはならないはずだ。

日本を代表するビジュアルクリエイター

 同作の映像のクオリティに関しては、実際に作品を観た人たちの称賛の声が大きくなった印象を受ける。作品の肝となる巨人の特撮部分は、ミニチュアワークや操演などの特撮技術を駆使して、フルCGでは表現しきれない生々しい恐怖を描き出している。『ゴジラ』シリーズなどで培われた日本の特撮技術と、90年代以降急速に発展する最新のデジタル技術、それぞれの利点を活かした見事な融合技は、樋口真嗣監督の本領発揮と言えるだろう。公開直前の炎上騒動の印象が強いかもしれないが、日本を代表するビジュアルクリエイターとして、海外からも高い評価を受ける実力者なのだ。

 『ガメラ』と同い年の、今年で50歳になる樋口監督。“特撮の神様”こと円谷英二氏や、『機動戦士ガンダム』シリーズの富野由悠季氏らの手がける作品に、大いに影響を受けた少年時代を経て、高校卒業後、東宝撮影所にアルバイトで入所。特殊造形助手として参加した『ゴジラ』(1984年)の現場から、そのキャリアをスタートさせた。

 以来、特技監督として脚光を浴びた平成『ガメラ』シリーズをはじめ、アニメ、実写を問わず、数々の現場で、絵コンテ、特撮、視覚効果デザインなどを担い、実績を重ねてきた。VFX技術を駆使した潜水艦の描写が評判を呼び、大ヒットを記録した『ローレライ』(2005年)で長編監督デビューを果たしてからは、『日本沈没』(2006年)など、スケールの大きなプロジェクトに次々と挑戦し続けている。

2016年新作ゴジラ、樋口流“日本の伝統特撮”への期待

 半世紀を越える、世界中の熱狂的なゴジラファンが待望する2016年の新作『ゴジラ』では、監督と特技監督を兼任。樋口監督の腕に大きな期待がかかっている。『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)以来、12年ぶりの復活となる国産ゴジラには、2014年に公開されたハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』とはひと味違った、日本らしい内容に注目が集まる。何と言ってもいちばん気になるのは、怪獣王・ゴジラをどう表現するか? だ。『進撃の巨人』同様、CGだけに頼らず、日本の特撮の伝統を活かし、着ぐるみを使った特撮主体のゴジラで、巨大感と威厳、そして躍動感あふれる究極のゴジラで往年のファンを魅了してほしいものだ。また、ゴジラと戦う怪獣についても、どんな相手が登場するのか? パワフルな敵役との巨大なアクションシーンなど、興味は尽きない。

 樋口監督とともに、新作『ゴジラ』の脚本と総監督を担当するのは、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズなどを手がけてきた庵野秀明監督。気心の知れたふたりの間柄が、作品により良い刺激を与えてくれるのではないかという期待にもつながっている。これまでにも幾度となく制作をともにしてきたが、2012年に庵野監督が館長を務めた館長庵野秀明特撮博物館で公開され、樋口監督が監督を、庵野監督が脚本を務めた短編映画『巨神兵東京に現わる』は、CGを一切使わないという条件にも関わらず、大迫力の映像で日本の特撮技術の底力を見せつけた。アニメにも特撮にも造詣の深いふたりがタッグを組む新作『ゴジラ』には、さらなる発展の可能性が秘められていると言っても過言ではないだろう。

 新作『ゴジラ』のテーマについても、期待が募る。ご存知の通り、ゴジラは水爆実験の影響で生まれた怪獣である。記念すべきシリーズ第1作『ゴジラ』が公開された1954年は、第五福竜丸事件が起こり、国内で原水爆禁止運動が急速な高まりを見せ始めた時期でもあった。作中の避難所の描写やセリフなどからは、まだ傷跡の癒えぬ戦争の恐怖も色濃く表現されていた。ゴジラが国会議事堂を破壊する場面では、1953年に「バカヤロー解散」した吉田茂内閣への不信感の根深い観客から、拍手喝采が起きたという。深刻化していた公害問題を真っ向から描いた『ゴジラ対へドラ』(1971年)や、バイオテクノロジーの悲劇をテーマにした、平成ゴジラの第1作目となった『ゴジラVSビオランテ』(1989年)など、社会への警鐘を鳴らしてきた骨太なシリーズである。

ゴジラに脈々と受け継げれる、時代を反映する社会派テーマ

 東日本大震災を経て、今年は敗戦から70年を迎え、さらに2020年には東京オリンピックを招致する、いまという時代に肉薄しつつも、観客の想像力をかき立てる壮大なストーリーが楽しみでならない。庵野監督の豊かな発想力から生まれる新たな物語で、ゴジラは一体、何を壊すのだろうか? 「あべのハルカス」や「東京スカイツリー」は狙い目だろうが、シビアな問題を抱える国立競技場跡地や、沖縄、鹿児島など時代の世相を反映した場所にも踏み込んで、鋭い爪あとを残してもらいたいものだ。

 また、童心を大切にする両監督だからこそ、作中に登場する子どもたちが繰り広げるドラマ部分も楽しみなところだ。ゴジラの勇気を受け継いだ『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』(1969年)の鍵っ子の三木一郎少年や、『VSシリーズ』を通して成長していった超能力少女・三枝未希たちが、チビッコファンの胸を熱くしたように、現代の子どもたちの共感を呼ぶ、みずみずしいキャラクターとゴジラが対峙したとき、どんなドラマが育まれるのだろうか? 宝田明、土屋嘉男、前田美波里をはじめとする、ゴジラシリーズに欠かせない、名優たちの再登場にも注目したい。

 日本らしいゴジラ映画という点では、初めてゴジラと出合うことになる、現代の子どもたちを喜ばせる、娯楽映画としての趣向も凝らしてほしいものだ。ユニークなゲスト出演もポイントだが、主演のゴジラにも一肌脱いでもらいたい。『怪獣大戦争』(1965年)で『おそ松くん』(赤塚不二夫原作)の人気キャラ・イヤミのギャグを真似て「シェー!」と飛び上がったり、『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966年)では、加山雄三がふんした若大将よろしく、鼻をかくサービスシーンで子どももお母さんをも大喜びさせたゴジラは、まさに怪獣界のスーパースターだ。

 ゴジラがいきなり「安心してください、はいてますよ」と、とにかく明るい安村のポーズを取ったりなどしたら、チビッコファンの急増必至ではないか!? 昨年のハリウッド版は、日本でも興行的に健闘していた。そんななか、樋口監督と庵野監督が創り出す、進化したゴジラ像、日本が世界に誇るゴジラの真価に期待が高まる。

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