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松坂桃李インタビュー『あの瞬間、あの場所だから生み出すことができた』
<<動画インタビュー>> 優しい父へ抱いていた思いとは…
素の気持ちをぶつけていた部分も(笑)
松坂 撮影が始まる約1年くらい前から、ヴァイオリンの練習をする機会をいただきました。ヴァイオリンを目にするたび、触れるたび、音を奏でるたびに『マエストロ!』について、また香坂のことを考える時間がたくさんありました。そのなかで、彼の持つ音楽性、例えばヴァイオリンに求める高いハードルのようなものが、僕自身が練習中に感じた歯がゆさと通ずるところもあって。そういう意味では、撮影までの時間が何よりの役作りになったというのか、無理して役を作ることなく、すんなりと現場に入っていけました。
――個性的な音楽家たちが集まる名門交響楽団で、楽団のコンサートマスターに抜擢される真一。前半の、若き音楽家らしい、ナイーブな表情が新鮮でした。
松坂 楽団員役のみなさんが、個性豊かな先輩方ばかりで、正直「こんな人たち、まとめられないよ!」って思っていたんです。みなさん、したたかだし(笑)。香坂というフィルターを通して、そんな素の気持ちをぶつけていた部分があったのかも(苦笑)。ただ脚本を読んだとき、もちろん音楽がメインになっているけれども、クラシック音楽についてほとんど知らなかった僕が読んでも、どこか親しみの湧くような、とても身近な距離感を(登場人物たちに)感じたんです。脚本から受けた感触や監督の言葉を身体に入れて、香坂真一という人物像を作り上げていきました。
――練習を重ね、少しずつ楽団員たちが心を通わせていくなか、圧巻はやはり西田敏行さん扮する謎の指揮者・天道徹三郎のもと、松坂さんをはじめオーケストラ・メンバーが挑む、クライマックスのコンサートシーンですね。
松坂 製作側の配慮で、コンサートシーンの撮影を終盤に設定してくださったんです。撮影中も、コンサートシーンに向けて、待ち時間があれば、セット脇でそれぞれ一生懸命に練習していました。(コンサートの)本番当日はみなさん、役者というよりは一音楽家として、天道率いるオーケストラチームとして、現場に入ることができたんじゃないかと思います。バラバラだった楽団員たちが、コンサート会場でついにひとつになれた……ある種、ドキュメンタリーに近い感覚で撮影に臨みました。演奏後の拍手も、実際に僕らの演奏を客席で聴いたお客さんが、銘々の感覚でリアクションしてくださったもの。その辺はあえて小林(聖太郎)監督も演出をされていなかったと思います。あのグルーヴ感は、まさにライブならではでしたね。
――たくさんのカメラが捉えた、ダイナミックなコンサートシーンの映像は、映画館をコンサート会場と見紛うほどの興奮と感動がありましたね!
松坂 監督がこだわり抜かれたシーンなんです。現場に入る半年以上も前、まだキャストが半分くらいしか決まっていない段階で、コンサートシーンだけはすでに画コンテが出来上がっていたんです。客席からラジコンヘリのカメラが飛び、クレーンあり、レールありと、これまでの音楽映画にはないカメラワークに、今までにない音楽映画を撮りたいという監督の情熱を感じました。僕たち演者からすると、ごまかしのきかないカット割でしたが(笑)、各々が監督の掲げる高いハードルを乗り越えて、なんとか監督の撮りたい画が撮れたのではないかなと思っています。
音楽を通して教えてもらったこと
松坂 どう表現したらいいんだろう。……必死で戦っているような心境でした。命がけというか、本当に必死だったので。天道さんが汗水流して振る指揮棒から放たれる、言葉にならないメッセージ。天道さんからぶつけられる強い気持ちに、屈してはならぬ! 演奏で応えねばならない!! と一生懸命でした。僕だけじゃなく、メンバー一人ひとりがその一心で演奏していたと思うし、そんな楽団員たちの眼差しを一身に浴びながら、天道さんも懸命に指揮棒を振り続けていました。非常に激しい音楽と指揮とのぶつかり合いでしたが、どこか美しさも感じて。……あの瞬間、あの場所で、あの人たちだけが生み出すことのできた、まさに一瞬の音楽。“天籟”の境地を少し味わえたように思います。
――音楽の豊かな表現と向き合ったことで、役者という表現のおもしろさに改めて気づいたことは?
松坂 改めて自分ひとりでは作れないものだと、音楽を通して教えてもらいました。初めて手にする楽器に触るところから始まったこの作品で、今まで培ってきた技術とは全く違うところから練習を積み、難易度の高い監督の要求に立ち向かっていくなかで、スタッフ、キャストそれぞれがお互いを必要として、ひとつの作品を作っていく大切さに気づきました。みんなの気持ちを作品がよせてくれたような、団結感の楽しさを学ばせてもらいました。
――黒田長政を演じた昨年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』に続き、本作でも偉大な父の影を追う役どころでした。父の背中については、どのような思いがありますか?
松坂 僕の場合は、親父との会話があまりないんですよね。そんななかでも、子どもの頃に父から言われた「挨拶を大事にしろ」とか「謙虚に人の世話になれ」という言葉の意味が、最近ようやくわかり始めて。時間差があってわかり合える瞬間みたいなものが、父と息子には意外とあったりするんだなって感じています。そういう意味で、父と息子の関係を描く作品への興味は強いのかもしれませんね。改めてもっとそういう作品に出たいなという思いもあります。俳優の仕事をする上で、父にはとても迷惑をかけましたし、今でもそういう面はあると思います。そのぶんも含めて返したいというのか、父に「おまえ、すごいな!」と言われたい思いもあって、この仕事をやっているところもあります。
――こんなにご活躍なのに、まだほめられたことはないんですか?
松坂 うちの父は優しいので(笑)。ほめてもらうこともありますが、本当の意味で「おまえ、すごいな!」っていう言葉はまだもらえていないと思うんです。これからも父や母に「やるな!」と言われるような作品に挑戦したいと思っています。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:鈴木一なり)
マエストロ!
監督:小林聖太郎
出演:松坂桃李 miwa 西田敏行 古館寛治 大石吾朗
2015年1月31日全国公開
(C)2015「マエストロ!」製作委員会 (C)さそうあきら/双葉社
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