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ORICON NEWS
自転車で冒険に出よう。キャンプツーリング紀行 inアラスカ【Part4 夏の終わり編】
原野の中を一本の細い線となってまっすぐ延びる道を行く。
野生動物の存在を身近に感じるヒリヒリとした緊張感の中で、与えられた自由と開放感。
時速20km。夏のアラスカを自転車で旅する。
【Part1.出発編】はこちら
【Part2.パークス・ハイウェイ北上編】はこちら
【Part3.デナリの荒野へ編】はこちら
Route
和田義弥(わだ・よしひろ)
旅やアウトドアなどのジャンルを中心に記事を執筆するフリーライター。これまで自転車でアラスカやフィリピンを、オートバイで世界一周をキャンプツーリングした経験を持つ。現在は茨城県筑波山麓の古民家で田舎暮らしを実践中。著書に『キャンプの基本がすべてわかる本』(エイ出版社)などがある。
「分かるよ。私もこれまでいろいろな国や地域を旅した。もっぱらオートバイだけどね。イタリアも行ったし、パタゴニアにも行ったが、賑やかな街よりはアラスカのような荒野がいいね。特に一人旅にはこの寂寥感が味わい深い。今回は、いままでと違う旅がしたくて、初めて自転車でやってるんだが、悪くない。天気にはまいっているけど、気力は充実しているよ」
ロメオとフィリオは旅の自由と開放感を知っている。これはきっと体験した人じゃないと分からない。だから、また旅に出るのだ。
ロメオは言った。
「猥雑な都会に戻ると、この広い空が恋しくてたまらなくなるんだ」
02 パンクをしたらすぐ修理
連日の冷たい雨。灰色の雲が空を覆い、ミルクを水に溶かしたように視界が白く濁る。気温4℃。首や袖口などジャケットの隙間から雨が染みてきて、体が凍るようだ。手がかじかみ、つま先が寒さで痛くなる。雨の中を走るのは体力的にはもちろん、心理的にもキツイ。
こんなときは車を運転している人にとっても視界が悪い。フラフラ走っていると事故にあいかねないので、集中力を切らさないように大きな声で歌を歌いながら走った。
自転車を止めてゆっくり休むような場所もなく、高カロリーのチョコレートバーをかじりながら85kmを走り続け、ようやく小さなバーがある集落に到着した。
もう、走る気にはなれない。
バーの女性オーナーに庭にテントを張っていいか尋ねると、「かまわないわよ」と快く言ってくれたので、この日はここで一泊。店の中は薪ストーブが焚かれていて、とても温かかった。
夕食にバーでビッグサイズのハンバーガーとフレンチフライを注文し、ビールを3本飲む。バーのオーナーはドイツ出身。アラスカに来て10年になるという。
「なんでアラスカに来たかって? 理由なんてないわ。ただ、この土地が好きなのよ。あなたも雨の中をなぜ自転車で旅しているの? 何が楽しいの? なんて聞かれても困るでしょ」
そうなのだ。好きなこと、やりたいことに理由をつけようとすると野暮ったくなる。ただ、目的地があることで走り続けられる。もしかしたら、その間、楽しさなどはないかもしれない。しかし、あとになって思い返すと体に染みて残っているのは、美しい景色などよりも、厳しく精悍な旅の情景であることが多く、それは案外、充実した日々だったのではないかと思えるのだ。
フェアバンクスから4日かけて約420km南下すると、4号線は東西に延びる1号線に交わる。西へ行けばアンカレッジだ。
ここまで自転車に大きなトラブルはなかったが、パンクは何度かした。
それに気づいたら自転車を降りて、安全な場所に移動し、すぐ修理だ。
パンク修理は慣れれば10分ほどで済む。まず、荷物を降ろして、自転車を倒し、ホイールを外す。ホイールはクイックリリースという機構で、簡単に取り外しできるようになっている。
次にタイヤからチューブを引っ張り出し、タイヤの内側をチェックしてパンクの原因になった異物を取り除く。これをしないとまたチューブに穴があく。
そしたら、予備の新しいチューブを入れて、タイヤをホイールにはめれば終了だ。穴のあいたチューブは、修理用のパッチ張って直すが、それはあとでゆっくりやればいい。