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ダニー・ボイル監督が語る『スラムドッグ$ミリオネア』



 今年2月に発表された米アカデミー賞で8部門を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』。監督は1996年に『トレインスポッティング』を撮った、あのダニー・ボイル。『トレイン―』が日本で公開された当時、都市部のミニシアターで超ロングラン上映され、単館系では『ニューシネマ・パラダイス』についで歴代2位の興行収益をあげた“奇跡”が今、『スラムドッグ―』で再び、それも世界中で巻き起こっている。この現状をボイル監督自身はどう思っているのだろうか――。


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◆“夢は叶う”という希望に響くものにしたかった


ボイル監督:日本の皆さん、こんにちは!私は『スラムドッグ$ミリオネア』の監督、ダニー・ボイルです。


――アカデミー賞8部門受賞おめでとうございます。感想を聞かせてください。

ボイル監督:受賞した瞬間を今でも思い起します。たったの1400万ドルの予算でつくり、大スターも出ていないこの作品が、成功を収められたんですからね。あらためて、感激してしまいます。全世界の映画祭で多くの賞を獲得し、興行的にも成功したのは、この映画のストーリーにこそ理由があるんです。

 主人公が一人の小さな少年で、自分の夢のために、絶え間なく努力をして、最後に大金を勝ちとる。でも、お金よりもっと大切なのは、彼が愛する人を勝ち取ったこと。これは我々が住むこの世界のどこかで起こっている話だし、国や宗教に関わらず、みんなが共感する話だと思うんですよ。


――それが、世界的な不況の時代に夢と希望を与えたということですね。

ボイル監督:世界的大不況の厳しい局面の中、人々がその長い旅の後に希望を求めていたり、オバマ大統領誕生に象徴される変化を望んでいたり、既存の枠組みの外にいる者にもオープンになっていったりする傾向も影響していると思います。

 映画のタイトルにある『スラムドッグ(英語でいうとアンダードッグ)』、つまり勝ちそうもない弱者が夢と強い決意を持ってすべてを乗り越えていき、逆境から学んだことが答えに結びついていくというのも人々を惹きつけているのだと思います。


――今作では、リアリズムとファンタジーの部分とどちらを描きたいと思いましたか?

ボイル監督:まず前半はできる限りリアルを心がけたいと思いました。ムンバイのスラムの世界などは人も含めてよりリアリズムを徹底したくて、実際のスラムで撮影をしました。後半部分はおとぎ話のようなものを生みたかった。それは我々が持っている“夢は叶う”という希望に響くものにしかったからです。そして、最後まで待っていただくとボリウッド(インド・ムンバイの映画産業の俗称)を象徴するような歌と踊りの素晴らしいミュージカルの部分が生まれるというわけです。。


◆ムンバイの生命力を捉えるために全力を尽くした



――数々の受賞を含め、今これほど世界中で注目されていることに関してどう思いますか?

ボイル監督:画を製作したものとしては賞を受賞する前に映画自体は完成しているので、本当はなんらか変わる事はないのです。唯一思うのは賞を受賞することによって世界中にこの映画が知れ渡って、観てもらえる機会が増えたということに尽きます。それがうれしいですね。お金では買えないものですから。西洋の有名な俳優がいるわけでもない、大きな製作予算があったわけでもないこの映画が注目されたことは、大きな利益になると思いますね。


――イギリス人監督のあなたが、なぜインドでこの映画を作ったのでしょうか?

ボイル監督:ムンバイの中のスラムいう土地は生命力があふれ、日に日に進化をとげているんです!

 ゲームショーでもある『クイズ$ミリオネア』はまさに変化を遂げているインドを象徴するもの。冨と貧、まさに“スラムドッグ”と“ミリオネア”がぶつかり合ってドラマチックなストーリーが生まれる。それが、ヴィカス・スワラップが書いた原作なんです。


――インドでの撮影は難しかったでしょう。監督にとって何が困難でしたか?

ボイル監督:街ですね。街の恩恵を受けることでした。通常、映画監督は挑んだり、コントロールしようとする。人生の瞬間をまとめあげ、それを映画で上手く動かそうとすします。でもそれは上手くいかないんです。

 そもそも、ムンバイは制御不能の街なんです。我々は街の波に乗ればいいだけでした。あの街にはエネルギーの巨大な波があります、1日20時間続く波です。そこに入り込み、その中に浸り、それを少しだけ捉えるんです。台本どおりの統制された正確なシーンは撮れなくても、それを補って余りある生命力が得られるんです。あの街は命を称えています。死も暴力もたくさん存在しますが、生命力あふれる感覚に圧倒されます。だから我々がしようとしたことは、それを変えたり、コントロールしようとするより、むしろ、その生命力を捉えるために全力を尽くすことでした。


――主人公のジャマール・パリク役にまだ無名の俳優デヴ・パテルを起用し、しかも幼少時代、少年時代を演じる子役をキャスティングするのは大変だったのではないでしょうか?

ボイル監督:デヴはいい俳優であり、少し似通っている人間を見つけるのは面白い試みでした。まったく同じように見える必要はないんです。しかし、人間の成長を映し出すのは難しかったですね。事実、彼らにはほとんど経験がないんです。でも、それがプラスになりました。彼らは映画作りの技術的なことは知らないけれど、それを補う新鮮さがある。気負いがない。彼らは映画出演に対して、とてもオープンで、エネルギッシュで、熱心で、純粋でした。そこが好きでしたね。私自身、できる限りそういう性質を維持しようとしています。ほとんど未経験で、どうしていいかわからない状態。そういう彼らとの仕事は楽しかったですよ。多くの俳優が持つ形や経験にと囚われない自由さが私は好きなんですね。


――脚本家のサイモン・ビューフォイとの仕事はいかがでしたか?

ボイル監督:最高です。彼は小説を見事に脚本化してくれました。素晴らしい構成のとても自由な映画脚本でした。小説の脚色ではなく、大部分が彼自身の作品になっていました。もちろん小説のアイデアを活かしていますけれど。何度も一緒にインドを訪れ、彼のリサーチに目を通し、同時に私も理解を深めました。脚本家から脚本を引き継ぐのが監督の仕事です。そして彼に代わって映画を作る。僕は方向性のある脚本が好きなんです。まるで建築家のように、設計図を描き、始まり、中盤、終わりの骨組みを作り、そこにシーンを積み上げていく。建築するように積み重ねながら、しばらくするとどこに向かって行くかが見え始める。そういう脚本が好きですね。方向性がなくフワフワしているような、調子ばかりいい脚本は好きじゃないんです。だから、彼の仕事は本当に好きでしたね。


――最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

ボイル監督:難問の続くクイズ番組で最後の1問までたどり着いたスラム出身の少年ジャマールは、どうやって答えを知りえたのか? それはこの映画の中核となる部分なんですが、彼の人生の多くの経験がクイズショーで出される質問の答えに繋がっているんですよ。そして、“なぜ彼がこのクイズ番組に参加したのか”は、ぜひ皆さんの自身の目で確かめて欲しいです!ぜひ劇場で本作を観てください!


PROFILE
ダニー・ボイル

1956年10月20日生まれ。イギリス・マンチェスター出身。イギリスのテレビ界でキャリアをスタート、92年に長編テレビ映画『死体強奪』を初演出。95年に『シャロウ・グレイブ』で劇場版映画監督デビューを果たす。日本でも社会現象となった『トレインスポッティング』(96)では、ロンドンの薬物中毒の若者たちを斬新な映像感覚で生々しく描き、全世界に衝撃を与えて一躍注目される。主な監督作品に『普通じゃない』(97)、『ザ・ビーチ』(2000)、『ミリオンズ』(04)、『サンシャイン2057』(07)、『スラムドッグ$ミリオネア』(08)。第83回アカデミー賞監督賞を受賞。
(C)2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation
『スラムドッグ$ミリオネア』

 発祥地イギリスはもちろん、日本など世界中でローカライズされ人気となっている『クイズ$ミリオネア』。インドでも人気のこの番組に出演したスラム出身の少年ジャマールは、あと1問で2000万ルピーを手にできるところまできた。しかし、これを面白く思わない番組のホストは警察に連絡。彼はズルをして正答を得ていたとされ、詐欺容疑で逮捕されてしまう。ジャマールは警察署での警官の厳しい尋問に対し、彼はいかにしてその答えを知ることになったのかを話し始める。それは、一人の少女を追い続けた彼の人生そのものだった・・・。

(C)2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

『スラムドッグ$ミリオネア』公式サイト>>


 

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