| ネットからデビュー、A&Rの新たな手法!? 人気の発信源をネット上に作る“音楽配信限定デビュー”の試み 音楽シーンの活性化のために欠かせない、新人の開発・育成。多くの新人がデビューする中、CDリリースの予定を特に決めず、まず配信限定で楽曲をリリースし、ネット上で話題づくりをしていくケースが出始めている。知名度のあるアーティストが先行配信を行うのとは異なり、実績のない新人を配信限定で“デビュー”させ、ネット上を発信源に、人気を拡大させようとするこの手法は、デジタル音楽配信時代を反映した、新しい新人デビューの形と言えるだろう。 新しい音楽に初めてふれる場は、もはやテレビやラジオ、有線放送等だけに限らない。ネット上には試聴音源・映像があふれており、ネット上でアーティストを知り、ネット上で試聴し、そのままダウンロード購入する、といったことも可能だ。着うたフルやPC向け配信サービスの利用経験者は着実に増加している(下図参照)。アーティストが新曲CD発売前に先行配信を行い、CDセールスにつなげようとするケースも多くなってきた。 それをふまえ、メジャーレコードメーカー各社に見られるようになってきたのが、新人アーティストの“音楽配信限定デビュー”だ。CDリリースを前提に“先行配信”を行うのとは異なり、配信限定デビューの時点で、CDのリリース予定を特に決めていないのが特徴だ。 今回、配信限定でアーティストを“デビュー”させる4社に話を聞いた。一口に配信限定デビューといっても、各社の事情は大きく異なる。V社のリア・ディゾンは、日本を活動の拠点とし、グラビアなどで活躍中。来年から、日本語で歌う邦楽アーティストとして本格的に活動を始める予定で準備が進められており、それに先行してまず「Fever」を配信限定でリリース。MCI社からは、元Vo Vo Tauのボーカル・Ringがソロデビュー。これまでの実績とファン層から、配信限定という形をとった。 この2例は、ある程度、アーティストの知名度・人気が形成されているのに対し、まっさらな新人を配信で世に問おうとしているのが、C社とUMK社だ。C社の「ネットアーティスト」は、ブログを中心にファンが集まるコミュニティの形成を狙う。UMK社の「e-SUM RECORDS」は、配信専門レーベルとしてメジャー予備軍を育成していく。 配信は、メーカーにとってメリットも大きい。まず、CDを制作しないぶんだけ、CDプレスやジャケットデザイン、印刷、輸送といったコストがかからない。特に実績のない新人の場合、全国隅々に商品を行き渡らせるのは難しいが、配信であれば、どこでも好きな時に試聴・ダウンロードしてもらうことができる。さらに、CDの場合、レコーディングしてから店頭に並ぶまでに少なくとも数ヶ月が必要だが、配信ならばわずか数週間で可能。タイミングを逃さないリリースができる。 「スピーディなリリースを要求されたときに、パッケージはやはり時間がかかります。今回のリア・ディゾンのように、曲をできるだけ早く届けたい時は、配信のフットワークの軽さは、非常に有効です」(V社・久保田氏) 「パッケージの制作コストがかからないこともそうですが、メーカーとしては何といっても“在庫を抱えるリスクがない”というのがいちばん大きな利点です。特に新人は、実績がないぶん、イニシャルでどれだけ出荷していいのかが読みづらい。配信限定ならば、在庫を抱えることなく、以前の楽曲も含めて、ずっとサーバ上に置いておくことができます」(MCI社・田中氏) しかし、どんなアーティストでも配信という形式が通用するわけではない。やはり配信に相応しいアーティスト、音楽性というものがあるようだ。 「現時点では、どんな新人でも配信デビューが有効というわけではない。特にバンド系は、生の音感が重視される傾向がある。ライヴ需要が強いアーティストと、“配信”はあまり親和性がないと考えます」(V社・久保田氏) | |
| 「重要なのは、“配信向けの音作り”があるということです。今は、スピーカーを通して聴くだけではなく、ほとんどの皆さんがヘッドホンやイヤホンで、しかも外に持ち運んで聴きますから、それを前提にした音作りをしています。ですから、街中で聴いて相応しいような、ある程度テンポ感のある楽曲という選び方もあると思います」(MCI社・田中氏) シングルに替わる役割を果たしCDアルバムにつなげる ただ配信で楽曲を提供するというだけではなく、当然そのプロモーション方法も大きく異なってくる。CDが流通していない以上、CDショップにとってそのアーティストの認知度は低く、店頭展開なども望めない。また、ラジオでのオンエアや雑誌での紹介もしづらい面があるようだ。 「現時点では、配信のみのリリースは、活字媒体やテレビ、ラジオへのプロモーションに弱く、「盤は?」と言われてしまうことが多いです」(V社・久保田氏) 「やはり、まずCDありき、という考え方が強いです。でも、いずれ我々がやり続けるうちに急速に変化して、スポットをあててくれる媒体も増えてくると信じています」(C社・古川氏) 実績のない新人が、ネット上だけでその存在を広めていくというのは、相当の時間がかかるであろう。しかし、そんなハンデを乗り越えて接触してきたファンであれば、熱心に応援してくれる可能性が高い。 「楽曲はネット配信だけにしておいて、宣伝は通常のマス展開をやる、というのではなく、配信限定でやる以上は、ネット上でのプロモーションを充実させていきたいと考えています。ここで得たノウハウが、近い将来、新しい形のプロモーションを検証するための有効な材料になると思います」(C社・古川氏) 重要なのは、いずれのアーティストも、今後ずっとCDを出さずに配信のみでリリース活動を続けていこうとしているわけでは決してないということだ。配信限定デビューは、いわば「プレデビュー」であり、本格的にCDリリースするまでの育成期間と捉えることができる。 つまり、通常のアーティストのシングルリリース、あるいはメジャーデビュー前のインディーズCDにあたる部分を配信に置き換えるのが、配信限定デビューの本質なのである。シングル市場が縮小する中、シングルの役割を配信が補完し、アルバムの売上につなげるためのツールとして機能していくのかもしれない。 「必ずしも配信だけをやります、ということではないんです。我々はレコードメーカーですから、もし何十万とダウンロードされるほど人気の出るものがあれば、やはりパッケージとしてCDを出すでしょう。そこを、配信にこだわるあまり“ネットアーティストですからCDは出しません”というようなことはしません。ユーザーが求めているものであれば、形を変えてコンテンツを提供するのが当然です」(C社・古川氏) 「いずれ配信がシングルにとって替わる可能性もあると考えます。アーティストの音楽性にもよりますが、シングルが配信に変わっても、さほど抵抗感がないユーザーも多くなってくるのではないでしょうか。ただ、そこから一歩進んで、アートワークも含めたアーティストの世界観を知りたい、全体像としてまとまった楽曲を聴きたいと思った場合、パッケージとして制作したCDが必要。ですから、CDアルバムは今後も残ると思っています」(MCI社・田中氏) 配信という形だけでは、決して大ヒットは望めないかもしれない。ただ、これだけ音楽の嗜好が細分化している現在、ミリオンヒットをねらうよりも、必要としている人にピンポイントで音楽を届けることも、重要なのではないだろうか。そのために配信は有効なはずだ。 新人を知ってもらうための情報源、そして人気の発信源をネット上に作るためのトライアルは、まだ始まったばかり。各社とも考え方は異なり、試行錯誤の段階だ。配信限定デビューがどれほど有効なのか、結論が出るのはしばらく先の話だろう。 ※ C社:コロムビアミュージックエンタテインメント MCI社:ミューチャー・コミュニケーションズ V社:ビクターエンタテインメント UMK社:ユニバーサル ミュージック |
2006/10/25