| 英国輸出物としての「UKロック」その経済効果 世界第三位のシェアを誇るイギリス音楽マーケットの実情 1965年イギリス、時の首相ヒュームは外貨獲得に貢献するビートルズに対して、「今やビートルズはイギリスの秘密兵器である」と言って、その活躍を称えた。以来、イギリスから生まれた音楽、特にロック・ミュージックとそのアーティストは世界中の人々を魅了しつづけ、大きな経済効果を生んでいる。「産業としてのUKロック」の歴史や影響力を考える。 アメリカをはじめ世界中に、セールス的にも影響力の面でも大きなインパクトを与えたものとして、60年代の第一次ブリティッシュ・インベイジョンと、80年代の第二次ブリティッシュ・インベイジョンがあった。そして、今またUKロックが息を吹き返したといわれるこの06年、「第三次ブリティッシュ・インベイジョン」は始まりつつあるのか。そのあたりを、沸き立っているといわれるUKロックの現状や英国の音楽マーケットの状況をひもときながら考察したい。 まず簡単に、今後の比較検討の対象となるべき過去のブリティッシュ・インベイジョンについてざっと振り返っておこう。第一次ブリティッシュ・インベイジョンは、64年2月にビートルズがアメリカ上陸を果たしたことに端を発し、多くのUKバンドがチャートを席巻した。一方、80年代の第二次ブリティッシュ・インベイジョンはニュー・ウェイヴ/ニュー・ロマ系のアクトが先導。ちょうど81年にスタートしたMTVの影響もあり、ビジュアル面に長けた/工夫を凝らしたUKバンドがビデオクリップ普及の波に視覚的インパクトで上手く乗った。 しかし、90年代前半に一世を風靡したブリット・ポップは、実はアメリカではさほどの成功を得られていない。その後はレディオヘッド、コールドプレイというごく一部のバンドが全米1位を獲得するのみ。02年5月には、63年からスタートした全米シングル・チャートに史上はじめてUKアクトが全く登場しない、という現象まで起こってしまった。 そんななかで、「今」のUKロックがその壁を壊した最初の瞬間はフランツ・フェルディナンドの成功だろう。04年のデビュー作リリース当初は全米アルバム・チャートの下位(インディーズ・チャートでは5位)だったが、熱心なアメリカ・ツアーとシングル「テイク・ミー・アウト」の度重なるビデオ・オンエアで認知度が上がり、同年末にはアルバム・チャートの32位にまで食い込んだ。 間をおかず05年にリリースした2ndアルバム『You Could Have It So Much Better』は、全米8位に。このアルバムはMusic Weekによる「05年の英国産アルバムの英国外における売り上げ」調査で第10位(約120万ポンド)に達した。ちなみにこの調査では、第1位がコールドプレイ『X&Y』、第2位ロビー・ウィリアムス『インセンティヴ・ケア』、第3位エンヤ『アマランタイン』と、上位はビッグ・ネームが続いている。 この調査で『バック・トゥ・ベッドラム』が第6位に入ったジェイムス・ブラントも、その活躍が世界に向けて大きな風穴を開けたUKミュージシャンだ。06年3月、彼のシングル「ユア・ビューティフル」は全米シングル・チャート1位となり、これはエルトン・ジョン以来9年ぶりにUKのソロ・シンガーとして記録を更新したことになった。アルバムも日米英などで大ヒットを記録している。 次に、英国内のマーケットの現状を分析していきたい。390以上ものメンバーを擁するBPI(英国レコード工業会)がこの8月に発表したレポート『Statistical Handbook 2006』は、05年を「98年以来、英国音楽にとって最高の年」だと位置づけている。例えば、アメリカなどのミュージシャンに占領されがちな英国マーケットにおいて、英国産アクトのアルバム・セールスが全体の50.3%となり、98年以来最高シェアを記録。 それからアルバム売り上げ上位10組のうち6組が英国産アクトとなり、そのトップに立った前述のジェイムス・ブラントのデビューアルバムは240万枚を売り上げた。これは、1年間に売り上げたアルバム総数の史上最高記録でもある。また、この年は他に国内でミリオンを突破した英国産アクトが5組誕生(コールドプレイ、ロビー・ウィリアムス、カイザー・チーフス、ゴリラズ、ケイティー・タンストール)している。 参考までに世界における英国のマーケットについて記しておこう。レコード市場においては、長年世界第3位をキープしており(第1位アメリカ、第2位日本)、そのシェアは03年から3年連続で10.4%。楽曲生産量としては世界第2位(第1位アメリカ)となり、市場の15%を占める。また、人口ひとり当たりの年間音楽購買額は世界一となっている。 BPIによる『Statistical Handbook 2006』で特に興味を引いたのは、英国内でのアルバム・セールスのジャンル別比較だ。例えばブリット・ポップ期の96年でさえポップがロックに約8%の差をつけていたのに対し、04年にはわずか0.2%の差ながらもポップとロックが逆転。それからほんの1年後の05年には、ポップが25.8%に対してロックは36.2%になるという、予想し得なかったほどの逆転が起こった。 昨年最高枚数を売り上げたジェイムス・ブラントはこの場合「ポップ」にカウントされているが、それでも約10%以上もロックのアルバム・シェアが上がっている。この事実は、いったい何を物語っているのか。 今回のBPIの調査に先立ち、英音楽誌『Q』の今年6月号がとても興味深い特集を展開している。「ギター・ロックがポップを殺した」というショッキングなタイトルで、左ページには飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続けるアークティック・モンキーズの写真を、右ページには3rdアルバムがトップ10に入らなかったガールズ・アラウドを、対比する形で掲載。伝統あるポップ音楽誌『Smash Hits』の休刊や、才能ある若手ギター・バンドが若いリスナー層にとってより「クール」な存在になってきていることなどを指摘しながら、03年頃からポップスとロックのチャートにおける状況が変化してきたと分析している。 こういったポップとロックの英国内マーケットにおける逆転も、今の盛り上がりが過去のブリティッシュ・インベイジョン、つまりロックがマーケットを牽引した時代と比較されうるものとなるのか、興味をそそる理由だ。 実際、ここから先の英国音楽を国内外で牽引してゆくのは19歳〜20歳の4人組、アークティック・モンキーズだろう。すでに彼らは今年年頭にリリースしたデビュー作『Whatever People Say I am,That's What I'm Not』で、それまでポップ・グループのヒアセイが持っていた「デビューアルバムの最速売り上げ記録」を更新。全米アルバム・チャートで24位、オリコン・チャートで9位になり、すでに全世界での売り上げは200万枚を超えている。9月から新作レコーディングに入り、年明けには2ndアルバムのリリースを予定しており、今のいい流れをそのまま継ぎそうだ。 ギター・ロックといえばインディーズ・レーベルのイメージが強い。実際、フランツ・フェルディナンドやアークティック・モンキーズを擁するドミノらのインディーズが、レコード会社別マーケット・シェアにわずかではあるが顔を出しはじめてきた。 今回『British Music 06』の一環として行われたライヴやプロモーションでも、その中心となっていたのはいわゆるロックのアクトたちだった。そのあたりは現在の英国内マーケットの様子を反映しているが、一方でBPIのグローヴァー氏と英国大使館のフィリップス氏はこうも話す。「現状でロックが盛んだということもありますが、ヒップホップからクラシックまで全てのタイプの音楽があるわけで、私たちはその全てのブリティッシュ・ミュージックをサポートしています」(グローヴァー氏)。「『UKロック』ではなく『ブリティッシュ・ミュージック』と呼んでいます」(フィリップス氏)。 2年後には、英国大使館とブリティッシュ・カウンシルが開催し、英国のクリエイティビティを紹介する『UK-JAPAN2008』が行われる。このイベントも、英国の音楽を世界第2位のマーケットである日本が「知る」大きなきっかけになるだろう。(取材・文/妹沢奈美) | ||
2006/09/06