コロナ禍の影響も手伝い、映画のネット視聴が急速に普及してきた昨今。先の8月、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが、アニメーション映画のデジタル配信にて、業界初となる試み、“グッズ付きデジタル配信”を期間限定で行った。ネット視聴すると限定Tシャツが入手できるというもので、劇場や映像作品の特典としては定番の手法だ。デジタルで完結する世界にリアルで行われる手法を持ち込んだ同社の狙いとは。
■視聴者の所有欲を満たしながら、“体験”として残るもの
全世界興収700億円を突破し、日本でも6月に劇場公開されたアニメーション映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のデジタル配信が8月18日からスタートした。このデジタル配信で行われたのが、Amazon独占“オリジナルTシャツ引き換えシリアルコード付き配信”だ。
これまでDVDやブルーレイなど、いわゆるパッケージの販売では、作品にちなんだノベルティグッズを特典としてつけるというのは一般的な手法として広く行われてきたが、映画やドラマのデジタル配信に立体的なオリジナルグッズが付属するというのは、業界初の試みとなる。リリースから約1ヵ月、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント ディストリビューション部門マーケティングの河野伸祐さんは「いわゆるパッケージで行う施策と比較しても、良い数字で推移しています」と、手ごたえを口にする。
こうした施策を行った背景には、デジタル配信ならではの課題があったという。
「エンタテインメントを楽しむ方の多くは保有意欲の高い方、プレミアムなアイテムを所有したい方が多いと思っています。一方で、デジタル配信は『所有』や『保持』といった『体験』が伝わりにくい、届きにくいという側面がありました」(河野伸祐さん/以下同)
視聴者の所有欲を満たしながら、“体験”として残るもの。それがプレミアムTシャツ特典だった。
「特別な限定グッズが手元に残るというのは、ただ配信を観て終わりだけではない“体験”が残るのではないか、と考えました。本来、映画は“劇場に足を運ぶ”、“レンタルショップで作品を探す”といった体験ありきのものでした。デジタル配信でも、何か体験として記憶に残してほしいという願いもありました」
■広くリーチするために不可欠なデジタル配信、劇場未公開作の救出にも
近年、多くの配信業者の登場で、作品の見方も一気に多様化した。さらにコロナ禍が拍車をかけ、各社デジタル配信の占める位置づけはドラスティックに変化。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでも、新たな試みでデジタル配信の促進を図るが、河野さんは「あくまで当社としては劇場に足を運んでもらうことが最優先」と話す。
「映画は、劇場で観てもらうことを前提に制作されています。最近では、劇場公開と同時にデジタル配信を行ったり、配信のみのドラマなども人気ですが、“映画会社”の当社としては、作品は劇場公開後にデジタル配信、パッケージ、そしてサブスクリプションや放送という流れを大事にしています。ただ、デジタル配信はコンテンツを広くリーチするために必要不可欠ですし、劇場未公開作の鑑賞機会が増えるのも良いことだと思っています」
実際に、9月、10月の同社デジタル配信には7作もの日本劇場未公開作品が並ぶ。これまでパッケージ化を待つしかなかった未公開作との接点が早まったこと、広がったことは、映画ファンにとって嬉しい限りだ。
いずれにしても、デジタル配信と一言で括っても、ソニー・ピクチャーズのようなコンテンツホルダーから、いわゆるNetflixのような配信業者、オリジナルコンテンツを制作している会社もあるなど、さまざまな立ち位置の企業が参入している今。デジタルと“体験”を融合させるという取り組みは、新たな気づきや広がりを期待させられる一つの施策となるのではないだろうか。
※Tシャツ付きの販売は終了。
取材・文/磯部正和
■視聴者の所有欲を満たしながら、“体験”として残るもの
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』デジタル配信付属オリジナルTシャツ(左:マイルス・モラレス/スパイダーマン、右:グウェン・ステイシー/スパイダー・グウェン)※販売終了
これまでDVDやブルーレイなど、いわゆるパッケージの販売では、作品にちなんだノベルティグッズを特典としてつけるというのは一般的な手法として広く行われてきたが、映画やドラマのデジタル配信に立体的なオリジナルグッズが付属するというのは、業界初の試みとなる。リリースから約1ヵ月、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント ディストリビューション部門マーケティングの河野伸祐さんは「いわゆるパッケージで行う施策と比較しても、良い数字で推移しています」と、手ごたえを口にする。
こうした施策を行った背景には、デジタル配信ならではの課題があったという。
「エンタテインメントを楽しむ方の多くは保有意欲の高い方、プレミアムなアイテムを所有したい方が多いと思っています。一方で、デジタル配信は『所有』や『保持』といった『体験』が伝わりにくい、届きにくいという側面がありました」(河野伸祐さん/以下同)
視聴者の所有欲を満たしながら、“体験”として残るもの。それがプレミアムTシャツ特典だった。
「特別な限定グッズが手元に残るというのは、ただ配信を観て終わりだけではない“体験”が残るのではないか、と考えました。本来、映画は“劇場に足を運ぶ”、“レンタルショップで作品を探す”といった体験ありきのものでした。デジタル配信でも、何か体験として記憶に残してほしいという願いもありました」
■広くリーチするために不可欠なデジタル配信、劇場未公開作の救出にも
近年、多くの配信業者の登場で、作品の見方も一気に多様化した。さらにコロナ禍が拍車をかけ、各社デジタル配信の占める位置づけはドラスティックに変化。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでも、新たな試みでデジタル配信の促進を図るが、河野さんは「あくまで当社としては劇場に足を運んでもらうことが最優先」と話す。
「映画は、劇場で観てもらうことを前提に制作されています。最近では、劇場公開と同時にデジタル配信を行ったり、配信のみのドラマなども人気ですが、“映画会社”の当社としては、作品は劇場公開後にデジタル配信、パッケージ、そしてサブスクリプションや放送という流れを大事にしています。ただ、デジタル配信はコンテンツを広くリーチするために必要不可欠ですし、劇場未公開作の鑑賞機会が増えるのも良いことだと思っています」
実際に、9月、10月の同社デジタル配信には7作もの日本劇場未公開作品が並ぶ。これまでパッケージ化を待つしかなかった未公開作との接点が早まったこと、広がったことは、映画ファンにとって嬉しい限りだ。
いずれにしても、デジタル配信と一言で括っても、ソニー・ピクチャーズのようなコンテンツホルダーから、いわゆるNetflixのような配信業者、オリジナルコンテンツを制作している会社もあるなど、さまざまな立ち位置の企業が参入している今。デジタルと“体験”を融合させるという取り組みは、新たな気づきや広がりを期待させられる一つの施策となるのではないだろうか。
※Tシャツ付きの販売は終了。
取材・文/磯部正和
2023/09/22