オレオレ詐欺、振り込め詐欺などの「特殊詐欺」の被害が“今日のニュース”として日々報じられている。昔から詐欺はあったが、時代の変化に伴い使用されるツールは変化し、その手口も巧妙化しており、昨今では富裕層でなくても被害者となりうる身近な脅威となっている。そういった今の日本でリアルに発生している詐欺をテーマにしたドラマ『クロサギ』（TBS系）が2022年秋クールで放送された。主人公の「詐欺師を騙す詐欺師＝クロサギ」、黒崎高志郎を演じたのは、人気グループKing & Princeの平野紫耀。孤独なダークヒーローを演じて新境地を見せ、大きな注目を集めた。

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■濃厚な人間ドラマながら痛快さも　極上のエンターテインメント作品に

　ドラマのオープニングナレーションで毎回流れるおなじみのセリフがある。「世の中には三種類の詐欺師がいる。人を騙し、金銭を奪うシロサギ。色恋を餌にするアカサギ。そしてこの世で一羽だけ、シロサギとアカサギだけを餌とし喰らう最凶の詐欺師がいる。詐欺師を騙す詐欺師――その名は、クロサギ」
　物語の主人公・黒崎高志郎（平野紫耀）は、詐欺被害に遭った父が起こした事件をきっかけに家族を失った過去を持つ。そのため心底、詐欺師を憎んでいるのだが、復讐のために詐欺師のみを騙す詐欺師「クロサギ」となり、「シロサギ」を喰いものにしながら、宿敵を探し出し報復することが生きる目的となっている。

　原作は黒丸・夏原武による漫画「クロサギ」シリーズで、単行本は累計発行部数850万部を超える超人気作品だ。連載中の2006年には同枠で山下智久主演によりドラマ化され、08年には映画化もされた。漫画は13年に全42巻で完結したが、連載中であったため前ドラマシリーズでは、黒崎と宿敵との対決は描かれていない。しかし今作は中盤で宿敵との対決が描かれ、さらに新展開がスタート。背後で暗躍する巨大な敵との対決というクライマックスが描かれる2段構えの展開になっている。そのため、後半に向かうにつれ緊張感は増し、カタルシスを感じることができる。

　それにしても、ドラマで取り上げられる詐欺の種類の多さ、そしてその手口の巧妙さにはあ然とさせられる。カード詐欺、知的財産詐欺、マンション投資詐欺…、普通に生活するだけで、誰もが簡単に被害者にも加害者にもなり得ることが、物語を通して伝わってくる。おそらく真っ当に描けば、かなり重苦しい人間ドラマになりがちなところだが、リアルとフィクションを上手く融合させた絶妙なさじ加減により、主人公が詐欺の手練れを欺くという痛快さも感じられる、極上のエンターテインメント作品に仕上がっていた。

　脇を固めるキャストには、ヒロインの検事を目指す大学生・吉川氷柱を演じる黒島結菜、敵対する警官役の井之脇海、シロサギ役の山本耕史、大物詐欺師・御木本役の坂東彌十郎、そして氷柱の父役の船越英一郎…と、豪華な実力派俳優陣が集結した。なかでも、三浦友和が演じた詐欺師界のフィクサーで、表の顔は甘味処「かつら」の店主・桂木敏夫と黒崎が対峙するシーンは、物語に深みを持たせていたと言えるだろう。

　物語は、吉川氷柱の父である辰樹（船越）が詐欺被害に遭うところから動き始める。黒崎が詐欺師と知り反発する氷柱だが、その家族とは、辰樹を騙した詐欺師を黒崎が潰したことから徐々に親しくなり、家に上がり込んで食事をする関係になっていく。吉川家では、ちょっと図々しいくらいの人懐っこさを見せる黒崎。しかし、詐欺の師匠的存在である桂木の前では、別人のような暗い表情を見せる。“親爺”“クロ”と親しげに呼び合い、詐欺師に必要な情報や方法を桂木から買い、儲けの一部を情報量として納める、そんな仲であるにも関わらず、だ。腹の内を探るようなやり取りや目つきから、2人の複雑な関係性が浮かび上がる。桂木に見せる硬い表情とは対照的な、吉川家でのやわらかな表情。ドラマにはこういったコントラストが度々見受けられ、物語の緩急をつける良いアクセントになっていた。

■平野紫耀の迫真の演技　チャーミングな黒崎像

　ドラマでは、シロサギを騙すために、投資コンサルタント、人材派遣会社社員、フリー記者、海外ファンドマネージャーと多様な職業になりすます黒崎の変装ぶりも見所の1つとして、放送時から話題を集めていた。服装はもちろん髪型から小物に至るまでその役になり切る様子は、どれもチャーミング。おそらく黒崎演じる平野も楽しんでいたのではないかと推察される。

　また、黒崎が飼っている“猫”も効果的に使われていた。“クロ”と呼ばれるこの猫。いつも無機質な部屋に1人ぼっち。その姿は孤独な黒崎そのものだった。生活感が感じられない部屋が、人を寄せ付けない彼の心を表すのだとすれば、黒崎がこの上なく優しい眼差しを注ぐクロは、繊細でピュアで柔らかな、本来の彼自身を表しているのだろう。ある時、長期で家を空けることになった黒崎は、氷柱にクロを預ける。自分の分身のような猫を託すのは、相手に心を開いた表れであり、もっと言えば、忘れかけていた親しい人への、つたない愛情の表現にも受け取れ、妙にグッとくるシーンだった。全体的にはシリアスな表情が多かった黒崎だが、時折1人の青年らしい素顔を見せるシーンに胸をつかれた視聴者も多かったのではないだろうか。

　黒崎がクロサギとなり、現代の世に巣食う悪を喰い潰していく物語。それでも悪はなくならないという不条理さは残るものの、ラストの黒崎の微笑む姿に胸を撫でおろしたのは、実力派俳優たちを相手に全力で臨んだ平野演じる彼に、すっかり感情移入してしまったからにほかならない。過去の呪縛から解き放たれたかのようなその笑顔は、ドラマ『クロサギ』のエンディングにふさわしいものだったように感じられた。

　なお、本ドラマの主題歌は、King & Princeのアップテンポなダンスナンバー「ツキヨミ」。発売週にオリコン週間シングルランキング初登場1位となり、その後再び1位に返り咲いて、2022年度唯一の、そして自身初のミリオンセラーとなった。夜の闇に沈む孤独な主人公の心を照らす歌詞が『クロサギ』の世界を盛り上げた。

Blu-ray＆DVD『クロサギ（2022年版）』
2023年5月10日発売

■Blu-ray BOX：価格29,645円(税込)
2022年／日本／全10話／4枚組（本編ディスク3枚+特典ディスク1枚）

■DVD BOX：価格24,200円 (10%税込)
2022年／日本／全10話／6枚組（本編ディスク5枚＋特典ディスク1枚）

【特典映像】
・メイキング
・クランクアップ集
・ハプニング&未公開シーン集
・放送前インタビュー(平野紫耀、黒島結菜、三浦友和)
・制作発表会見 完全版
・SPOT集

【封入特典】Blu-ray・DVD共通
・ブックレット

＜キャスト＞
平野紫耀（King & Prince）　黒島結菜　井之脇海　中村ゆり　宇野祥平　時任勇気　／　山本耕史　／　坂東彌十郎　　佐々木蔵之介　　船越英一郎（特別出演）　／　三浦友和

＜スタッフ＞
原作：黒丸・夏原 武（原案）「クロサギ」シリーズ・「クロサギ再起動」（小学館刊）
脚本：篠崎絵里子
音楽：木村秀彬
主題歌：King & Prince　「ツキヨミ」（Johnnys’　Universe）
演出：田中健太　石井康晴　平野俊一
プロデュース：武田 梓　那須田淳
製作著作：TBS
製作著作・発売元：TBS
発売協力：TBSグロウディア
販売元：TCエンタテインメント

※篠崎絵里子の崎は立つ崎（たつさき）が正式表記