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“女性喫煙者”はなぜ肩身が狭い? 芥川賞候補・鈴木涼美が感じるレッテルと現実「世界は自分の快感だけで構成されていない」

 著書『ギフテッド』(文藝春秋)が、第167回芥川賞候補となった鈴木涼美さん。その意外な経歴から、注目されることもあれば、偏見を持たれたり、レッテルを貼られることもあるという。それは、現在ではマイノリティーと言える“女性喫煙者”としても感じることだ。女性であるがゆえに、より強く感じる押し付け。一方で、「世の中には自分が不快だと感じるものも存在する」と、現実を受け止める姿勢。彼女の言葉には、矛盾に満ちた社会で疲弊せずに生きるヒントがあるようだ。


芥川賞候補に選出された鈴木涼美(写真:逢坂 聡) (C)oricon ME inc.

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■元AV女優で喫煙者、風当たり感じる「批判されがちなマイノリティー属性」

 7月20日に発表される第167回芥川賞のノミネート作が、史上初めて女性作家のみで占められた。中でも『ギフテッド』で候補に挙がった鈴木涼美さんは、慶應大学在学中にAVデビュー。その後、新聞社勤務、東京大学大学院を経て、現在は作家やコラムニストとして活躍する異色の経歴も含めて話題だ。

 「私はwriterです、以上。って感じなんですけど、過去の経歴が経歴を超えて肩書きのようになる事象はどうしてもありますよね」

 過去の経歴が特徴的であればあるほどそこに話題が集中し、その人を形容する枕詞になることはよくある。ただ、それはプラスに働くだけではなく、偏見やレッテルといった、マイナスな効果を生むこともしばしば。鈴木さんの場合、経歴だけでなく、「女性喫煙者という、批判されがちなマイノリティー属性」としても、風当たりを感じているそうだ。

 SNSに喫煙シーンを載せたところ、「ファンをやめます」というメッセージが来たことがあるという鈴木さん。改正健康増進法の全面施行やコロナ禍で喫煙規制は年々厳しくなっており、特に成人の7.6%(2019年/厚生労働省国民健康・栄養調査)というマイノリティー中のマイノリティーである女性喫煙者の肩身は狭い。

 「私の本を読んでも特に副流煙のような害はないはずなんですけど(苦笑)。ただやはり嫌煙という“思想”は根強く、女性芸能人でも隠す人は多いですよね。私の友人でも、健康だけではなく、“モテ”に重きを置くとみんなやめていきます(笑)。たしかにやめたほうが、モテのパイは広がるでしょう。だけど私は“思想”を押し付けてくる人がイヤなんです」

 かつて嫌煙家の男性と付き合ったこともあるという鈴木さんは、「たばこの煙やにおいがイヤだという人の前では吸わない」という明確な分煙家。しかしその男性と長続きはしなかったという。

 「においや煙以上に、たばこを吸っていること自体が許せないという男性だったんです。彼が吸う吸わないはもちろん彼の思想だし、たばこのにおいが嫌だとか家や車で吸われるのが嫌だと感じるのはもちろん彼の自由ですが、たばこを吸う女性自体に嫌悪感があるのは一つの“思想”であって、それを私に共有しろという圧力は嫌でした。許せないのであればどうして私と付き合ったのか。おそらく懐柔できると思ったのでしょうが、一方向の正しさを押し付けてこられるのは苦手です」

鈴木涼美(写真:逢坂 聡) (C)oricon ME inc.

鈴木涼美(写真:逢坂 聡) (C)oricon ME inc.

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 出産する性として「女性はたばこを吸うべきではない」という意見もある。とはいえ、現代において出産する・しないの選択権はその女性にある。それでもなお、女性喫煙者がバッシングを浴びやすいのはなぜか。

 「男性の喫煙率が50%を超えていた時代の名残りから、たばこは男性のもの、不良のものというイメージ。『女性は清楚であるべき』という、古典的な思想から来るものなのかなと思いますね。ただ男性の喫煙者が激減した一方で、女性の喫煙者は少ないながらにほぼ横這い傾向。ということは、いつの時代も一定数の女性はたばこを吸ってきたんだと思います。ちなみに、女性は男性に比べて加熱式派より紙巻派が多い印象。女性喫煙者のほうが日和っていないというか、腹が座っているのかもしれないです(笑)」

 いずれにせよ、喫煙者全般への風当たりが強いのは確か。その批判の裏側にあるものを、鈴木さんは客観的な視点から分析する。

 「ストレスフルな社会で、みんな誰かを批判したがっている。ネットニュースのコメントを見ても、それは明らかです。ただ実社会ではコンプライアンスが厳しく、ヘイトはいけないものとされています。そうした中で喫煙者は『人の健康を害する可能性がある』という大義名分から、大っぴらに批判できる数少ない対象と見なされています。もっと言えば、ストレスが溜まっているのは何かしらを我慢しているから。なのに喫煙者は快楽を貪っていてズルい。この『ズルい』という感情は日本社会において強烈に人を動かす力を持ち、相次ぐ炎上やキャンセルカルチャーなどを生んでいます」

■『AV新法』に疑問、「自分にとって不快なものが誰かにとって大切なもの」

 もっとも、たばこの価格が上がり、喫煙者も減少傾向にあることから、一時期の嫌煙ムードも和らいだ感はある。「貴重な税収」「マナーを守って迷惑をかけないなら目をつむる」と、ある種の妥協点を見出す非喫煙者も増えた。さらに、“妥協”から“共存”となり、互いが無理なく過ごすためには何が必要なのだろうか。

 「昔よく行っていたお店が喫煙可だったのですが、必ず隣の人に確認するのがルールでした。要は、『コミュニケーションを取りましょう』ということ。日本人は基本的に知らない人に話しかけるのは苦手とされていますが、『吸ってもいいですか?』『ここではやめてください』といった会話を、喧嘩腰にならずに互いに感じ良くできるくらいのコミュニケーションは必要だと思うんですよ」

 「世界は自分が快感だと思うものだけで構成されているわけではない」と、鈴木さんは強調する。

 「それこそ『AV新法』が現場の声をまったくすくい上げることなく、大雑把に施行されてしまうことにも危機感を覚えます。自分にとって不快なものが誰かにとって大切なものだったりすることはあるわけで、それを一方の『不快』の声だけで法律で縛るようになったら、これから失われる文化はもっと出てくる。そのほうが怖いなと思います。自分の考えを表明することは素晴らしいことですが、それによって誰かが傷つけられるという可能性をどこかで意識してほしいとは思います」

 「世界は自分が快感だと思うものだけで構成されているわけではない」という思いは、冒頭で触れた、鈴木さんの経歴に対する偏見・レッテルへの考えにも通じている。

 「私自身も新聞記者でしたから、取材記者が時に人の書かれたくないこと、不快に思うことを書かねばならないのはよくわかりますし、人生は自分のコントロールがきかない予想外のことによって流れていくものなのだとも思います。私の執筆テーマと大きく関わる経歴なので、単純に後悔しているとか誇りに思っているとか言うのは難しく、程よく恥じ、程よく払拭しようとしているといったところでしょうか」

 自身の見られ方についても客観的に眺めているが、ゴシップ紙などの取り上げ方には疑問も生まれている。

 「何もしなければ取り上げられることはないし、人が関連付けやすい場所に留まっていればわざわざ過去の経歴をことさら強調されることはあまりないでしょうが、ほかの分野で何か目立ったことをすれば逆にクローズアップされるのが経歴というものの特徴です。払拭するというのは実際はとても難しいですね。フリーになった直後は本をまず知ってもらうために執筆以外のオファーもなるべく受けなければと思っていましたが、信頼できる友人に頼まれない限りはテレビなどのメディアに出ないと決めてからはゴシップ紙などの記事もあまり気にならなくなりました。もともとコメンテーターのような仕事には興味も適正も全くないので」

 そんな鈴木さんは、今回の芥川賞候補の反響は「あまり感じていない」というが、新たな気づきもあったようだ。

 「これまで候補になった作家はたくさんいます。それぞれにいろいろな過去や経験があるものだと思います。ただ、以前から読者でいてくださる方だけでなく、私のことを初めて知ったAVや夜職の経験者や現役の子からはとても熱のこもったメッセージをいただきました。似たような肩書や経歴を持っている女性の中には嫌な思いをした子もいるだろうし、一生逃れられないんじゃないかという恐怖心がある人もいるのだと思います。

 かつて私は何かの代表のように扱われたり、過剰な『意味』を背負わされることを忌避していたところがあるのですが、私が幸福そうにしていることでその子たちが『生きていれば尊重される未来もあるかもしれない』と希望を持ってくれるのだとしたら、意外と『芥川賞候補』にも重みがあるのかなと感じています。もちろん嫌がらせや心無い記事もありますが、『世界は自分が快感だと思うものだけで構成されているわけではない』ということを1人1人が受け入れないと、みんな生きづらくなるんじゃないですかね」

 生きていれば、誰もがスネに1つや2つの傷を持つ。その傷を舐め合うことで生まれる連帯に、鈴木さんは希望を見出している。

 「いろんなつながりが希薄になっている世の中で、マイノリティー同士だからこそ仲が深まることはあるし、悪いことばかりじゃない。批判されがちな“女性喫煙者”としても、それは感じますね」

 元セクシー女優を強調する一部のメディアや喫煙者であること、それに伴うレッテル貼りも、「人生は自分の思い通りにいかないこともある」「世の中には自分が不快だと感じるものも存在する」という現実として受け止めている鈴木さん。

 「それに対して怒りをぶつけるよりは、イヤなものからは程よく距離を取ったり、あるいはイヤなものが降りかかってきた状態から人生を歩み出すほうが、自分には向いてるなと思いますね」

 自分にとって不快なものを歓迎するのは難しい。それでも、少なくとも存在することだけでも受け入れる。それが真の多様性が認められる社会の一歩なのかもしれない。

(文:児玉澄子)

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