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『忠臣蔵』が描く“義” 若者にも響く「日本人のメンタリティ」

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第27回 歴史学者 東京大学教授・山本博文

映画『決算!忠臣蔵』のメインカット(C)2019「決算!忠臣蔵」製作委員会

映画『決算!忠臣蔵』のメインカット(C)2019「決算!忠臣蔵」製作委員会

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 これまで300以上のドラマ・映画・舞台の題材になってきた冬の風物詩・忠臣蔵。この冬も、赤穂浪士の討ち入りを“お金”の面から描いた一風変わった映画『決算!忠臣蔵』が公開する。本作の原作となる「『忠臣蔵』の決算書」の著書であり、忠臣蔵研究の第一人者と言われる東京大学史学絵編纂所教授の山本博文氏に、なぜ忠臣蔵が日本人の心に沁みるのか、また令和の時代の歴史教育について聞いた。

■「忠臣蔵」が日本人に愛される理由

 江戸時代元禄期に起きた赤穂事件をモチーフにした人形浄瑠璃および歌舞伎の演目の一つとして創作された「忠臣蔵」。その後、現代まで映画やドラマ、舞台の題材として数多くの作品が世に出て、親しまれてきた。

 山本氏は「忠臣蔵」が時代を超えて日本人に愛される理由として「本質的には義のために自己犠牲をいとわない姿というのが、日本人の心に響くんだと思います。もう一つ、もともと赤穂事件というのは、幕府の判決に不公平感を持った赤穂藩士たちが、自分たちの力でその不正を正そうとした出来事ですが、そうした自力救済というのもカタルシスが得られる要因だと思います」と分析する。

 一方で、時代の変化と共に“忠義”や“自己犠牲”という考え方に対する感受性も大きく変わってきているように感じられる。

 「もちろん『忠臣蔵』という題材のどこに重点を置くかというのは時代と共に変化しています。江戸時代では、幕府への批判意識を民間の浪人が是正したというヒーロー的なものの見方をされていましたが、戦前は“忠義”が強調されました。そして戦後になると“忠義”という言葉は、あまり良い思想と捉えられなくなり、一時は人気が落ちてくるんです。すると、吉良上野介をより悪者にした描き方で、復讐物語という側面を強調し、また人気を得るようになっていきました」。

■「なにかに身を捧げたい」という日本人のメンタリティ

 集団から個が重視される時代への変化。さらにSNSなどの普及により、簡単にコミュニケーションがとれるようになったことで、人間関係が希薄になっていると言われている現代では「忠臣蔵」に内在するものは、現代の若者には響かないのではないだろうか――。

 しかし山本氏は「確かにそういった気持ちは希薄になってきているかもしれませんが、逆に言えば、現実が厳しいからこそ、『忠臣蔵』が描くメンタリティに救いを求めるような人は多いのではないでしょうか」と話す。確かに、近年日本では、甚大な被害をもたらした災害が頻繁に起きているが、若者が中心になってボランティアに参加する人は多い。「なにかに身を捧げたいという気持ちを持つ人は多いと思います。そういった精神というのは、日本人の持つメンタリティなんだと思うんです」と山本氏は説明する。

■いままで観たことがなかった視点からの『忠臣蔵』の物語!

 そんな日本人のDNAに組み込まれているような「忠臣蔵」を、これまでとは全く違う視点で描いたのが『決算!忠臣蔵』だ。本作は、浅野内匠頭が刃傷事件により切腹を命じられてから、赤穂浪士たちが、吉良邸に敵討ちをするまでの1年9ヶ月にあった出来事を“お金”という観点から描いた物語だ。義のために藩主の敵討ちをしたいと思いつつも、財政は圧迫され、生活費や食費、江戸までの往復旅費などなど……討ち入りしようにも資金がない。

 「大石内蔵助が『預置候金銀請払帳』という討ち入りに要したお金の使い道を記した資料を残していて、それを読み解き本にしたのですが、その本を映画化したいというお話しをいただきました。ここを切り口にするのか……と驚いたのですが、近年見えないお金にこだわる話というのは人気だと聞いていたので、案外タイムリーなのかも……と思ったんです」。

 劇中では、赤穂藩筆頭家老である大石内蔵助(堤真一)と、勘定方の矢頭長助(岡村隆史)が、お金を巡ってかんかんがくがくのやり取りを繰り広げる姿がコミカルに描かれている。山本氏は「お金にまつわるコメディというコンセプトは聞いていたのですが、映画化される際、原作者としてお願いしたのは、こうした要素を踏まえつつも、観終ったあと、ホロリとなる作品にしてほしいということでした。そこは中村義洋監督なので安心はしていましたが、とても巧みに作られていて、お金にまつわる話が面白おかしく描かれつつも、最後はホロリとさせられました」と出来に太鼓判を押していた。

■歴史はいろいろな視点から見ていく必要がある

 東京大学史料編纂所教授を務める歴史学者である山本氏。本作をはじめ、歴史を題材にした映画やドラマには、どういった思いがあるのだろうか 。

 「まずはやはり史実にどれだけ忠実であるかは大きなポイントです。かなりフィクション色が強い場合、あまりに史実とかけ離れていると白けてしまう部分はあります。しっかり史実に基づきながらも、資料がないようなところを想像して創作しているものは『なるほど』と興味をそそられます」。

 歴史学者として、自国の歴史を伝えることの大切さについては「歴史を学ぶことで、日本人の特徴とはどんなものかというのを意識できますよね。それは他の国に対しても同じことで『同じ人間なんだから分かり合えるはずじゃないか』という考えの人もいますが、それぞれの国の歴史が、それぞれの国民性を形作っている。そこを考えないで『分かり合えるはず』と考えるのは少々危険だと感じます」と注意喚起する。

 一例として『忠臣蔵』を他国の人が観ても、感じ方はまったく違うかもしれないという。外国人にとっては「なんてアホなことをしているんだ」と感じる人もいるというのだ。

 日本という国についても「敗戦後の一時期は別として、日本はずっと独立を保ってきた国。そういう歴史を持つ国は珍しいので、日本の歴史を学ぶことで、日本人のメンタリティというのが、どういうものかというのは理解できると思います」と語る。

 その意味で、山本氏は「これからの時代は、歴史をいろいろな視点から見ていくことが必要だと思います」と解く。続けて「敗戦後、教科書では日本がいかに悪いことをしてきたかという見方がされていました。もちろんそういう面もありますが、どれもこれも日本が悪かったという考え方は、戦後70年以上が経過していくなか、もう少しフラットな視点で読み解いていく必要があるのではないかなと感じます」と説明してくれた。(取材・文・撮影:磯部正和)

関連写真

  • 映画『決算!忠臣蔵』のメインカット(C)2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
  • 忠臣蔵研究の第一人者と言われる東京大学史学絵編纂所教授の山本博文氏 (C)ORICON NewS inc.
  • 『決算!忠臣蔵』の場面カット(C)2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
  • 『決算!忠臣蔵』の場面カット(C)2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
  • 『決算!忠臣蔵』の場面カット(C)2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
  • 『決算!忠臣蔵』の場面カット(C)2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
  • 『決算!忠臣蔵』の場面カット(C)2019「決算!忠臣蔵」製作委員会

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