CG表現の先駆者で、モーションキャプチャーを駆使した世界でも数少ない実物等身大のリアル描写“フォトルック”の3Dアニメーション映画を得意とする日本のトップクリエイター、荒牧伸志監督(54)。
2004年に発表した映画『APPLESEED アップルシード』で、当時としては新しかった伝統的なセルアニメとリアルな3DCGを融合させた画期的作品を作り上げ、日本は元より海外でも称賛の声を集めた。07年にはその続編『エクスマキナ』を監督。12年公開のハリウッド映画『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』、13年公開の映画『キャプテンハーロック』を手がけてきた。
最新作は、『アップルシード』『エクスマキナ』に続くシリーズの3作目『アップルシード アルファ』(1月17日公開)。前作から8年を経て、オリジナル製作スタッフが再結集。士郎正宗氏による原作漫画の第1巻冒頭部分をモチーフに、前2作の前日譚ともいえる始まりの物語を描き出す。
先行して公開された米、英、仏でヒットを記録し、『アバター』のジェームズ・キャメロン監督が「これはもはや新次元の領域に達している」と絶賛した作品が、満を持して日本に上陸。同作の制作秘話と込めた思いを荒牧監督に聞いた。
■「日本人もCGでここまでできる」というのを見せたい
『〜アルファ』の映像は、まるで実写かと見まごうばかりのリアルさだ。10年前、『アップルシード』で荒巻監督が投げ入れた“セル調の3DCG”は、その後、波紋のように広がって今や日本のアニメ界の主流になりつつある。しかし、今作では敢えて、斜め上を行くような“フォトリアル”な表現にこだわった。
荒牧監督は「アップルシードっぽくていいかな」といたずらっぽく笑う。「1作目の時もフル3DCGは日本人には無理だと言われましたし、僕にとって『アップルシード』シリーズは毎回、ハードルをあげながらいろんなチャレンジがでてきて、新しいものを観てもらえる作品。今回の物語を伝える上でも、フォトリアルなビジュアルの方が説得力も増すと思いましたし、もう一つ、意地みたいなものもありますね。海外の映画やゲームなど、すごいクオリティーのものが多く出ている中で、『日本人もここまでできるんだ』というのを見せたかった」と語っている。
今回、荒牧監督たちが目指した“フォトリアル”は、現実を超えた現実感が演出された“スーパーリアル”な映像。「アフレコの時に声優陣からも言われました『これ実写じゃないよね?』って(笑)。洋画の吹替をしているみたいだって。そういう反応してくれて、うれしかったです。自分のやりたい映像をどうやったら作れるか、一生懸命やっていたらここまで来ちゃったんですけど、どうでしょうか皆さん?という心境ですね。緻密な計算に基づいて陰影をつけたり、その計算を敢えて壊してアニメ的な表現でケレン味を出したりして作っていますが、観客がどういう反応をするかまでは計算できないので、楽しみです」。
■興味を増やす種になれば
1985年2月に士郎氏の原作漫画『アップルシード』第1巻が発売されて、今年でちょうど30周年。第5次非核大戦後の荒廃した世界で、高いテクノロジーを残した理想都市オリュンポスを中心に展開される人類再生計画に、元SWATの女性戦士デュナンと、彼女の恋人で全身サイボーグのブリアレオスが巻き込まれていくSFアクション。
士郎氏と同世代の荒牧監督は「発売当初、絵は面白くて、アクションメカもすごいけど、何のことを言っているのかわからない、というのが大方の意見だった。いま話題になっている環境問題、遺伝子研究やクローンの問題、テロといったテーマをすべて先取りして、強引なくらい詰め込まれているのが『アップルシード』なんです。ほかの作品もそうですが、士郎さんは未来から来た予言者なんじゃないかと思う」と話す。
今回、映画第3弾を作る上で士郎氏とも話し合い、「初見の人が観ても楽しめるように、一度リセットして、リブートしたいという思い」で一致した。物語を前2作の前日譚とした狙いもそこにある。「物語をよりシンプルに、オリュンポスの複雑な設定などの状況説明もできるだけそぎ落とし、デュナンとブリアレオス、この二人の主人公にフォーカスすることにしました。原作も知らないし、前2作も観ていないし、SFファンというわけでもない、先入観ゼロで観ても楽しめる、そんなエンターテインメントを目指しました」。
映画1作目から10年、長編監督作品5作目となる荒牧監督にとっても、今作は節目の作品になりそうだ。「もともとメカデザイナーの仕事からアニメ業界に入り、ロボットや宇宙船をアニメーションという表現の中でどうリアルに格好良く見せていくかということを突き詰めていったら、デザインだけじゃなくて演出も大事だということがわかってきて(笑)。CGと出会って、アナログではできなかったこともデジタル化によって絵作りの幅が広がって。モーションキャプチャーの技術が上がってくると、生身の役者の演技力やスタントのアクションの重要性に気づいて。表現したいものがどんどん広がって、面白い。自分自身も勉強になって、成長していけると思えることが、楽しいですよね」。
士郎氏がまいた『アップルシード』という種は、荒牧監督の中で根を張り、枝を伸ばし、3度目の花を咲かせる。「経験という種をまた自分の中にまいて次につなげたいと思いますし、作品を観てくださった方にも興味を増やす種になったらいいなと思います」。
■ストーリー
世界大戦後、国家や情報網が破壊し尽くされ、廃墟となったニューヨークを舞台に、デュナンとブリアレオスは不本意ながらギャングから依頼された仕事をこなして日々の糧を得ていた。街を出たいと思いながらもかなえられない日々が続く中、自動兵器に襲われている男女を助ける。アイリスとオルソンと名乗るこの二人との出会いはやがて、人類の希望を守るための戦いへと、二人の運命を導いていく。
映画『アップルシード アルファ』は今月17日より劇場公開。Blu-ray劇場限定版も同日発売。Blu-ray完全生産限定版は2月18日発売。
Motion picture (C) 2014 Lucent Pictures Entertainment Inc./Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc., All Rights Reserved. Comic book (C) 2014 Shirow Masamune/Crossroad
2004年に発表した映画『APPLESEED アップルシード』で、当時としては新しかった伝統的なセルアニメとリアルな3DCGを融合させた画期的作品を作り上げ、日本は元より海外でも称賛の声を集めた。07年にはその続編『エクスマキナ』を監督。12年公開のハリウッド映画『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』、13年公開の映画『キャプテンハーロック』を手がけてきた。
最新作は、『アップルシード』『エクスマキナ』に続くシリーズの3作目『アップルシード アルファ』(1月17日公開)。前作から8年を経て、オリジナル製作スタッフが再結集。士郎正宗氏による原作漫画の第1巻冒頭部分をモチーフに、前2作の前日譚ともいえる始まりの物語を描き出す。
先行して公開された米、英、仏でヒットを記録し、『アバター』のジェームズ・キャメロン監督が「これはもはや新次元の領域に達している」と絶賛した作品が、満を持して日本に上陸。同作の制作秘話と込めた思いを荒牧監督に聞いた。
■「日本人もCGでここまでできる」というのを見せたい
『〜アルファ』の映像は、まるで実写かと見まごうばかりのリアルさだ。10年前、『アップルシード』で荒巻監督が投げ入れた“セル調の3DCG”は、その後、波紋のように広がって今や日本のアニメ界の主流になりつつある。しかし、今作では敢えて、斜め上を行くような“フォトリアル”な表現にこだわった。
荒牧監督は「アップルシードっぽくていいかな」といたずらっぽく笑う。「1作目の時もフル3DCGは日本人には無理だと言われましたし、僕にとって『アップルシード』シリーズは毎回、ハードルをあげながらいろんなチャレンジがでてきて、新しいものを観てもらえる作品。今回の物語を伝える上でも、フォトリアルなビジュアルの方が説得力も増すと思いましたし、もう一つ、意地みたいなものもありますね。海外の映画やゲームなど、すごいクオリティーのものが多く出ている中で、『日本人もここまでできるんだ』というのを見せたかった」と語っている。
今回、荒牧監督たちが目指した“フォトリアル”は、現実を超えた現実感が演出された“スーパーリアル”な映像。「アフレコの時に声優陣からも言われました『これ実写じゃないよね?』って(笑)。洋画の吹替をしているみたいだって。そういう反応してくれて、うれしかったです。自分のやりたい映像をどうやったら作れるか、一生懸命やっていたらここまで来ちゃったんですけど、どうでしょうか皆さん?という心境ですね。緻密な計算に基づいて陰影をつけたり、その計算を敢えて壊してアニメ的な表現でケレン味を出したりして作っていますが、観客がどういう反応をするかまでは計算できないので、楽しみです」。
■興味を増やす種になれば
1985年2月に士郎氏の原作漫画『アップルシード』第1巻が発売されて、今年でちょうど30周年。第5次非核大戦後の荒廃した世界で、高いテクノロジーを残した理想都市オリュンポスを中心に展開される人類再生計画に、元SWATの女性戦士デュナンと、彼女の恋人で全身サイボーグのブリアレオスが巻き込まれていくSFアクション。
士郎氏と同世代の荒牧監督は「発売当初、絵は面白くて、アクションメカもすごいけど、何のことを言っているのかわからない、というのが大方の意見だった。いま話題になっている環境問題、遺伝子研究やクローンの問題、テロといったテーマをすべて先取りして、強引なくらい詰め込まれているのが『アップルシード』なんです。ほかの作品もそうですが、士郎さんは未来から来た予言者なんじゃないかと思う」と話す。
今回、映画第3弾を作る上で士郎氏とも話し合い、「初見の人が観ても楽しめるように、一度リセットして、リブートしたいという思い」で一致した。物語を前2作の前日譚とした狙いもそこにある。「物語をよりシンプルに、オリュンポスの複雑な設定などの状況説明もできるだけそぎ落とし、デュナンとブリアレオス、この二人の主人公にフォーカスすることにしました。原作も知らないし、前2作も観ていないし、SFファンというわけでもない、先入観ゼロで観ても楽しめる、そんなエンターテインメントを目指しました」。
映画1作目から10年、長編監督作品5作目となる荒牧監督にとっても、今作は節目の作品になりそうだ。「もともとメカデザイナーの仕事からアニメ業界に入り、ロボットや宇宙船をアニメーションという表現の中でどうリアルに格好良く見せていくかということを突き詰めていったら、デザインだけじゃなくて演出も大事だということがわかってきて(笑)。CGと出会って、アナログではできなかったこともデジタル化によって絵作りの幅が広がって。モーションキャプチャーの技術が上がってくると、生身の役者の演技力やスタントのアクションの重要性に気づいて。表現したいものがどんどん広がって、面白い。自分自身も勉強になって、成長していけると思えることが、楽しいですよね」。
士郎氏がまいた『アップルシード』という種は、荒牧監督の中で根を張り、枝を伸ばし、3度目の花を咲かせる。「経験という種をまた自分の中にまいて次につなげたいと思いますし、作品を観てくださった方にも興味を増やす種になったらいいなと思います」。
■ストーリー
世界大戦後、国家や情報網が破壊し尽くされ、廃墟となったニューヨークを舞台に、デュナンとブリアレオスは不本意ながらギャングから依頼された仕事をこなして日々の糧を得ていた。街を出たいと思いながらもかなえられない日々が続く中、自動兵器に襲われている男女を助ける。アイリスとオルソンと名乗るこの二人との出会いはやがて、人類の希望を守るための戦いへと、二人の運命を導いていく。
映画『アップルシード アルファ』は今月17日より劇場公開。Blu-ray劇場限定版も同日発売。Blu-ray完全生産限定版は2月18日発売。
Motion picture (C) 2014 Lucent Pictures Entertainment Inc./Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc., All Rights Reserved. Comic book (C) 2014 Shirow Masamune/Crossroad
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2015/01/17